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3.
お姫様は意外にも働き者だったらしい。
「わあ、大変!お掃除しなくちゃ!」
ムヒョの部屋に入るなり、ロージーは目を丸くしてそう叫んだ。 「…ああ、片づけは苦手でナ…」 モゴモゴと言いながら、リビングまで案内し、手近なソファを勧める。 「それより、腹減ってるか?」 尋ねれば、ロージーはにこっと笑って首を縦に振った。 「うん、もうお腹ぺこぺこ。そう言えば朝から何も食べてないんだ。だって、今朝はもう胸がいっぱいで……」 うっとりと夢見る瞳で話し出すのは、もう完全にスルーである。 ムヒョはキッチンの電話でデリバリーのピザ屋にかけた。 かけている間に、何やら歌が聞こえたような気がしたが、どうせロージーが王子様とやらを夢見て、浮かれて歌っているのだろうと、放っておくことにする。 だが、ピザとサラダとチキンとポテトを頼み、飲み物は炭酸でも大丈夫だろうか…なんて、背後を振り返れば……ドアの向こう…何かが部屋の中を飛んでいくのが目に入って……。
…あ?……鳥…?
何だ?目の錯覚か?それとも霊か?と、訝しげに顔を顰めつつ、とりあえず飲み物の片方はアップルジュースにする事に決め、 「ああ、じゃあ、それで…」 なんて電話を切りながら、ムヒョはロージーを残してきたリビングに戻った。 そして、 「な………っ」 唖然呆然、立ちつくす。 リビングの中は、まるで動物園の鳥の檻のようだった。 鳩や雀がそこかしこにいるのだ。 そして、中央にはロージーが居る。
「みんな力あわせて〜お掃除しましょう〜♪みんな声あわせて〜歌いながら片付けましょう〜♪」
歌いながら、箒を持って…。 ポカンとしているムヒョの前を、羽を使ってゴミを掃いたり、くちばしで片づけをする鳥達が横切る。 洗濯物は洗濯籠へ。 流しに溜まった洗い物も、器用に洗って、拭いて食器棚にしまって……。
……何…ダ……こりゃ……?
鳥達が乙女の歌にあわせて部屋を掃除している…なんて、某ネズミ関係のアニメ映画ならありそうな話だが…。 実際に目の当たりにすると、それはメルヘンなんてモノからはかけ離れて……。
曲芸……? こりゃあ……ショーか何かか?
「オイ…」 「さあ〜みんなで〜歌を口ずさめば〜仕事ははかどる〜〜♪」 ムヒョの声が聞こえない様子で、ロージーは歌いながら掃き掃除を続けている。 「オイ!」 ムヒョは、今度はさっきよりも大きな声で呼び掛けた。 「えっ?あ、ムヒョ!なあに?」 「こりゃ何の真似ダ?この鳥共は何ダ?いつ仕込んだんだ…」 「新しいお友達だよ」 思い切り顔を顰めているムヒョに、ロージーはニコニコと笑って、説明になっていない説明をする。 「………こいつらもアンダレーシアとやらから来たワケか?」 「え〜、違うよ?この国の…この近くにいた鳥さん達だよ☆ボクが呼んだから来てくれたの」 「呼ぶって…どうやって……」 「え?それは勿論、こうやって…。ああ〜〜♪」 ロージーが窓の外に向かって歌声を上げれば、更に十数羽の鳥達が窓から入って来て…。 「バ…ッ!呼ぶナ!!!!」 アホか!と怒鳴るムヒョに、ロージーは驚いたように目を見開き、ぱちくりと瞬きした。 「え…っと、で、でも、お掃除しなくちゃ……」 「何で掃除に鳥なんざ使うんダ!」 「あ…もしかして、ムヒョは鳥さんが嫌いだった?じゃあ、ネズミさんならいい?」 「いいわけねーだろ!嫌いとか好きだとかって問題じゃねぇ!」 「え?えっとえっと……、じゃあ…、虫さんなら…」 「よくねェ!鳥もネズミも虫も、ナシだ!何ダそりゃ、何で動物がオメェの掃除手伝いに来るんだヨ?!」 あり得ねェ…あり得ねェ…と思いながら、ムヒョは周囲で掃除を続けている鳥達を見回す。 ムヒョとロージーの会話を余所に、鳥達は掃き掃除だの拭き掃除だのを続けているわけだが…本当に、一体どうやって仕込んだのかと思うほど、器用にいろいろな事をやっているのだ。 部屋の中が着実に綺麗になっているのが分かるからこそ、何やら焦りを感じてしまう。
「森の動物さん達はボクのお友達だもの。ここは森じゃないけど…、でもやぱり動物さん達はお友達だから…、お手伝いしてくれるんだよ」
にっこりと微笑むロージー。 そんなバカな…と思う。 魔法律家なんて職業に就いているムヒョだから、一般に非現実的だとか非常識だとか言われるような事象は多く目にする。 その全てを現実として捕らえているし、普段、ちょっとやそっとのことでは驚いたりなんてしないのだが…。 ムヒョは改めてマジマジとロージーを見た。
おとぎの国のお姫様が魔法で現実の世界に来た…? ………まさか…、な…。
「ムヒョ?あの…少しだけ待ってね、もう終わるから……。終わったら、みんなにはちゃんと帰って貰うから…」 黙ったままじいっと自分を見ているムヒョに、ロージーは怖ず怖ずとそう言った。
+ + + + +
翌朝…。
目を覚ませば開いたドアの向こうから、ほんのり漂ってくる美味しそうな香り…。 ムヒョはムクリと身を起こし、ぽりぽりと頬を掻いた。
………窓でも開いてたか?
時計を見れば、目覚ましの鳴る10分程度前で…。 ぼんやりとしながら、何ダ?と首をひねる。 何か…、何かもの凄く大変なことを忘れている気がする。 それを何だったかと思い出す前に…。
「いつか〜王子様が〜〜♪」
あ〜〜♪とか、ララ〜〜♪とか聞こえて来たのは、澄んだ歌声。 「……そうか…アイツ……」 一気に昨日の出来事が甦り、ムヒョはため息をついた。
掃除の一件の後、二人は運ばれてきたピザを食べ、ムヒョはロージーを部屋に残して協会に戻ったのだ。 そして、仕事を大急ぎで片付け、再び家に戻れば…。 ロージーはシャワー中で………。 出てきた時には、例のウェディングドレスではなく、もっとシンプルなブルーのドレスになっていた。 胸元の大きく開いたハイウエストのドレスは、切り替え部分からスカートが左右に分かれ、中は白いレースで…。 「どうした、ソレ…?」 よく似合うなんてウッカリ思ってしまいながら聞いてみれば、ロージーはニッコリ笑って「作ったんだよ」と言った。 言われて、ん?と思う。 だってその鮮やかなブルーの生地には、どうも見覚えがあったから………。 ロージーについてリビングに行けば、成る程納得、一目瞭然。 窓には、ドレスの型を抜かれたカーテンが掛かっていた。 唖然とするムヒョを余所に、その窓からは一羽、二羽と鳥達がやって来て、ロージーの寝ようとしているソファに花を運んだりして…それは何とも甲斐甲斐しく…。 「おやすみなさい、ムヒョ」 鳩達に毛布まで掛けて貰い、ロージーはムヒョに挨拶すると、可愛らしい欠伸を一つして…。 そして、お姫様は新しいドレスと花の香りに包まれ、眠りについたのだ。
自由すぎるその行動。 純真で無垢なその寝顔。 安心しきって眠っているロージーを見たら、何だかそれまでの驚いたり呆れたりなんて事は一遍に飛んでしまう気がする。
まあ、いいか……なんて。 何がいいのか、なんて事には目を瞑って…。
ああ、それで昨日は終わったんだったか………。
ムヒョは一つため息をつくと、ベッドを出た。 「……メシ、作ったのか…?」 キッチンを覗き、食卓にセットされた純和風な朝食に少し驚きながら…ムヒョはそう声をかける。 「あ、ムヒョ、おはよう!」 振り返り様の微笑みは、きらめきと花びらの特殊加工付き。 思わずドキリとしてしまうのに、何だってんダ一体…と、眉を顰めつつ…。 「…おう」 「ゴハンねぇ、何か知らない食材とかあったから、美味しく出来てるかわからないんだけど…」 「顔洗ってくる」 ムヒョは洗面所へ向かった。
◆4へ続く ◆2を読む
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とゆことで、プリンセスロジの続きであります。 映画ではネズミとか虫も来ちゃうんですが、流石に…目の前でやられたらイヤ過ぎなので、小鳥さんだけにしました(笑)
次くらいから、話が動けばいいな〜と思ってるんですが、どうかな…。 前へのリンク貼ってませんが、その辺は明日直します〜☆
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2008/03/31(月)/22:23:19
No.84
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