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1.
むかしむかし…あるところに、人間と恋に落ちた龍の神様がおりました。
二人は互いに愛し合い、それはそれは幸せに暮らしていました。
ですが、神や魔の者達とは違い、人の命は短いもの…。 人間は転生を捨てて永遠に龍の側にいることを望みましたが、人間が死んだ時、龍はその魂を留めることはせず、天に帰しました。
またいづれ、生まれ変わり、巡り会う。 その時を待つ。 何年でも、何度でも、と…。
そう誓って……。
実際に、何度も…何度も…。
ロージーの魂が地上に現れ、また天に帰る…その輪廻を、いくつも共に過ごしました。
幾百年の時は瞬く間に過ぎ、初めての出会いから千と百も過ぎた頃……。
再び、ロージーの魂はこの世に生まれて………。
そして、十七年ばかり…。
龍神の住処であるその池の畔に、3つの人影があった。 二つは頭に角のある鬼、一つは子どもの姿をした龍神…。
「ねえ、何で会いに行かないのさ?」
白い鬼が不服そうな顔で、子どもに尋ねる。 「だよなぁ、とっくに生まれ変わってるって知ってんだろ?」 その横から同意して、更に質問を重ねる青い鬼。 「ねえ、絶対おかしいよね、ヨイチ?」 白い鬼は青い鬼を見てそう言った。 「ああ、オレも最近のムヒョはおかしいと思うぜ、エンチュー」 青い鬼は龍を見て、それから白い鬼を見て頷く。
「…ウルセェな。昼寝の邪魔だゾ、オメェら…」
ムヒョと呼ばれた龍神は不機嫌にそう呟くと、ゴロンと寝返りを打った。 周囲に咲く白い花がフワリと揺れて…甘い香りが宙に浮く。 「だって、折角ロージーが生まれ変わったのに…!」 「人間はすぐ死ぬんだぞ!分かってんだろ?」 「ウルセェ」 「もうまたウルセェとかゆって!ずっと待ってたんじゃない。どうしちゃったの?」 「おかしいぞ、お前!一年とか、一日とか、すっげー貴重なのに、何やってんだよ!」 「ウルセェっつってんだろ!暇な鬼共め!誰に向かって口きいてやがんダ!」 頭の上でやいのやいのと騒ぐ鬼達に、ムヒョは身を起こすとそう声を張り上げた。 途端、にわかに空模様が荒れ始めて…。 入道雲のぷかぷか浮いていた青い空は、突如現れた暗雲に覆われてしまう。 「ちょ、ちょっと、ムヒョ!何もそこまで怒らなくたって…!」 「何だよ、機嫌悪ぃなぁ…!勝手に天気変えんなよ!」 ゴロゴロと低く呻りだした空を見上げ、慌てる二人の鬼。 そんな二人の横…。 「フン…」 降り出した強い雨の中で、ムヒョはその姿を龍に変え…そしてそのまま天へと駆け昇って………。
「……全くもー…!」 「何なんだよなぁ?」
残された鬼達は、怪訝な顔を見合わせた。
+ + + + +
「…ネコ……飼いたい、とか…」
「は?何だよ、いきなり?」 突然ぽつりと呟いたロージーに、隣を歩いていたケンジは怪訝な顔をして…。 マジマジと、遙か上にある顔を見上げた。 「んー、何かね…最近の夢がね…」 「ネコ飼う夢見たのか?何だそれ」 きょとんとするケンジに、ロージーは曖昧な笑みを浮かべる。
ネコを飼う夢…じゃあ、ないんだけどね……。 てゆか、ネコだって出てこないし…。
出てくるのは一人の少年だ。 ケンジよりも小さいくらいの背格好。 黒髪に、強い光を帯びた青い瞳が印象的で……そう、その青い瞳が、どことなくネコのようなのだ。
不思議な子なんだよな…。 知ってる子だと思うんだけど……。 いつ会ったのか、見たのか…ちっとも思い出せない。
「おい、もやし!聞いてんのかよ?」 夢に出てきた子どもに思いを馳せていれば、ふいにケンジに強く呼ばれる。 「へ?あ、ごめん、何か言った?」 ハッとして見ると、ケンジが明らかにむっとしたような顔で唇を尖らせた。 「ちぇ、最近何かおかしいぞ、お前。いっつもぼやっとして……」 「あはは、ごめんね。それで?」 「ったく。だから〜、今日ウチに来いよって言ったの!」 どうせ暇なんだろ?なんて…。 小学生にそんなことを言われる高校生もどんなもんだろうと、ちょっと思いながら…。 「ん〜、ごめん…。今日はちょっと…」 ロージーは苦笑して誘いを断る。 「えー、何だよ?忙しいのかよ?」 「う、うん、ちょっとね…。また今度、遊んでね?」 「ちぇ〜、折角、新しいゲームやらしてやろうと思ったのにな…」 ぶつくさ言うケンジは、どことなく傷ついた風で…、ロージーは少し胸が痛んだ。 「また今度、ね?」 言いながら、同じマンションへと入る。 ロージーとケンジは同じマンションの同じ階に住んでいるのだ。 「今度な。絶対だぞ!」 「うん、じゃあね、ケンジ」 「おう!またな!」
ごめんね、ホントは忙しくなんかないんだけど…。
廊下を駆けて行くケンジの後ろ姿を見送って、ロージーはフウッとため息を付いた。 カバンを探り、家の鍵を出す。 最近、変な夢ばかり見るせいで、あまりちゃんと眠れていないのだ。 だから、どうにも調子が悪い。 とてもゲームをやって遊ぶような気持ちにはなれなくて……。 やれやれなんて思いながら、鍵を開けて家の中へと入る。 この時間はいつも家人は居ない。 一人だと分かっているが、それでも小さく「ただいま」と告げて…。 玄関脇の自室に入り、ベッドに身を投げると、ハーッと深く息が漏れた。
目を瞑れば、瞼の裏に広がる不思議な光景…。
それは、初め水の中のようで…。 ユラユラとして、定かではなくて…。 やがて、暗くて静かで…それでいてほんのりと明るい、そんな神秘的な所に着く。
そして、更にその先に、例の子どもが居るのだ。
黒髪に、青い瞳の…着物を着た子ども。 そして、その瞳はいつもロージーを真っ直ぐに映しているから…。 どうにも気になって仕方がない。
せめて…名前が分かればな………。
心の中でそう呟く。 ロージーはその子を知っている筈なのだ。 名前を思い出せれば、何かもっといろいろなことを思い出せそうな気がした。
「……なまえ……何だっけ…」
知っている筈の名前。 呼んでいた筈の名前。
なのに、どうして思い出せないのだろう?
いつも感じるもどかしさと悲しさ。 何かとても大切なモノを忘れている気がして……。
「………誰なの…?」
キミは誰なの?と面影に問えば、ほのかな明かりの中…彼は顔を顰めて笑った。
ああ…、やっぱり…知ってる………。
遠のく意識。 眠りに落ちるロージーの耳に、遠くで響く雷の音が聞こえた気がした。
+ 2を読む +
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とゆことで。 神様にお願いの続編でございます。 エセ平安調だった前回ですが、今回は現代が舞台。 龍神のムヒョさんは、ロージーの最後の願いを叶えてあげなかったとゆことで。 もう既に何度か転生を繰り返し、巡り会ってまた分かれて…を繰り返したムヒョロジなのです。 前回は帝だったケンジ、今回はご近所さんで登場です。 鬼コンビはそのまま。
また暫く続きそうな話ですが、どうぞ読んでやって下さいませ☆
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2007/07/22(日)/02:59:59
No.61
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