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2.
「おお、ムヒョっ!無事なのかね?!」
バッサ〜と執行服を翻して飛び込んできたその人物は、そのまま真っ直ぐにベッドへと駆け寄るとムヒョへ抱きつこうとして…。 だが、それは見事なまでの右ストレートによって阻止されてしまった。 「…何だ、元気じゃないか、安心したよ」 「クソジジイ…何でテメェがここにいんだよ…?」 頬を押さえながらも笑っている初老の執行人に、思い切り顔を顰めるムヒョ。 ロージーはワケが分からずに、オロオロと2人を見ることしかできない。 「ツレナイねぇ、心配して来たってのに…」 「今日は学院の方に顔出す日じゃねェのか?こっちじゃねぇダロ」 「学院にはちゃーんと行ってきたよ。ついでに…って寄り道してみたら、キミが保健室に運ばれた〜なんて聞いたからさぁ。それにしても、階段から落ちるなんて…キミにしちゃ随分と鈍くさいじゃないか、ねぇ?あれ、キミは?」 座る物を探してか、キョロキョロしていたその人物は、傍らにいるロージーに(ようやく)気付くと、すかさず尋ねた。 「へ?え…あああ、ぼ、ボクは草野次郎です!」 「草野君?一年生かい?可愛いねぇ♪私はペイジ・クラウス」 ヨロシクね〜☆なんて手をぎゅうっと握られ、ロージーの目が丸くなる。 魔法律家を志す人間なら、当然の反応だろう。 何せペイジ・クラウスといえば、『伝説の』とか『最強の』なんて冠がついてしまう程、偉大な執行人なのだから…。 ほんの2年前まではMLSの初等部で教鞭を振るっていたりもした彼だが、今は週に一度、中等部と高等部の強化クラスを教えに来るだけである。 だから、ほんの一月程前に中等部へ入ったばかりのロージーは、それこそ顔を見るのも初めてな位で…。 「…オイ」 「まあ、草野君。そんなわけで私が来たからもう大丈夫。ムヒョのことは心配いらないから、キミはクラスへ戻りなさい」 渋面のムヒョを余所に、ペイジは握った手をポンと優しく叩いて、ロージーにそう言った。 「え…?」 ニッコリと優しそうな微笑みは、けれど、イヤとは言えない何かがある。 「…はい、あの、じゃあ……お願いします……」 ロージーは困惑の面持ちのまま、それでも素直に頷くと、二人に一礼した。 「じゃあね、草野君♪」 またね〜♪なんて。 ムヒョを気にしつつ去って行くロージーに、ヒラヒラと手を振るペイジ。 ロージーの使っていたイスに腰掛け、意味ありげな視線をムヒョに向けた。 「もしかして…お邪魔だったかね?」 「あ?何言ってやがる」 全くもってその通りダと思いながら、ムヒョはジロリとペイジを見やる。 「草野君…可愛い子だったじゃない。やるねぇ、ムヒョ」 「アホか!」 ニコニコと上機嫌そうなペイジ。 だが、その言葉には、何処か引っかかる物がある気がして…。 何を考えているのかと探るように見つめるが、ペイジはただニコニコと笑うだけだった。
+ + + + +
「…、……っ!」
誰かの悲鳴を聞いた気がした。
白く霞んだ意識の中で…。
重い瞼はまだくっついたままだが、それでも徐々に覚めてくるその他の感覚。 ささやかな声が何事かを言っている。 「んむ…」 次に上がったのは自分の呻きだ。 感覚のハッキリしてきた手が何かを触っているのに気付き、未だボケボケのムヒョの頭に大きなハテナマークが点滅する。
今、自分は何かを抱え込んでいる。
それは確かだ。 だが、果たして一体『これ』は何なのか? 柔らかいが、枕ではない…。 もう少ししっかりしているし…温かで……ドキドキしていて…。 何やらいい匂いもする…。
「ム…?」 何だ何だ?と感触を確かめるように撫でたり掴んだりしてみれば、掌の下、それは微かな反応を返して…。 「ひゃぁ」 少し、間の抜けた悲鳴…。 バチッと目が覚める。 「………オメェ…何でここに?」 腕の中にいたのは、ロージーだった。 「お、おはようございます、六氷先輩…!」 真っ赤に染まった顔で、それでもアワアワと朝の挨拶をするロージー。 「あの、具合…どうですか?ボク、気になって来たんですけど…、あ、スミマセン…勝手にお部屋入っちゃって……ノックしてもお返事がなかったので…」
部屋どころかベッドの中に入ってるのは何でダ…?
そう聞いてみたいのは山々だったが、ムヒョはとりあえず、抱き込んでいたロージーを解放してやった。 モゾモゾとベッドから這い出たロージーは、乱れた制服を直す。 「あの…頭とか、身体とか…痛いところはないですか?」 「あ?ああ、平気ダ」 何ともねぇヨと言えば、ロージーは本当にホッとしたように微笑んだ。 「良かった♪」 その笑みに、また胸がざわめく。 「……気にすんナっつったロ?」 どうしても、じいいいっっと見つめてしまいそうになるから、ムヒョは視線を外しながらそう言った。 「でも、気になりますよ。ボクのせいで階段から落っこちちゃったんですもん」
足でも挫きゃ良かったか…?
いっそ、そんな気がしてくる。 もしケガでもしていれば、この下級生はきっと責任を感じて、ケガが治るまで毎日ムヒョの元へ通っただろう。 人より丈夫に出来ている事を、生まれて初めて恨めしく思いながら…。 「そういや、オメェ…オレを知ってたのか?」 ふと気付いて、ムヒョは尋ねた。 昨日、名乗るのを忘れたと、部屋に戻ってから気付いたのだ。 それでも、こちらとしてはロージーのことは分かっているから、まあいいかとも思っていたのだが…。 「え?そりゃあ…だって、六氷先輩は有名人ですから。それに、ペイジ先生がムヒョって呼んでましたし…」 フフッと笑われ、何だか嬉しいようなガッカリしたような、そんな気持ちになる。 「…その、六氷先輩ってのはよせ。ついでに、敬語もいらん」 「え?で、でも…」 言いかけ、目の前でパジャマを脱いだムヒョに「わっ」と目を丸くするロージー。 「おい、オメェ、ちょっと待ってロ。すぐ支度する」 「え、ええと、はい、あのっ、外で待ってます!」 そう言ってアワアワと部屋を出て行くロージーに、きょとんとしつつ…。 それでも、そんな反応がまた、妙にあの外見とマッチしているから…ムヒョはプッと小さく笑ってしまった。 真っ白なシャツに袖を通し、ふと目に入った手…。 そういや…と、ムヒョは自分の掌を見つめる。
寝ぼけて撫で回しちまったナ……。
じいいっと掌を見つめていれば、段々とおぼろげな記憶が甦って…。 成る程、確かに細い腕を掴み、ベッドに引き込んだのは自分だと…。 肩を抱え、腰や腹を撫でた…と。 くすぐったかったのか、逃げようとした身体の反応さえ思い出す。 耳に残るのは…何処か甘い悲鳴。 細ェ腰だったナ…、なんて…。
「……今思い出すもんじゃねぇナ…」
しかも、その相手と今からまた顔を合わせるというのに…。 顔を顰め、ムヒョはヒッヒと笑った。 この部屋の向こう、ドアの横で待っているであろうロージー。 一体どんな顔をして立っているかと思えば、何やら可笑しくて…。 それも、自分を待っているのだと思えば、何やら嬉しい。 妙な気分だと思いながら、ムヒョは咳払いを一つするとドアを開けた。
+ その3 + その1を読む +
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うーむ。浮かれてますねぇ。ムヒョ先輩は。 続きはまた明日か明後日か。 エンチューさん達が出てくる予定です。 よろしければまたお付き合い頂けると嬉しいです☆
今日はラクガキなんかもつけてみたり。。。 ホントは昨日の夜、何処かにアプしようかと思ってたのですが、イタズラに内容曝すような真似するのも何だかな…と思い、今日のSSにくっつけることにしました。 そー、このCGIって画像添付2枚まで出来るんですよね(したことないけど…;;;)
つか、人様の投稿受け付けたりも出来るんですよ。。。 最初の頃、投稿募集したりも面白いかな〜とか思ってたのですが、いつの間にか忘れました。。。 (サイトオープン直後、別ジャンルのゲンコとかで2ヶ月放置したので……その間に当初の予定なんてスッカリサッパリ;;;) 誰も投稿してくれなかったらそれも寂しいしね……………いいや、このままにしておこう…(爆)
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2007/05/09(水)/16:27:54
No.53
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