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15☆
だって…いないんだよ……? エンチューのママは…だって、死んじゃったんだもの。 時計なんて鳴ってない。 時計なんて何処にもないのに…。 あの部屋には誰もいないのに……。 ムヒョ……どうするの…?
ムヒョの手を引いて屋敷を進むエンチュー。
その後をついて行きながら、ロージーはどうしていいか分からずにいた。 ドアが開いたままのその部屋に、エンチューの母親はいない。 いるはずがないのだ。 だというのに何故、ムヒョは一緒に行ってやるなどと言ったのだろう。 母親はいないのに、どうするつもりなのだろう。
それとも、いるのだろうか…?
エンチューのように、霊体で…本当の幽霊として、この屋敷に留まっているのだろうか…?
『ママ、ママ、起きて!時間だよ!』 小さく開いていたドアを大きく押し開け、エンチューは中に入る。 暗い室内。 案の定、部屋はもぬけの殻だった。 家具の一切もなく…、残されているのは、窓にかかった古いカーテンだけ…。 何年もの間放置されていた室内は、他の部屋と同様に白く埃が積もっている。 『ママ?』 不思議そうに母親を探すエンチュー。 『ママ、何処にいるの?』 何もない空間に、少し戸惑っているのか…。 床についた跡から、恐らくベッドが置いてあったのだろう場所を見つめ、首を傾げて…。
「い…っ、いるわけない!いないんだよ、最初から!」
堪らなくなって、ロージーは叫んだ。 「バカ!ロージー!」 「いけない、ロージー君!」 ヨイチとペイジが制止するが、ロージーは構わず続ける。 「ママはもういない!エンチュー、キミのママは死んじゃったんだよ!」
『ママは死んだりしないよ』
エンチューが少し眉を顰めてロージーを睨んだ。 むっとしたようなその顔…。 それは、何を言っているのかと、怪訝そうにも取れる表情で…。
『ボクのママは死なないよ』
エンチューはそう言って唇を尖らせた。 ロージーの身体がガクガクと震え出す。 怖かった。 エンチューが、ただひたすらに母親の存在を信じているのが怖かった。
『ママはボクを残して何処かに行ったりしないって言ったんだから!』
エンチューはそう呟くと、また室内を見回す。
どうしたらいいんだろう…。 どうしたら、ムヒョを取り戻せるの? どうしたら…。
『ママ?ママ、何処にいるの?トイレかなぁ…』 「…探してみるか?」 母親の姿を探すエンチューに、ムヒョが訊いている。 『うん。行こう、ムヒョ!』
どうして…? ムヒョは分かってるでしょ? なのに、どうして…探すなんて……。
「………」 不安に足が竦んで立ちつくしていれば、ヨイチがぽんと肩を叩いた。 「ロージー、行くぞ」 「…はい…」 もう片方の肩にはペイジがそっと手を置いて…。 「平気かい?あまり、エンチューを刺激しない方がいい」 「でもでも…っ」 言い募ろうとするロージーに、ペイジは首を振って見せる。 「キミの言いたいことは分かるが…、それはとても危険だよ」 「でも…このままじゃ…」 「ムヒョはただエンチューの後に付いて歩いているように見えるかも知れないけど…、エンチューの力を押さえているんだ。このまま、様子を見た方がいい」 「ムヒョを信じようぜ、ロージー」 「…でも…」 ヨイチの言葉に、ズキリと胸が痛んだ。
ボクは…ムヒョを信じてないんだろうか…。 信じてないから、こんなに不安なの? でも、絶対大丈夫なんて思えない…。 もし、ムヒョがエンチューに連れて行かれちゃったら…このままずっとエンチューと一緒にいることを選んだら……。
「…ロージーくん、ほら、見失うと危険だ」 ぎゅうっと目を瞑ったロージーの肩を、ペイジは優しく叩いた。
エンチューはムヒョの手を引いて屋敷を歩く。 あちらの部屋からこちらの部屋へ。 1階から2階へ。 客室もバスもトイレも、クローゼットの中も…全部覗いて…。 何もない屋敷の中を、居るはずのない人間を捜して歩き回る。 そして、屋敷内を一周し…、また母親の部屋へと戻って……。
『…ママ……、どうしていないの…?』
エンチューが不安そうに辺りを見回して言った。 それは、本当に子どもらしい、何処か頼りなげな響き。 『ムヒョ、ママは何処にいるの…?』 縋るように見上げるエンチューに、ムヒョは静かに首を振って…。 「…ここにゃいねェ。もうずっと前からナ」 ムヒョは真実を告げた。 『うそ!居たもん!ママは何処にも行かないっ!ずっと、ボクと一緒に居るって言ったんだから!』 バンッと音すら立てて、拒絶の意思が波動となり、部屋の中を走る。 ガタガタと窓が音を立て、家具が揺れて…。 けれど、それはスグに収まった。 ムヒョ!と…駆け寄ろうとするロージーをヨイチが止める。
「……オメェも、ホントはここにいねぇダロ?」
ムヒョは静かに諭すように、エンチューに語りかけた。 『ボク…いるよ?』 「オメェのママも、オレも、オメェも…もうずっと前にこの家から出て行ってる」 『そんなこと…そんなことない!ボクは、ママとムヒョと一緒に…ずっとこの家に…!』 「オメェ…手、透けてるよナ?」 『……』 ムヒョに言われて、エンチューは自らの手を見つめる。 小さな掌。 それは、先程までは割とシッカリとした輪郭を保っていたはずだが、今は段々と薄くぼんやりして…。 手も、脚も、腹も…薄く薄く透けて…。 エンチューの瞳が大きく見開かれる。 『…何で…?どうして…ボク、こんな……?』 「オメェは今、ホントはここに居ちゃいけねェんだ」 『じゃあ、ボクは何処に居たらいいの…?』 途方に暮れたようなその声に、ムヒョはしゃがんでエンチューの顔を覗き込んだ。 「なあ、声が聞こえネェか?」 『声…?』 「ジッと聞いてみりゃ、オメェを呼ぶ声がするはずダ」 『…ボクを…呼んでる声……?』 「よく聞いてみろ」 エンチューはムヒョに言われた通り、耳を澄ませるエンチュー。 ロージーにも、ヨイチにも、声なんて聞こえはしない。 だが、エンチューには、何か聞こえたようだった。 ホントだと、小さく嬉しそうに呟き、エンチューは目を閉じる。
その声を、もっとよく聞こうとするように…。 その声が、何処から聞こえるのか…確かめようとするように…。
スウッと…エンチューの身体が白く薄く、透け始めた。 それに併せて、窓の向こうから光が差し込む。 白く強いその光…。 『……、………?』 それに眩しそうに目を細め、エンチューは何かを言いかけたようだった。 だが、その声は誰の耳にも届くことはなく…。 光の中、徐々にエンチューの身体が溶けこんで…白く…白く………。 そして、フゥと…小さくムヒョが息を吐いた。
+ 続く + 14を読む +
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とゆことで。 ようやく、ロージーの胸に平穏が訪れそうな感じであります。 次はいっちゃいちゃベッタリさせるんだ〜!(>v<)とか思いつつ。
龍神話が終わったので、別の話を始めるつもりです。 多分、これの続きよりもそっちが先かな…。 また、パラレルな感じで。。。
よろしければ、お付き合いよろしくお願い致します☆ m(_ _)m
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2007/05/01(火)/16:07:32
No.49
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