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2.
オレは、メシを食いに行くんダ! 別にアイツが気になったからって、出てきたワケじゃねェ。 断じて違ぇゾ。
うん、なんて…。 誰に何を聞かれているわけでもないのに、心の中で言い訳をしながら、ムヒョはエレベーターに乗り込んだ。 そう、別に声をかけなくてもいいと思うのだ。 ただ、昼食を取りに行くついでに、様子を伺うくらいはしてもいいかなと、そんな風に思った位で……と。 だが、エレベーターのドアが開き、正面に玄関と少女が見えたその時…。
「あのね、君は…ここに何か用があるのかな?」
警備員が少女に声をかけているのを見た瞬間、ムヒョは思わず「遅かった!」と思ってしまった。
いや、別に…何も、遅いとか早いとかねーダロ…。
そんな自分にツッコミを入れつつ、ムヒョは少女がよく見える位置まで移動する。 白いドレスの少女は、予想通り…いや、予想以上の可愛らしさだった。 少女はその可愛らしい顔をパアッと輝かせて、天の助けとでも言わんばかりに警備員を見上げる。 「ああ!良かった!あの、道をお訪ねしてもいいでしょうか?ボク、迷ってしまったみたいで……。ここの人たちはみんな忙しそうですね、声をかけても誰も教えてくれなくて…とても心細かったんです!」 キラキラうるうるした瞳で見つめられ、警備員はたじろぎながらも頷いた。 「ええと…、うん、道って…?何処に行きたいのかな?」
「ボク、お城に行かなくちゃいけないんです!今日は結婚式で…王子様が待ってるんです!」
すっげー発言出たナ…、オイ……。
少し離れたところで聞いているムヒョでも、ちょっとどうしていいか分からなくなる様なその発言。 目の前で言われた警備員は、思いっきり固まっている。 「…あの?もしかして、ここからお城はかなり遠いんでしょうか?何か不思議なところに飛ばされてしまったようで……ボクはどうしたらいいか……。もしよろしければ、馬車を呼んでいただけませんか?」 「……………」 「あの、もしもし?」 言葉を失っている警備員の顔を、少女は小首を傾げて覗き込んだ。 「……えーと、君ね…、名前は?何処から来たのか、分かる?」 「ボク?あ、スミマセン、名乗りもしないで失礼でしたね。ボクはロージー。アンダレーシアの森から来たロージーです」 「………ええと、ロージーさん??アンダレーシアってゆーのは…何処の国なのかな?君が外人さんなのは分かるけど…」 「アンダレーシアはアンダレーシアですよ?」 ニッコリ微笑んでそう言ってから、ロージーはハッとしたように口に手を当てた。 「もしかして!ここはアンダレーシアじゃナイんですか?!」 「…いや、あの、だからね、アンダレーシアってゆーのは……いや、ええと、ここは魔法律協会だよ。日本の…」 分かる?と警備員は困ったようにロージーを見る。 「ニホン?ニホンとゆー国なんですか?わあ、大変!ボク、あのおばあさんに魔法で知らない国に飛ばされちゃったんだ!」 ロージーは大きく大きく目を見張り、そう叫んだ。 そして、大きく身を捩ると悲しみに暮れた声で「どうしよう…!」と呻く。 だが、嘆き悲しんだのはものの数秒で…。 「…で、でもでも!結婚式に間に合わなかったら、きっと王子様が探しに来てくれるはずだよね…?そうだよ、きっと…王子様は来てくれる!だって、運命の人だもの!」 直ぐさま復活すると、再びキラキラ輝く瞳を警備員に向けた。 「ね?あなたもそう思いますよね?」 「えっ?いや…、それは…どうかねぇ…?と、とりあえず、ここじゃあ何だから…警備員室の方に……」 来てくれないかなぁなんて…どうにも強く言えない警備員。 玄関先での珍事は人目について仕方がないから、出来たら中に入って貰いたい。 通り過ぎる人たちの好奇の視線と、噛み合わない会話に困り果て、警備員が尤もな発言をするのだが、ロージーはそれにはキッパリと首を振った。
「お気遣いありがとうございます。でも、きっと大丈夫ですから!」
にこっと…花でも舞いそうな笑顔に、一瞬、警備員もムヒョも目を奪われて……。 だが、二人は同時にハッとする。 「え、いやいや、でも、家とかに連絡した方がいいんじゃ…!」
「電話くれぇ借りりゃあいいダローが!」
思わず一歩踏み出して口を出してしまい、ムヒョはしまった!と思った。 ロージーと警備員が「え?」という顔で、ムヒョを見る。 「六氷執行人!なん…ああっ!そうですかっ!この方は、六氷執行人のお知り合いの方でしたか!!!」 警備員は不思議そうな顔から一転して、助かった!と言わんばかりに顔を輝かせた。 「ば…っ、ちげ…っ!」 違うと即座に否定しようとしたムヒョだったが、何故か警備員の隣で、ロージーまでもが同じように顔を輝かせているのを見れば、喉まで出かかった言葉はそこで消えてしまって……。 「いやぁ、良かった良かった!では、私はこれで…!」 「ちょっ、待て……っ!」 警備員はそそくさと、部屋に逃げ帰って行く。 「あの、どちらでお会いした方でしたっけ?ボク、ここが何処だか分からないから、知っている人に会えて嬉しいです」 にこにこと微笑みながら、ロージーはムヒョにそう言った。 答えるか、無視して立ち去るか、少しだけ迷うムヒョ。 だが、ロージーの瞳は相変わらず期待に満ちて、ムヒョを見つめているから…。 「…オレは…六氷ダ。オメェとは知り合いじゃねェ…」 ムヒョは正直にそう言った。 「ええと、六氷さん…?ボク達知り合いじゃないんですか?でも、さっきの人は…」 「ムヒョでいい」 不思議そうなロージーにキッパリとそれだけ言って。
何でオレはこんな奴に名乗ったりしてンダ??? 面倒見る気なんざねぇダローが…!
ああああ、と思い切り頭を抱えたくなる。 だが、それはもう既に今更過ぎるわけで……。 そもそも、部屋を出てここに来た時点で、こうなることは決定していた気もする。 ムヒョは胸の内で深〜い溜め息を落とすと、覚悟を決めることにした。 だが、
「ねえ、ムヒョ、この辺りに何処か…、休めそうな森か丘か…、お花畑なんて…ありませんか?」
またえらいメルヘンな事を言われ、今決めたばかりの覚悟が早くもグラグラと揺らいで……。 「………公園なら…ある」 沈痛な面持ちで呟くように言う。 「コウエン?すみませんが、そちらに連れていって貰ってもよろしいですか?」 「ああ……まあ、構わねーが……とりあえず、その敬語はヤメロ」 「でも、初対面なのに…」 「オレは敬語は嫌いダ」 キッパリ言われ、ロージーはぱちくりと瞬きして…。 それからまたニッコリと笑った。 「うん、分かった。じゃあ、普通に喋るね」 「それでいい。行くゾ」 「うん、ありがとう!」 ムヒョはため息をつくと、ロージーを連れて建物を出た。 中央公園は大通りを挟んで目の前だ。 何をする気なのかは知らないが、とにかくそこに連れて行けば、何かしらアテがあるのだろう。 多分…と心の中で呟きながら。 ロージーが人波にさらわれぬよう、気を配りつつ、大通りを越えて…。 「ほら、ここだ」 「…わあ、素敵…!噴水があるなんて、お城みたいだね!」 入り口を中に入れば、最初の広場にある噴水にロージーはキラキラと目を輝かせた。
お城、お城って……何処の城ダ…。
「…で?公園に来てどうすんダ?……って、オイ!何処行く気だ!」 「え?」 『芝生に入らない』と立て札のされた柵の中へ、思い切り入ろうとしているロージーに、ムヒョは目を丸くする。 「何処って…、王子様が迎えに来てくれるまで、ここで待とうと思って…。ほら、あの木の下なら丁度良さそうじゃない?」 「何が何に丁度いいんダ!っつーか、王子が迎えに来るって、オメェ本気で言ってんのか?!?!」 焦りからつい声を荒げれば、ロージーはまたぱちくりと瞬きをして…。 「王子様は必ず来てくれるよ」 「………いつ?」 「うーん…、きっと…多分、すぐに!」 「………連絡したのか?」 「ううん、でも、きっと小鳥さん達が伝えてくれてると思うし…。分かるもん!きっと探し出してくれるって!」
小鳥さん???? 分かるんじゃなくて、信じてるっつーんダロ? しかも、絶対勝手に……っつーか、そもそも、王子ってのはホントにいんのか????
はーっとムヒョは思い切りため息をついた。 もの凄くイライラするのは、この会話が噛みあわな過ぎるからだろう。
「…とりあえず、最初から話せ…オメェは、何処から、どうやってここに来た?」
ムヒョは痛むこめかみを押さえながら、ゆっくりと言葉を切って、聞きたい部分を強調した。 「ええとね、ボクは今日、王子様と結婚する筈だったんだ。それで、馬車でお城まで行ったらね、おばあさんが話しかけてきて…、どんな願いも叶える井戸があるって言われたの!どんなお願いも叶えてくれるなんて素敵だよね☆でもね、井戸の前で目を瞑ってお願いをしてたら、その井戸に落とされちゃって……。それで、気付いたらここに居たんだ……」 説明の最後はしょんぼりと…何とも儚げな表情になって…。 「ボクのお願いは…ホントなら、後少しで叶うはずだったのに………」 フウとため息をつき、ロージーはムヒョを見て…目を丸くした。 「あれ?ムヒョ、どうしたの?頭が痛いの?」 「………ああまあ、オメェのお陰でナ…」 「病気?大丈夫?」 ロージーは本気で心配そうな顔をして、ムヒョの額に手を当てる。 「熱はないみたい…。でも、頭が痛いなんて辛いよね」 「…………」 その手をそっと退けて…、ムヒョはマジマジとロージーを見つめた。
紅茶色の大きな瞳を飾る、長い睫毛。 頬は薔薇色で、髪は陽の光のような柔らかな色。 小さな唇も薔薇色。 声は鈴のように澄んで美しく、肌は透き通るように白い…。 更に、真っ白でフワフワで豪華なドレスに身を包んで…頭の上には輝くティアラだ。
可憐で綺麗で…本当に物語の中から抜け出してきたような、お姫様…………。
「……頭の中身もナ…」 一瞬、胸の中に広がった、何やら桃色でふんわりした甘いようなものを、即座に振り払って呟けば、ロージーは不思議そうに小首を傾げる。 「え?なあに?」 「何でもねェ。とにかく…休みてェなら、来い」 周囲から無遠慮に向けられる好奇の目に、仕方ねぇダロ…なんて、また自分自身に言い訳しながら…。 ムヒョはロージーを自分の家に連れ帰る事にした。
◆3へ続く ◆1を読む
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ロージーって、ホントに”お姫様”ってのに違和感がないよね……。 きっと、お砂糖と素敵なもの全部だけで出来てるんだよ。 スパイスはない気がする(笑)
ちなみに、王子はヨイチさんです。 プリンスだし。
3も殆ど出来てるので、遅くとも来週半ばまでにはアプされるんではないかと思います。 その前に学パロの更新が出来たらいいなぁ…。。。どうかな。
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2008/03/27(木)/16:23:07
No.79
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