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7.
「最近、付き合いワリーぞ、お前!」 ぶすーっとむくれたケンジが言う。 学校からの帰り道。 家の近所の公園で、ロージーを待っていたらしいケンジ。 「ごめんね、ケンジ…。また今度遊んでね」 「また今度って、前の時もそう言ったじゃん!」 「うん、ごめん…」 申し訳なさそうに謝るロージーの顔を、傷ついた様子で見上げて…。 「ちぇ、ロージーのばぁーーか!もう知らねえっ!」 ケンジはそう言うと、だっと駆け出した。 「あっ」 ガタガタと重そうな音を立てて揺れるランドセル。 「ケンジ!」 「絶交だかんな!」 ロージーの声にクルリと振り返ったケンジは、そう言ってべーっと舌を突き出すと、また向きを変えて走って行く。
『……何つーか……。帝もちゃっかり側に転生してんのな〜…』
そんな様子を近くの電線に止まって眺め、ヨイチは呆れたような、感心したような声を上げた。 『そんでもってまた熱烈アタックしてるんだね。まあ、今はムヒョが側にいるから、誰がモーションかけても無駄だろうけど…』 そうだねと、エンチューは駆けて行くケンジを見送って呟く。 『あー…成る程、もし…ってやつか?』 『うん、もし、ムヒョと出会わなければ…ロージーはあのケンジって子の事を好きになったかも知れない』 『確かに強い縁を感じるよな。いつも一緒に転生してんのかも…』 『ムヒョもとっとと連れてっちゃえばいいのにね…、今のままじゃ悪戯にあの二人が傷つくだけだよ』 『ああ、それに……』 ヨイチはそこで言葉を切ると、チラリとロージーの側にある電柱の影を見やった。 エンチューも黙って頷く。 最近時々『ソレ』が視界の隅をチョロチョロしていた。 小さなソレは、勿論人ではなく。 どちらかと言えば精霊に近いようなモノで…。 悪意は特に感じられなかったから。
『……誰の偵察隊だろうね…?』
エンチューはため息を一つ付くと、そう呟いた。
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「ねえ、どうしよ〜、ムヒョ?ケンジが怒っちゃってさ〜…」
ハーッと盛大にため息を付いて…。 ロージーはベッドに転がると、丸くなっていたムヒョにそう話しかけた。 「絶交って言われちゃった…」 『あ?ほっとけ、んなの…』 面倒臭そうに答えるムヒョ。 「埋め合わせ…した方がいいよね。今度、動物園でも行こうかな…」 『………』 「あ!もう、ムヒョったら!ネコパンチなんてひどーい!何でそんなことするの?めっ!」 ぺしっと鼻先をぶたれ、唇を尖らせるロージーに、ムヒョは不満げな鳴き声を上げた。 「言い訳しないの!」 『言い訳なんざするか!』 「もう!ムヒョったら…どうしたの?今日はご機嫌ナナメなの?」 『………』 抱き上げられた身体を捩り、ムヒョはロージーの唇をペロリと舐める。 「ひゃ、ん…っ、ムヒョってば…っ!」
「…オメェ、やっぱり帝が気になんのか?」
「え?」 ふいに聞こえた人の声に、一瞬瞑った瞳をバチッと開ければ、真上にムヒョが居た。 ネコの姿ではなく、人の姿で。 「…む…ひょ……?」 えっと…?と戸惑って、ロージーはムヒョを見つめ、小首を傾げる。
あれれ?今、ボクはムヒョと喋ってて…。 でも、目の前にいるのもムヒョで…。 えっとえっと…あれ? ここ、ボクの部屋じゃ…ない…?
いつの間にやら、そこは見慣れた宮殿の室内。 そう、池の中のムヒョの宮殿…。 ムヒョの大きなベッドの上に倒された状態で…。
「帝の側にいてぇか?」
「ムヒョ?何言ってるの?」 再度問われ、ロージーはクスリと笑った。 「ミカドって誰?」 「何ダ、覚えてねぇのか?」 「え〜?だって、知らないよ?」 ヒッヒと笑うムヒョに、ロージーは不思議そうな顔をする。 「そうか、知らねェか…」 知らないよ?ともう一度言う唇に、柔らかく口付けて…。 ムヒョはまたヒッヒと笑った。
知らないことが…覚えていないことが…嬉しかった。
そして、これでもう十分かも知れないとさえ思う。
このロージーを、またここに連れてきてしまってもいいのではないかと…。
千と百もの年月を経ても尚、ロージーの想いは自分にだけ向けられていると…確認出来たような気がして…。
嬉しさにゾクゾクするまま、口付けを深くする。 歯列をなぞり、口内をゆるりと舐めて。 舌先が触れ合えば、跳ねる鼓動と共に身の内で膨らむ確かな欲望。 ぎゅうっと縋るロージーの手に力が籠もり、怖ず怖ずと返して寄越す応えがまた、ムヒョを煽って…煽って……。
だが、ゴロロ…と遠くで鳴った雷鳴に、ムヒョの理性は危うい所で繋ぎ止められた。
「ふぁ…ん…、ムヒョ…もっとぉ……」
熱の籠もったキスがふいに止んだので、ロージーは瞳を閉じたまま切なげに声を上げた。 途端、ニャアなんて…。 聞こえてきたのはネコの声…。 「…え?」 長いヒゲがチクチクと頬に当たり、続いてグリグリと頭を押しつけられる。 艶やかな毛並みが肌を滑る感触…。 「あ、あれ?」 ロージーが思わず身を起こすと、ムヒョはひょいとベッドから飛び降りた。 「え……っ、今…、夢……?」 キョロキョロと周囲を見回すが、ソコは確かにロージーの部屋のロージーのベッドの上。 ただひとつ、さっきと違うのは窓の外の空模様だけで…。 先程まで雲ひとつない程の快晴だった空は、今は暗雲が立ちこめ、ゴロゴロと不穏な音を立てている。
えっとえっと…??? ボク、今……ムヒョとキス…して……。 でもでも、それは人間のムヒョで…。 それでそれで…もっと…なんて……。
ドキドキと騒いでいる胸。 「…ムヒョ……?」 呼べば黒猫はニャアと鳴き、ジイッとロージーを見上げた。 アーモンド型の青い瞳は、見つめていればスウッと細くなって…。 それはまるで笑っているかのように…。 ヒッヒと笑う声が、聞こえそうで……。
” 「でも、憑いているのは本当よ」 ”
アイビーに言われた言葉が、ふいに脳裏を過ぎる。
………あくりょう…って、言ってた……。 悪霊って、悪いものだよね……?
「…ムヒョじゃ…ないよね…?」
不安になってドキドキしながら訊ねれば、ムヒョはニャアと…。 ロージーには否定とも肯定とも区別のつかぬ声を上げ、ゴロゴロと喉を鳴らした。
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とゆことで、お久しぶりでございます〜〜;;; もうひと月近くも更新していなかったのですね…orzorz 何が週一更新だオマエ…と呆れつつ(爆) お付き合い頂いております方には、お待たせして申し訳ありません(ホントに;)であります。
次の〆切まで、また少し間が空きますので、懲りずに週一更新目指すぞー!とか思ってます。はい。 読んでやって頂けると嬉しいのです☆
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2007/10/05(金)/13:30:21
No.68
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