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4.
「思ってた以上に行動が早いじゃないか、ムヒョ」 ペイジの授業を受けるべく、教室を移動していれば、その途中で…。 ふいに、背後からそう声を掛けられた。 「あ?」 ムヒョが振り返れば、そこにはペイジの姿…。 教科書を小脇に抱え、何やらにこにこの笑顔でムヒョを見ている。 「草野君とお付き合いを始めたって?しかも、みんなの前で申し込んだとか…」 「何でテメェがんなコト知ってんダヨ…?」 付き合うことも、ロージーが好きなことも、別段隠す必要を感じては居ないムヒョだったが、それでもからかわれるのはいい気分ではない。 余計な世話焼くんじゃねぇゾと、顔を顰めれば、ふいに……。
「ダメだよ」
なんて。 にこにこの笑顔のまま、ペイジはハッキリそう言った。 「…あん?」 「許可しません」 「何をダ?」 「草野君との交際。てゆか、キミ恋愛禁止」 「………」 思わぬペイジの言葉に、ムヒョは言葉を失って…。 マジマジと師匠の顔を見つめ、理由が語られるのを待つ。 だが、ペイジは特に言葉を続ける気はないようだった。 そのまま何事もなく横を素通りしていこうとするのに、ムヒョは焦ってしまう。 「おい、ジジイちょっと待て!何だってイキナリんな事言われなきゃなんねーんダ!」 「不服?」 「ったりめーダロ!」 「だってムヒョ、キミは執行人にならなきゃいけないんだよ?」 さも当然のことのように言われ、ますます混乱して…。 「ああ、だから?」 問えば、ペイジは肩を竦め、また当然と言わんばかりに訳を話す。 「恋に浮かれて、勉強や訓練に身が入らなくなったら困るでしょ?」 「………浮かれてねェだろ、別に…」 「既にオ−ラがピンク色だよ」 そう言って、ペイジはマジッとムヒョを見つめた。 そのいつになく真剣な眼差しに、冗談を言っているのではないと感じて…。 「……アイツに…何かする気か…?」 心配になって聞いてみれば、 「それは君次第ってことで」 この何処かとぼけたような師匠は、ひょいと肩を竦めてみせた。
「ま、そーゆーことだから、今日も頑張ろうか♪」
そして、ポンッと…。 すれ違いざまに肩を叩かれて…。 何やら妙に楽しそうなペイジに、ムヒョは思い切り顔を顰めて見せた。
+ + + + +
夕食後。 ロージーは誘われるまま、ムヒョの部屋を訪れた。
「ムヒョ先輩…ずっと一人でここ使ってるんですか?」
朝も気になったことを尋ねてみれば、ムヒョは少しだけ顔を顰めて…。 「先輩も敬語もいらねェっつったろ?」 「…でも…、そんな急には無理ですよぉ」 「そんなもんか?」 「段々、馴れていきますから、ね?」 ニコッと笑われ、思わず頷くムヒョ。 どうもこの、ニコッという笑顔には弱い。 「……先月までは同室のヤツがいたんだがナ。休学するってんで、引き払ったんダ」 「ふぅん…じゃあ、寂しいですねぇ…」
…いや、オレとしちゃ都合がいいと思うがナ…。
一瞬言葉に詰まったムヒョの、その僅かな沈黙を何と取ったのか…。 ロージーは慌てたように口元を押さえた。 「あ、ムヒョ先輩は寂しいなんて思わないですよね!ボクってば、何言ってるんだろ…」 エヘヘなんて誤魔化すように笑うのさえ、何やら眩しく見える。 いくら見ても見飽きない、コロコロと変わる表情…。 側にいれば何やら胸がざわめいて…。 何となく、昼間ペイジに言われたことを思い出す。
オーラがピンク…か…。
「…オメェ、誰かに何かされたら言え」 そう言いながら、ムヒョは手を伸ばすと、そっとロージーの髪に触れた。 何となく、触れたくなったのだ。 ロージーは一瞬だけ身を竦めたが、それでも、特に嫌がることなく…。 ただ、不思議そうな顔をするだけで…。 「ペイジでも他の教師でも…生徒でも…」 「え?先生に…ですか?えと、何かって何を…?」 「まだ分からん」 「???」 ぱちくりと瞬きする大きな瞳。 長い睫毛が頬に降りたり上がったりするのを見つめて…。 「何かおかしな事があったら、何でもいい。絶対に言え」 「はあ…」 怪訝そうな顔をするロージーに小さく笑って…ムヒョは今度は薔薇色の頬に触れた。 そして、そのまま顔を近づけ、軽く口付ける。 「…っ!」 ぎょっとして、そのまま固まったロージー。 大きく見開いた瞳で自分を凝視しているのに、ムヒョはヒッヒと笑った。
成る程、確かにペイジがクギ刺すのも分かるナ……。 オレは今、相当浮かれてる…。
「あ、あああ、あのっ、い、いま、今のは…」 「キス…初めてか?」 聞けば、ボンと音がしそうな程の勢いで真っ赤に染まるロージー。 「き、キス…ですよね…、きす…やっぱり…」 「オレも、初めてダ」 「え、え?そうなんですか?」 「誰かに触りたいなんて思うのもナ」 新発見ダ、なんて言って笑うムヒョに、ロージーはまた目を丸くして…。 「さ、触りたい…って…」 ますます紅くなって俯く。 「イヤか?気持ち悪ぃか?」 「そ、そんなことは…ない…です…けど…」 段々と小さくなる声。 ムヒョはその回答に満足し、俯いたままのロージーをぎゅうっと抱きしめた。 柔らかな身体からふわりんと昇る、何やら不思議といい匂い。 続けて唇を落とそうとすれば、 「ちょ…っ、ちょちょっ、ムヒョ先輩っ!ちょっと待って下さいぃっ!」 ロージーが慌てたように制止の声をあげた。 「あ?何ダ?」 「あのっ、ボク達まだ、おつきあい一日目ですっ!」 「だから?」 「だ、だから、その、あの、まだ…早いと思いますっ!」 「何がダ?」 「えっ?!ええっと、あの、その……だから、き、き…キス…とか…、抱きしめたりとか…、それからそのぉ…あのぅ……」 この流れで行くと、次はこのまま押し倒されると気付いたのだろう。 しどろもどろになりながら、懸命に説明するロージー。
早い…か?
ロージーの言葉に、ムヒョは一瞬考えてしまう。 そもそも、今まで恋愛なんて物に興味はなかったから、他のみんながどうしてるなんて、そんなことは全く知らない。 ムヒョが従うのは自分の本能なのだ。 ムヒョの本能は今、ロージーにもっともっと触れてみたいと言っている。 だが、恋愛は一人で出来るものではないと、ヨイチからそんな忠告をされたことも思い出したので…。 「…なら、オメェはどのくらいが妥当だと思うんダ?」 ひとまずロージーを離し、そう聞いてやることにした。 「ど…、どのくらいって…、妥当とか…そんなこと言われても…、だって…」 「大体、早い遅いってのは何処の何奴が決めた事ダ?それには相場があんのか?」 「え…、ええっと…わかりません…けど、やっぱり、今日の今日は絶対早いと思います!」 キッパリと言い切られ、ムヒョはフーンと呻る。 「じゃあ、明日ならいいのか?」 「あ、明日…って……明日?」 ムヒョの発言に、ロージーは思わずマジマジとその顔を見つめてしまって…。 正面からぶつかる深青と明るい茶色の瞳。 ムヒョはふざけて言っているようには見えない。 至って真剣そのものだ。
「……六氷先輩…、ボクのこと…どう思ってるんですか?」
ふいにそう聞かれ、今度はムヒョが虚を突かれて瞬きをする。 「あ?」 「か…、身体が目当てなんですか?」 言いながら、かああっと紅く染まる頬。 「は?おい、何ダそりゃ…」 ムヒョを映している瞳が、ジワジワと涙に浸食されて行く。 「おい…、泣くナ…」 「だ、だって…っ、むひょ先輩ってば…、イキナリキスするし…っ、ボク、こんなの、初めてなのに…っ」 ぼろぼろぼろと、勢いよく溢れ出す涙。 どうやら、自分はえらい失敗をしてしまったらしいと気付き、ムヒョは困ったように顔を顰めた。
「…イキナリはダメだったのか?なら…、正しい手順を言ってみろ。やり直してやる」
「た、正しい手順…って…!酷いです…!ムヒョ先輩、ボクのことからかってるんですね…っ」 やっぱり遊びだったんだ!なんて、うわぁんと泣き出され、ムヒョはオロオロしてしまって…。 困り果てて、とにかくぎゅうっと抱きしめた。 「からかってねェし、遊びでもねェ!だから、泣くナ」 子どもをあやすようにぽんぽんと背中を優しく叩いたり、頭を撫でたりしてみる。 優しいリズムと優しい仕草。 それに少しだけ落ち着いたのか…。 「ほんと、に…?ボク…っ、ボクは…ムヒョ先輩が、好きです…っ。ムヒョ、せんぱい、は?」 ひっくひっくと大きくしゃくり上げながら、ロージーは尋ねた。 泣きべそのその顔はあまりにもあまりにも可愛らしい。 「…決まってんダロ?」 赤く染まったその鼻先に、ムヒョはちゅっと口付けを落とす。 好きだと言われて嬉しかった。 だから、ムズムズするような気持ちに後押しされて、 「好きダ」 ムヒョはそう告げる。 「ムヒョ…先輩ぃ〜〜〜っ、ふぇええ〜〜〜ん!!!」 ぎゅううっとしがみついて泣くロージー。 力が抜け、僅かばかりの抵抗がなくなった為、より密着する身体…。 ああ、とムヒョは思った。
ロージーを抱きしめたり触ったりするのは気持ちがいい。 だが同じくらい、ロージーに抱きつかれたり、触られたりするのも、気持ちがいい。 成る程、恋愛は一人では出来ない…それはきっとこういうことなのだと…理解して……。
好きでも急ぎ過ぎはダメなのか……。 …面倒臭ェ気もするが……仕方ねぇナ……。
泣いているロージーの頭をよしよしと撫でてやりながら、ムヒョは少しだけ反省して、溜め息を付いた。
+ 続く + 3を読む +
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書いてあったのに、アプするのを忘れていたこの話……orz ようやくのお目見えとなりました。 六氷先輩、大分浮かれてらっしゃいます。
てか、ここ最近、前ジャンル二つのSSのアクセス数がものすごく…。 僅か10日でかるーく魔法律を抜き去ってくれました……。 置いてあるSSの数が違うので、仕方ないっちゃ仕方ないんですが、それでも現ジャンルが抜かれるなんざ不甲斐ない…不甲斐ないよあたし…orz と反省気分です。 そんなわけで、夏コミ修羅場に入るまで、こまめな更新を心がけたいと思います〜☆
そして。。。 リンク切れ…修正…されてないですね〜;;;; えええ??おかしいなぁ〜?とか、かなり混乱なのですが; ああもうこの人ホントに抜けてるんだから!とゆことで、大目に見てやって下さい〜(こら)
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2007/06/27(水)/16:43:05
No.57
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