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5.
「ムヒョ…」
黒い髪。 青い瞳。 歳の頃なら十になるかならないか。
小さな子どもの姿で…。
けれど、その見た目のままの本当に子どもではないことを、ロージーは知っている。
座っているロージーの顔を覗き込むようにして、ムヒョはそっと口付けた。 「オメェ、オレが好きか?」 軽い口付け。 柔らかな視線。 静かな問いかけ。 「うん、好き」 頷いて笑えば、ムヒョもまた笑う。 そうか、と呟くのが何だか嬉しい。
ムヒョが好き。 そう…ボクはムヒョが好き。
それは当たり前のことで、ずっと昔からそうで、好きじゃないなんてあり得ないってくらい、普通のこと。 だから、迷いなんてない。
ちゅ、ちゅと繰り返される口付けに、フフと笑って。 「大好きだよ…、誰よりも何よりも……」 言えば、ムヒョもまたヒッヒと笑った。 「ああ、オレもダ…」
頭上には満天の星空。 静かな水面には満月が映って明るい。
こうして二人並んで腰掛けて…どれ程の月と星とを眺めただろう。
「……ウサギさん…今夜もお餅ついてるのかな…?」 ふと気になってロージーは呟いた。
21世紀を生きるロージーだ。 それがお伽噺だということは、勿論知っている。
だが、池に龍が住んでいるなら、月にウサギが住んでいたって、全然不思議ではなくて…。
きっとみんなが知らないだけなのだと、そう思えるから…。
「あ?……食いてェなら、今度探してきてやるか?」 ロージーの視線を追って月を見上げたムヒョがそう言う。 「ホント?食べたいー!」 月に行ったことのあるムヒョがそう言うのだから、餅をつくウサギはきっと本当にいるのだと、そう思って。 ロージーはニコニコと笑った。
フワリと…優しい風が吹く。
「ん…、む…ひょ……」
ナァー…と、猫の鳴き声がした。 ちりんと小さな鈴の音も。
「…どうして……?」
尋ねた自分の声で、ふっと意識が覚醒した。
どうして…? 何が、どうして?
何だっけ?なんてぼんやりした頭で考えていれば、スリ…と、押しつけられる温かなもの。 長いヒゲがチクチクと、肌にあたる。 「フフ、ムヒョッたら…ヒゲがくすぐったいよぉ」 「ニャア」 「ん?甘えん坊さんだね…腕枕がいいの?」 側にピタリと寄り添い、腕を枕にするムヒョにクスクスと笑って…ロージーはその小さな身体を軽く抱きしめた。
「…大好きだよ…、誰よりも…何よりも……」
って、ボクったら何言ってるんだろ…。 ネコ相手におかしなの。
苦笑するロージーに、けれど、黒猫はニャーと返事をするように鳴く。
『ああ、オレもダ…』
「……ねえ、ムヒョ…。時々ね、キミの声が聞こえる気がするよ?」 ジッと見つめれば、青い瞳もジッと見つめ返して…。 「もしかして、キミ…喋れたりする…とか…?」 ロージーは思い切って聞いてみた。 「ね、ロージーって言ってみて?」 『………喋った方がいいのか?』 「…うーん。やっぱり、魔女の血を引いてないとダメなのかな…」 『…魔女?』 不思議そうに首を捻るムヒョ。 ロージーの頭の中には、あの世界的に有名な魔女アニメが浮かんでいるのだが、そんなことは勿論分かるワケがない。 「ごめんねぇ、ムヒョ…ボクが普通の人間だから…」 『……動物の声が聞こえる人間がいるのか?普通に??』 「キキちゃんとジジ君みたくイロイロお喋り出来たら素敵なのにね」 『ダレだ、そのキキとかジジとかってのは…?』 そしてまたずれた会話をしながら。
ムヒョとロージーの夜は奇妙に平和に更けて行くのであった。
+ + + + +
さて、ムヒョがロージーの家にやってきて数日が経った頃…。
「……あなた…」 「え?」 ふいに小さな声に呼び止められて、ロージーは足を止めた。 それは、新校舎と旧校舎を結ぶ渡り廊下の途中…。 呼び止めたのは、一人の女生徒だった。 やや冷たい印象だが、とびきりの美人といえる。
…わぁ…、外人さんだ…!
自分の外見を棚に上げ、少女の髪と目の色からそんな判断をするロージー。 「あの、ええと…何か?」 「あなた、えらい物を憑けてるわね…」 「へ?」 何を言われたのか、全く理解できなくて…。 ロージーは目を丸くして少女の綺麗な顔を見つめた。 「特に困ったことはないのかしら…?でも、何だったらお祓いしてあげてもいいわよ」 「え?えええ?お、お祓い??」 驚いているロージーにズズイと迫る女生徒。 色素の薄い瞳が、ジッとロージーの瞳を覗き込む。 「そうね、やっぱり祓った方がいいと思うわよ?学生割引きもあるし…」 「悪いことは言わねぇよ。お祓いして貰えって」 横から突然出てきた男子生徒が、ロージーの肩に腕を回す。 「あ、あああ、あの、どなた…ですか?」 「ん?ああ、オレはミックてーんだ。こっちはオレのねーちゃん。アイビー姉ちゃんのお祓いは効くぜぇ?どんな悪霊も一発退散ってもんよ♪」 「あ、悪霊ぅ〜〜〜っっ???」
この人達、一体何〜〜〜っっ?!?!?!
あまりにも突然で、あまりにも突飛な『悪霊お祓い』発言。 驚きにただただ唖然として、ロージーはアイビーとミックの姉弟を見つめることしか出来なかった。
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ちょっと短いですが、続けると長くなっちゃうのでこの辺でとりあえず。 コルトロウ姉弟は前から一度出してみたかったんですよ〜♪ 胡散臭い感じで行きたかったので、今回こんな出し方で。
月にウサギが住んでるって素敵ですよね。 池に龍、月にはウサギ、海には人魚……うーん、神秘ダネ♪
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2007/08/31(金)/15:29:01
No.66
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