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5.
「オイ。恋愛ってヤツの正しい手順を教えロ」
翌日…。 ヨイチは登校するなり陰へと呼ばれて…。 何だよ?と聞く前に、ムヒョがそう言った。 「はい?」 何か聞き間違えたかと思い、パチパチと瞬きを繰り返した後で、もう一度ムヒョを見つめるヨイチ。 今、何かムヒョの口からあり得ない発言を聞いたような気がする。 だが、 「…だから、恋愛の正しい手順ダ」 再度、真面目な顔でムヒョは言う。 仁王立ちの彼。 尊大な態度と言葉のギャップに、ポカンとしていたヨイチだったが、やがて…。 「…はは〜ん、さぁてはあの子に泣かれたんだろ〜?何やっちゃったんだよ、ムヒョ〜♪」 その顔にニヤニヤ〜とからかいの笑みが広がった。 「ウルセェ。いいからとっとと教えロ」 「ふぅん♪お前にそこまでさせるってのは、どんな子なのかねぇ…興味湧くなぁ♪」 「ヨイチ…」 「おーおー、睨むなって。わかったわかった。んで?正しい手順だっけ?」 コクッと頷いたムヒョを物珍しそうに眺めてから、ヨイチはそうだなぁと呟く。 「ま…正しいってのも別にないと思うけどな…。ムヒョの場合、何よりの問題は口が足りないって事じゃないか?」 「…………」 付き合いの長さ故の遠慮のなさでズバッと言われ、ムヒョは顔を顰める。 「まずはちゃんと気持ちを伝えて、通じ合ったな〜ってトコで手でも繋いでみるとかさ」 「…手を繋ぐ…?」 「そ。まずはそこからが妥当じゃねぇ?お前なら、さ?」 ニッと笑ってウィンク一つ。 恋愛経験豊富(本人談)なプリンスヨイチ様のアドバイスに、けれどムヒョは思い切り微妙な顔をした。 「…………」 「…おい?」 ヨイチが怪訝そうに眉根を寄せる。 「何だよ?まさかお前…イキナリ押し倒したりしたんじゃねーだろな?」 「…押し倒したワケじゃねーが、まだ早いと言われた」 「マジでか?!?!何したんだよ?!」 「つーか、それが分かんねェ。そもそも何に対して早ぇんダ?」 謎だと呟くムヒョの問いに、ヨイチもまた一瞬沈黙して……。
「……こ…心の準備…かな?」
えへっなんて誤魔化し笑いを浮かべながら…。 「…嘘臭ぇ…」 見るからに胡散臭そうに顔を顰め、ムヒョが呟く。 その上、 「チッ、ヨイチに聞いたのが間違いだったナ…」 なんて毒づいて…。 「うわ、ひっでー!んなこと言って、無理矢理ヤってロージーちゃんに訴えられても知らねーぞ!」 「アホめ!んなことするか!」 ぷいっと顔を背け、ムヒョはふとロージーを思い浮かべた。 今朝起こしに来たロージーは、昨日のことがあるからか、ムヒョに接近しようとはしないで…。 食堂へ行くときも学校へ行くときも、やや距離をとり、何処か身構えているのが分かったから…。 失敗するとこうなるのだという事を、ムヒョは身を持って学んだのである。
泣かれるのもイヤだが、避けられるのはもっとイヤだと思う。
ムヒョは胸の内で深々と溜め息を付いた。 これから暫くあんな調子だったりするのだろうか。 そう思えば、何とも気が重く情けない。
「……ま、とにかくあれだ。恋は焦らずってヤツだな」
少し沈んだ空気を感じ取ってか、ヨイチは溜め息をひとつつくと、励ますように言う。 それも何だか癪に障って…。 ムヒョは少しばかり口をへの字に曲げて見せた。
そして、放課後も…。
隣を歩くロージーとは、微妙な距離が空いている。 「………」 校門を出る前から、会話は途絶えて…。 何とも居心地の悪い沈黙と空気の中、ただテクテクと二人は並んで歩いていた。
昨日、ロージーはムヒョが好きだと言った。 ムヒョもロージーが好きだし、ちゃんとそう言った。 だが、お互いに好き合っていても、恋愛というのは簡単には進まない物らしい。
『まずはちゃんと気持ちを伝えて、通じ合ったな〜ってトコで手でも繋いでみるとかさ』
苦い思いを噛み締めながら、ヨイチのアドバイスを思い出して…。 「おい…」 「な、何ですか?ムヒョ先輩?」 スッと動いたムヒョに、思わずじりりっと後ずさるロージー。 「……逃げんナ」 ムヒョは少し傷ついた顔で、そう呟いた。 「手ダ。手…」 「え?」 手?と首を傾げたロージーの手を、ムヒョは強引に掴んだ。 「え、わ、わわわっ、ムヒョ先輩?!」 かああああっと真っ赤に染まるロージ−の顔。 何だか気恥ずかしくて、ムヒョはぷいっと視線を逸らす。 「帰るゾ」 「えっ、こ、このまま?手を繋いで…?」 グイと手を引けば、驚きに満ちた声と顔でそう聞かれ、ムヒョは再びロージーを見つめた。 「…イヤか?」 勢い良く左右に振られる頭。 「そ、そんなことはないですっ!」 「なら、行くゾ」 「はいっ!」
その『はいっ』は、もの凄く元気が良くて…弾んでいるみたいで…何やらすごく嬉しそうに聞こえたから…。
ムヒョは半歩先を歩きながら、ふっと笑みを浮かべた。 何だかホッとして、とても嬉しかった。 自分の手の中にあるロージーの手。 それは温かくて…同じ男なのだろうかと思う程、柔らかで…。 手を引いて歩きながら…チラリと見れば、ロージーの俯いたその口元がハッキリと笑みの形を刻んでいるのが見える。 少しはにかんでいるような、とにかく嬉しそうなその笑み。 「…………」 何やら胸がドキドキと騒いだ。
……成る程、心の準備、か…。 今、コイツの心の準備はここまでなら出来てるってことなんダナ。
ヨイチが言ったときは、もの凄〜く嘘臭く感じたその事が、ロージーを見ていると妙に納得出来て…。
「…まぁ…、少しくらいは待ってやる」
ムヒョは独り言のように呟いた。 「はい?」 きょとんとした瞳が、上を向く。 昨日触れた柔らかな頬。 笑みの形に少し上がった唇。 いつ見ても可愛らしいロージーに、また触れたいと思うのを、今日はぐっと我慢して…。
恋は焦らず、らしいからナ。
「いや、何でもねェ。行くゾ」 ヒッヒ、と。 ムヒョは困ったように笑いながらそう言った。
+ 続く + 4を読む +
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1週間に1度くらいは何か更新を!とか思うので、SSの続きを。 たまにこーゆーぴゅあ〜なの書くのもいいよねぇ〜。 でも、妙に気恥ずかしいんですが(笑) 恥ずかしいと言えば、ムヒョに恥ずかしいコト言わせるのって楽しいです♪ 恋愛の正しい手順だの、心の準備だの、恋は焦らずだの。。。 原作ムヒョは絶対言わないよ〜♪ 分かってるからこそ、うひゃ〜、六氷さんたら恥ずかしい〜vvvとか、何か楽しくなっちゃうんだよな♪ 同人屋って素敵(笑) ちなみに、ロジ子の場合は乙女恥ずかしいもエロ恥ずかしいも、本人自覚なしでぺろっと言っちゃう感じなので、それ自体が楽しいというより、それに対してのムヒョの反応を書くのが楽しいのだった。 周りがどよめいてる中で、ムヒョは無反応だったりしても楽しい…vvv ムヒョロジって素敵だわ…vv ←何か考えちゃった模様
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2007/07/05(木)/15:38:55
No.58
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