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3.
「…はあ……」 何だか溜め息が漏れる。 ぼんやりする頭と、重たい体で、ロージーは通学路を歩いていた。 体調が優れず、学校を早退しての帰り道である。
ボク…どうしちゃったんだろう……。 何か、悪い病気だったらどうしよう…。
そんなことを思えば一層気が滅入って…。 「はあぁ……」 また溜め息を付いた時、突然、ガサガサと近くの木の枝が揺れた。 「ふわわっ?!?!」 驚いて飛び上がりそうになりながら横を見れば、そこにいたのは一匹の小さな黒猫……。 ナー…と小さく声を上げ、木の上からロージーを見下ろしている。 「何だ…ビックリした……」 真っ直ぐに見つめるアーモンド型の瞳…。 「フフ…、キミ…目が青いんだね…?」 声をかければ、また小さく鳴いて…。 それはまるで返事をするように…。
この子…何か不思議だな…。 ボクに何か言いたいことがあるみたい…って…、お腹が空いてるのかな?
「ん〜…何かなかったかな…?」 ロージーはゴソゴソとカバンを漁った。 「…ありゃ、ごめんねぇ、アメしかナイや……」 紅茶のアメなんて、キミは食べられないよね…と申し訳なさそうに言うロージーに、ネコはまたナーッと鳴く。 「…お腹空いてるんだよね…?キミ、お家は近いの?それとも野良君だったりする?」 手を差し出せば、顔をすり寄せ、ペロリとその指を舐めて…。 ザリッとした独特の感触。 ネコはまた、ナーッと一声鳴いた。
人懐こい子だな…。 ボクを全然警戒してない…。 毛並みも綺麗だし、やっぱり近所の飼いネコなのかな…。
そう思えば何やら残念で、ションボリとしながら…。 「……ボク、そろそろ行くね?じゃあね…」 そう声をかけて手を引っ込め、ロージーは歩き出す。 すると、トスッと…背後で小さな物音がした。 続いて、足下にまとわりつく温かな気配。 「あれれ?どうしたの?」 ナァーゴとネコが高く鳴く。 下から見上げる青い瞳。 宝石みたいなその瞳を見つめていると、何やら不思議な気持ちになって…。
「……ボクと一緒に来る?」
気付けばそう言って、ロージーはネコを抱き上げていた。
どうしよう…。 どうしよう…! どうしよう!!! 連れて来ちゃった!!! 誰かの飼いネコかもしれないのに…!
バタンと玄関のドアを閉め、ロージーはネコを下に降ろすと、深い溜息を付いた。 ドキドキと騒ぐ鼓動。 ものすごくいけないことをしたような気がして、今更ながら、返してきた方がいいだろうか…なんて思ってしまう。 だが、そんなロージーを余所に、ネコは初めて来たはずの家の中を我が物顔で歩き、ロージーの部屋へと入っていって…。 後を追えば、既にベッドの上で丸くなり、すっかりくつろいでいる様子。 「キミ、お家は何処なの?なんて……」 ベッドに顎を乗せ、キミの言葉が分かればいいのにね、なんて呟いたロージーをチラリと見てから、ネコは身を起こすと、寄ってきた。 スリ寄せられる頭。 ゴロゴロと喉の鳴る音が、耳元で聞こえる。
フフ、不思議な音…。 これって何が鳴るんだろ…? 何で鳴るんだろ…? 人間もお腹が鳴るとかあるけど…そーゆーのと一緒なのかな?
ぼんやりとそんなこと考えていればハッと思い出して、ロージーは寄りかかっていたベッドから、身を起こした。 「…って!そういえば…!お腹空いてるんだよね?待ってて、今何かあげるから!」 だが、立ち上がろうとした瞬間、その手をガシッと掴まれて…。
「…行くナ、腹は減ってねェ」
唐突に、人の声がした。 「…え……?」 振り返れば、そこにいたのは一人の子ども…。 黒髪に青い目の…、着物を着た……夢に出てきたままの、あの子どもがそこにいた。 「…………」 ぽかん、と。 ロージーの目が大きく見開かれて…。 口もあんぐりと大きく開かれて…。 ただ、目の前に突然現れた子どもを凝視することしか出来なくて……。
「…久しぶりダナ……つっても、オメェはオレのこと知らねェよな…」
ヒッヒと苦笑するその子どもの顔を見つめている内、何故かロージーの胸はぎゅうっと苦しくなってくる。 ふるるっと振られた頭。 金色の髪が、わさわさっと動いて…。 ポタポタと、周囲に涙が散った。 「…ってる…!」 掠れた声が喉から出る。 「あ?」 「ボク、知ってるよ…!」 「…何…だと…?」 驚きに丸くなる青い瞳。
ああ、もう…何でなのか分からない。
何で涙が出るのか。 何でこんなに胸が苦しいのか。 痛いと思う程鼓動が騒ぐのは、嬉しいからなのか、悲しいからなのか。
でも、とにかく分かった事……。
ボクはキミを知ってる。
「キミは…ムヒョ………!」
そう、ムヒョだ…!と、名を呼べば一層涙が溢れて…。 ロージーはただもう夢中で、ムヒョに抱きついた。
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ネコって、驚くと腰抜かすんですよね。。。
いや、ロージーが飛び上がりそうな程驚いたってトコ書いてて、これだけ近くで人間がぎょっとしたら、きっとネコの方も驚いてるよなー…木の上で腰抜かしたら危ないよな〜…とか思って(笑) ま。 ムヒョだったので、そんなことにはならないワケですが。
さて。 これで一気に終わり?と思われた方もいらっしゃるかも知れませんが、まだ暫く終わらないです。 この話、ちょっといろんな人をワイワイ出そうかな〜と思ってるので。 今まで書いたことナイ人とかが出てくる予定です。
のんびりお付き合い頂けると嬉しいです〜☆
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2007/08/03(金)/16:00:34
No.63
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