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4.
「…ん……、あれ…?」 小さく身じろいで、ロージーは目を覚ました。 何故だか、自分はベッドに寄りかかるようにして、寝てしまったらしい。 きょろっと周囲を見回し、ぱちくりと瞬きをする。 部屋はもう薄暗くなっていて…、何となく、薄ら寒いような気さえして…。 「ボク…何でこんなとこで寝ちゃったんだろ…?」
制服も着たまんまだし…。 何か…頭が重いし…目が腫れぼったい感じ……?
ぼうっとした思考。 ノロノロと立ち上がり、とりあえず制服を脱ぐ。 もしかすると、風邪でも引いたのかも知れない。
ここのとこ、寝不足だったしね……。
なんて、そんなことを思いながら、パジャマに着替えてベッドに入ろうとすれば…。 「え…?」 捲った布団の中、先客が居た。 ロージーのベッドの、堂々と中央に。 枕に頭を乗せ、すやすやと気持ちよさそうに眠っているのは、小さく黒い子猫…。 「…この子……」 夢じゃなかったんだ…と、ロージーは胸の中で呟いた。
黒い子猫を連れて帰った。
それは覚えている。 艶やかな毛並みをソロリと撫でれば、黒猫は目を開け、ニャアと小さく鳴いた。 そして、少し移動する。 それはまるで、ロージーが寝る場所を空けてくれたかのようで…。 「入れてくれるの?」 なんて、クスッと笑ってしまいながら。 「ありがとう、ムヒョ…」 ベッドに入り、身を横たえて……ふと、自分の言葉にあれ?と思う。
ムヒョ……って…、ボク、いつ名前決めたんだっけ?
だが、この黒猫の名前はムヒョだ。 何故かそれは間違いなく事実だと思う。
「……ムヒョ…?」 呼べば、ニャアと鳴いて…黒猫は青い瞳でジイッとロージーを見つめた。 何だ?と聞いているかのような視線…。 声まで聞こえる気がして…胸がドキドキする。
…ボク、やっぱり風邪引いちゃったみたい……。 何か熱いし、ドキドキするし。 変…かも…。
黒猫はモゾモゾと動きながら、ロージーの横へ。 寝心地を良くするためか、環境を整えるように体を動かして…。 ロージーの腕に頭を乗せ、また眠る。
温かい………。
「フフ、おやすみなさい、ムヒョ…」 そっと呟いて…ロージーの意識はそのままストンと眠りに落ちた。 それは、久々にゆっくりと深い眠り。 ムヒョの隣で、ムヒョの息づかいと温もりを感じて…ロージーは久しぶりに安心しきって眠ることが出来たのだった。
+ + + + +
「ねえ、意味が分かんないんだけど…」 「な?ムヒョのヤツ何やってんだろーな?」 ありゃ一体何のつもりだ?なんて…。 ムヒョ曰く『暇な鬼共』は、ロージーのマンションにまで押し掛けて、ムヒョの様子を観察していた。 「てっきり、連れ帰ってくると思ったのに!」 「いつもはそうしてたよな?」 「やっぱり…」 「変だよなぁ?」 互いに顔を見合わせるエンチューとヨイチ。
「チッ、ホントに暇だナ、おめーら…」
ムヒョはそう言って、ひょいっとベランダの桟に飛び乗った。 姿は小さな黒猫のままである。 ロージーの部屋の窓は閉まっていたが、本来神様であるムヒョにとって、そんなことは問題にならない。 「だってムヒョ、何でネコになんてなってるのさ?」 「ロージーさっさと連れて来いよ。またみんなで楽しく暮らそうぜ?」 何度も転生を繰り返し、何度もムヒョの元へ来ているロージーは、鬼達だって面識がある。 彼らがこんなにロージーのことを気にしているのは、彼らもまた、ロージーが好きだからなのだ。
またみんなで楽しく暮らしたい。
そんな鬼達の気持ちはムヒョだって分かっている。 だが、 「オレは暫くここにいる」 ムヒョはキッパリとそう言った。 「ネコのままで?」 「ああ」 「何でだよ?」 「何でもダ。オメェらにゃ関係ねぇ」 帰れ帰れと、人の姿であれば手でも振っている所だろう。 面倒臭そうにそう言って。 「ひどーい!」 「冷てぇ〜!」 ムヒョの言葉と態度に、二人が不満の声を上げた時…。
「ムヒョォッ?!」
悲鳴のような声が響いた。 ハッと振り返れば、ロージーが真っ青な顔でこちらを見ている。 ムヒョは瞬時に鬼達の姿を白と黒のカラスに変えた。 鬼の姿は通常の人間には見えない。 だが、ムヒョの名前を覚えていたこのロージーなら、もしかして…と言うこともあるとそう思って…。 『イキナリ何すんだよ!ムヒョ!』 『何でカラス!』 『煩ぇゾ。とっとと消えロ』 二羽のカラスがガアガアと非難がましく鳴くのに、ケロリとした顔でそう言うムヒョ。
そのまま桟の上でロージーを待っていれば、
「ムヒョッたら、何でそんなトコにいるのぉ〜?!危ないよぉ〜〜っっ!」
ロージーは半泣きでそう言いながら、ワタワタと窓を開けてベランダに出て来た。 「ねぇ、降りてきて…?お願い…」 涙の滲んだ瞳。 そっとかける声も、伸ばした手も震えている。 『……別に平気ダゾ?』 ムヒョはとんっと桟を蹴ると、ロージーの目の前に着地した。 途端、素早く抱き上げられ、ぎゅううっと抱きしめられる。 「よ、良かった〜〜…!もうもう、ホントビックリしたぁ…!!!」 はぁああっと、深い溜め息。 ドキドキしている心臓。 ロージーはムヒョを目の高さまで持ち上げると、 「もう!あんなトコ登ったらダメ!落ちたら死んじゃうんだよ?」 子どもを叱るように、そう言った。 めっ!なんて言われ、ムヒョの目が丸くなる。 『……分かっタ…』 一応神妙な顔をして、遠慮がちに小さく鳴いてみれば、今度はロージーの方が少し目を丸くして…。
「キミったら…、まるでボクの言うことが分かってるみたい」
そんなことを言って、クスッと笑った。
アホめ、丸分かりダ。
そんなことを思いながらも、猫の特性でゴロゴロと喉が鳴ってしまう。 スリと頭を擦り付ければ、ロージーはウフフと嬉しそうに笑った。 「さ、中に入ってご飯にしようか?」 『…オレはネコのエサなんぞ食わんゾ…』 「ごめんね、待ちかねたよね、お腹空いてるんだもんね?」 『だから…、別に腹は減ってねェ…』 「お魚とお肉、どっちにしようか?ネコ缶はないから、ボクが作ったので我慢してくれる?」 『オメェ、料理なんか出来んのか?』 ロージーの言葉に一々上がる鳴き声…。 それは猫の鳴き声ながら、返事をしているように聞こえて…、ロージーはフフッと笑ってしまう。 「キミってホントに不思議だね」 『オレにゃオメェのがよっぽど不思議ダ。だが、オメェが作るってなら、飯食ってもいいナ…』 「はいはい、今作るから。ちょっとだけ待って、ね?」
そして、ズレた会話をしながら。 一人と一匹は部屋の中へと入っていった。 ピシャリと閉まる窓ガラス。
後には、不満げな声を上げる二羽のカラスだけが残されたのだった。
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ムヒョさんはにゃんことしてロジの日常を側で観察することにした模様。 早くいちゃラブさせたいなぁ…。。。 つか、いちゃいちゃラブラブしてなかったら、それはムヒョロジじゃないよね! あの二人のいつでもどこでもいちゃラブっぷりは、おかしいもの!!! とゆことで、頑張るのだぜ〜☆(何をダヨ)
ところで、26日に発行する話を読み返したら、あまりにも恥ずかしくてどうしようかと思ってしまいました。 何が恥ずかしいって、夢見すぎ? やー、今更なんですけど(笑) ウチのムヒョさんにはロージーはキラキラなお姫様に見えるのだそうです(笑) お姫様って…!(プークスクス) ←ぅおい
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2007/08/24(金)/13:49:50
No.65
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