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1.
賑やかな…賑やかすぎると言っていいほど賑やかな声が、下の階から聞こえてくる。 午後の授業が始まって15分程も過ぎた頃…。 何ダ?と少しばかり訝しく思いながらも、ムヒョは階段を下りて…。
別に…妙な気配はねェし…。 ま、何処も一緒って事か?
抜け出して来る直前の教室を思い浮かべれば、溜め息が漏れた。 ムヒョのクラスもまた、同じように賑やかに、ちょっと収拾がつかないくらいの騒ぎになっていたのだ。 そう…全ては文化祭の出し物を決める…なんて、そんな事が原因で…。 全く、面倒なこっちゃと思いながら、ムヒョは賑やかな声の聞こえていた階に降り立った。 すると…。 ガララッと何処かで教室の戸が開き、続けて、
「酷いよ酷いよ、みんなしてぇっ!」
なんて、賑やかな泣き声。 声の主は廊下に飛び出し、そのままムヒョの居る階段の方へと駆けてくるらしい。 ムヒョはチラリとだけ視線をくれ、けれど、それだけでまた階段を降り始める。 「………」 教室を飛び出したのは、ジャージ姿の女子生徒のようだった。 金髪の頭を二つに結わき、ピンク色のリボンを付けて…。 うわぁあん!と盛大に泣いていた。 余程酷い役でも押しつけられたのか?なんて思っていれば…。 その声は段々と近付いて…。 足音も近付いて…。 階段を通り過ぎるかと思いきや、どうも……。
ちょっと待て…! おい、こっち来んのか?!
ムヒョが振り返った時には、すぐ上に…。 少女は顔を覆って泣いているため、下にムヒョが居ることには気付いていない。 それより何より、階段にすら気付いている様子がなくて……。 すかっと、勢いよく空を踏んだ足。 「えっ?!」 開いた手の奥でまん丸に見開かれた瞳と目が合う。 そう、そして…全てはスローモーションのように…。 「バ…ッ、オメェ!」 上から落ちてくる少女を、ムヒョはとっさに抱き留めた。
泣き声が聞こえる。
シクシクと、くすんくすんと。
「ん…む…?」 目を開ければぼやけた視界に映る、白い天井。 鼻につく薬臭さに、自分が何処にいるのかがイヤでも分かる。
保健室か…。 あのまま落ちたってことは……この泣いてんのは、あの女ダナ。
面倒臭ェと思いながら、フウと息を付けば、少女はそれに気付いたらしい。 「よ、良かったぁ!気付いたんですね?!」 ムヒョの顔を覗き込み、またうわぁあんと泣き出した。 「目が覚めなかったらどうしようかと思ったぁ〜〜!」 「…ウルセェ、泣くナ」 泣き声が頭に響いて…。 呟けば、少女はハッとしたように口を押さえた。 「ご、ごめんなさい…っ、でもでも、ボク、心配で…」 「…別に、何てこともねェ」 「でもぉ、やっぱり、ごめんなさい…」 涙がゆらゆらしている大きな茶色の瞳。 泣いているために鼻の頭を紅くして…、不安げに少し開いた唇も紅い。
……ヨイチあたりならチェックしてそうだナ…。
あまり、人の外見などに頓着したことのないムヒョではあるが、この少女が並外れて可愛いということはよく分かった。 癖のある髪はあちこちに跳ねていたし、顔は涙でベショベショだったが、それでも感心してしまう程可愛らしい。 何となくだが、コレが自分の好みというモノらしいなんてことも、実感する。
「オメェは…ケガはねェのか?」
ジイイッと、不自然な程長く見つめてしまったことが妙に決まり悪くて、ムヒョは視線を逸らしながら尋ねた。 「あ、はい!ボクは大丈夫でした!アナタのお陰で…、ホントに、かすり傷だけで…」 言いながら、またグスッと鼻を鳴らす。 「ああ、いいから泣くナ!それより、リボンどうした?さっきは髪、結わいてたろ?」 何となく気になって…ムヒョは聞いてみた。 確か、落下する直前に見た時は、髪を二つに結んでいたはずだ。 「えっ、み…見たんですか?」 ムヒョの言葉に大きく目を見開き、少女の頬がカアッと紅く染まる。 「あ?」 「あの、あれは、クラスの子が悪のりして…っ!だ、だから、ボクは別に女装が趣味とか、そーゆーんじゃないんですよっ!」 「はぁ?」
女…装…? クラスの子が悪のり…?
今度はムヒョの目が大きく丸く見開かれた。 少女だと思っていたその下級生の言葉に……。 「お、オメェ……男なのか?」 「え、お、女の子だと思ってたんですか?」 ガーン☆と、ショックを受けたのは一体どちらか…。 二人は呆然と互いを見つめて…。 「…ボクは…、草野次郎です。ロージーって呼ばれてるけど…でもでも、ちゃんと男です!」 「…くさの…じろう……」 「あ、ロージーって呼んで下さいね」 ニコなんて笑う顔を、マジマジとみつめてしまう。 男だと言われても尚、まだ信じられないで…。 白い肌にフワフワの金髪。 長い睫毛。 優しそうな茶色の瞳。 薄い肩はなだらかで…確かに胸はないが、それでも造りは随分と華奢で…。 小首を傾げて微笑む様などは、何処からどう見ても、女の子そのものだ。
……ま、まあ、エンチューやビコみてぇなのもいるから…ナ…。 だが、オレが気づかねェってのも…相当珍しいが…。
「あの…、そんなに…信じられませんか?」 無遠慮なムヒョの視線に、ロージーはしょぼぼんとしてそう聞いてきた。 そのナヨナヨッとした感じもまた、男っぽさは欠片もない。 「ああ…、あ、いや、まあ…」 思わず正直に頷いてしまい、ムヒョは慌てて撤回しようとするが、ロージーはハーッと大きな溜め息を付いて…。 「やっぱり、みんなもそう思ってるのかなぁ…」 がっくりと肩を落とした。 「みんな…?女装させられたってのは、文化祭の出し物でか?」 「そうです。仮装して喫茶店をやろうって…」 「………」 「ボク、やめてって言ったのに…」 くすんと鼻を鳴らし、ウルルと瞳を潤ませるロージーに、思わずムヒョは見惚れて…。 「まあ、気持ちは分からんでもないナ…」 思わずポツリと呟いた。
そう…、気持ちが分かる。
やった方の、なら…。
こんな調子で瞳を潤ませて「やめてよぉ」なんぞと言われたら、余計にヤりたくなるのが男ってもんである。
暴れる身体を床に押しつけ、剥ぎ取るように服を脱がして……露わになった白い肌…その脚の間に………。
「酷いですよね!」 「あ?あー…ああ、まあ…そうだナ…」 分かってくれます?ボクの気持ち!と顔を覗き込まれ、ムヒョは一瞬の内に頭の中で展開していたイメージを、慌てて追いやった。
オイオイ、今、オレは何を考えてた? コイツは男だゾ…? つーか、今、名前聞いたばっかの1年で…。 いやいや、その前に、何だってイキナリんな事………。
「あ…、もしかして、頭痛いですか?ボクったらお喋りしちゃってすみません!」 思わず頭を抱えたムヒョに、ロージーはおろおろと心配そうな顔をして…。 「ええと、あの、どうしましょう?暫く休みたいなら、ボクはとりあえず教室に戻りますけど、もし、寮に戻りたいなら付き添いますから言って下さい!」 ズイッと身を乗り出してそう言われ、ムヒョは一瞬答えを迷って躊躇した。 普通なら、すかさず『付き添いなんざいらねェ』と言っているところだ。 少々の打ち身など、ムヒョにとってはケガの部類に入らない。 ハッキリ言って、今から授業に戻ったって全然問題などないのである。 だが…。 何故か…ロージーを帰してしまうのは非常に惜しい気がして……。
……もう少しくらい…ここに居ロとかってのは…変か? なら、やっぱ寮に…。 いや、だが……。
「あの…?」 何やら顔を顰めて呻ったムヒョに、ロージーは戸惑い顔でパチクリと瞬きをした。 「何処か痛むんですか?先生呼んできます?」 「あ?ああ、いや、大丈夫ダ…そうじゃねぇ」 「でも、やっぱりちゃんと休んだ方がいい気がします…」 ハの字に下がった眉毛。 これ以上ない程不安げな、頼りなさげな顔で見つめられ、それにまた胸が騒ぐ。
「ボク、一度教室に戻りますから…少し寝て下さい」
ロージーはそう言って、ベッド脇のイスから立ち上がった。 「ま…」 待て!と言いかけ、ムヒョはああと気付く。 この本当に僅かな時間で、自分はこの下級生を、随分と気に入ってしまったらしい。
もう少し、見ていたいのだ。 この顔を…。 もう少し話して…この声を聞いていたい。
自分にとって、側にいて欲しい人間なんて、滅多にいないことをムヒョは知っている。
だから、余計に興味が沸いて…。
もう少し…ロージーを知りたいと……。
「オイ、オレは…」 ムヒョがロージーを引き留めようとした、まさにその時…。
「私のムヒョ〜〜〜っ!!!!!」
ドバーン☆ 壊れそうな程の勢いでドアを押し開け、誰かが保健室に飛び込んで来た。
+ 続く +
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なーんか。 出会いから初エッチまでそのまんま流れたりしそうな感じ??とか思いつつ。 イキナリ犯罪ですか、六氷先輩! いや、ちゃんと純愛風味に仕上げたい所存ですよ(誰に言っているの!)
このシリーズ、かなりおふざけしようと思っております。 エンチューはこんな感じで出そう♪とか、ゴリョさんとエビたんを出したいな〜とか、いろいろ考えてますが、とりあえず、続きは私の大好きなあの方の登場からvvv
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2007/05/07(月)/17:42:34
No.52
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