|
1.
驚くかな〜、とか。 喜んでくれるかな〜、とか。 どんな顔をするかな〜、とか。
そんなことを思っては、ずっとワクワクしていた。
その小さな箱を買ってから。
薄いピンクの小さな丸箱。 そこにかけられた光沢のある白のリボンは、可愛く結んだ中央に小さな花の飾りが付いて…。 箱の中にはハート型のチョコレートが6つ程入っている。
ワクワクで、ドキドキで、ロージーはその日をずっと楽しみにしていたのだ。
そう、甘いチョコレートに甘い気持ちを込めて渡す…2月14日のバレンタインデーを……。
+ + +
「……おい、草野?何どんよりしてるんだ…」
机の上に置かれた小さなピンクの小箱を、もう30分程もずっと、暗い顔でただただ見つめているルームメイトに、痺れを切らしたマリルが声をかけた。 「…別に」 返ってきたのは素っ気ないその一言…。 「別にって様子じゃないだろ?」 読んでいた本をパタンと閉じ、マリルは顔を顰める。 時刻は既に夜の8時を迎えようとしているのだ。 何かあったのでなければ、今日という日のこの時間に、ロージーが自分の部屋にいるワケがない。 「何だよ、六氷先輩とケンカしたのか?」 「してないよ」 「じゃあ、どうしたんだよ?」 「別に…どうもしないもん。ほっといて!」 「いや、ほっとけって言われてもな……。ソレ、渡しに行かなくていいのか?」 呆れたように、それでいて心配そうに言うマリルを、ロージーは恨めしそうな顔で見上げた。 そして、
「………だって。ムヒョ…モテるんだもん……」
ややあってから、ふてくされた子どものような顔で言うその言葉…。 「はぁあ?」 マリルはポカンとロージーの紅茶色の瞳を見つめた。 「ムヒョ、いっぱいいっぱい、女の子からチョコレート貰ってたんだもん!」 「草野…、お前な…、そんなの今更だろ??大体、相手を誰だと思ってるんだよ、あの天才ムヒョだぞ?」 「だってだってぇ〜っっ!」 「あーバカバカしい!いいから、とっとと六氷先輩のとこ行って来いよ!」 先輩にやるんで用意したんだろ?と、マリルは机の上の箱を指した。 「…だって……それに……」 ロージーは箱を手に取りながら、唇を尖らせる。
沢山の女の子達に囲まれているムヒョを見たとき、ロージーは今日が女の子達のイベントだと、急に強く意識したのだ。
そして、何だかすっかり気後れしてしまった…。
「……ボク、女の子じゃないんだもの…」 「はあ?それも今更過ぎだろ!ってゆーか、草野…、お前まさか…それを今日になって気付いたのか?」 「うっ、ど、どーせバカだもん!バレンタインが女の子のお祭りだなんて、今まで浮かれてて気にならなかったんだもん〜!!!」 うわーん!なんてベッドに突っ伏すロージー。 「いや、別に女子限定ってワケじゃナイと思うけどな…。ああも〜!そんなんでウジウジしてたってしょうがないだろ?そもそも、お前は六氷先輩と付き合ってんだから、心配することないって!」 早く行け!と、マリルがそう言った時…。
「ロージー、居るか?」
がちゃりとノックもせずに開かれるドア。 そこから顔を覗かせたムヒョに、ロージーは目を丸くして…それからババッとベッドに潜り込んだ。 「……おい…、何ダ?」 あまりにもいきなりなその行動に、ムヒョはマリルを見る。 マリルはさあねとばかり肩を竦めて見せた。 「とにかく、連れてって貰えると落ち着くんだけど…。さっきからずっと落ち込んでて鬱陶しいんだ」 「ひ、酷いよ!マリル!裏切り者〜!」 布団の中から上がる抗議の声。 「あ?落ち込んでる?何ダ…?何かあったのか?」 「何もないもん!ボク、もう寝るんだから!」 部屋に戻って!なんて言われ、ムヒョは思い切り顔を顰めた。 ワケが分からないのが一番イライラする。 「出てこい、ロージー」 「……やだ…」 「出てこねェと…ここで襲うゾ」 「なっ!もう!ムヒョったらそんなことばっかり…っ!」 顔を出せば、ニヤリと笑う青い瞳と目があった。 それにドキンと鼓動が跳ねる。 胸元に抱えた小さな箱…。 ロージーはそれをぎゅっと握りしめた。
本当は、学校にいる間にちゃんと渡して……。 それで、今頃はムヒョの部屋にいるはずで……、それでそれで…それで…。
あんなに楽しみにしていたのに、何でこの箱はまだ自分の元にあって、自分は自分の部屋にいるのだろう。 そう思うと、何だか悲しくなって涙が滲んでくる。
「…ソレ…寄越せ」
俯いたロージーの顔近く…ズイと差し出される手。 「え?」 ポカンとして見上げれば、ムヒョは少しだけ眉根を寄せて…。 「オレのなんダロ?」 「……え…?何で…」 「そうじゃなきゃ許さねェ」 「む、ムヒョのだよっ!ムヒョ以外にあげるわけないじゃない!」 ガバッと身を起こしてそう叫ぶロージー。 ムヒョは満足そうにヒッヒと笑った。 「なら、さっさとソイツを寄越せ」 何故か偉そうに催促され、ロージーはもそもそとベッドから這い出ると、ムヒョの正面に立った。 「………」 胸元に抱えた可愛らしい小箱。 俯いてモジモジとして…、少し迷って…それから、怖ず怖ずとムヒョの瞳を見上げる。 「…ねえ、ムヒョ?ボク……女の子じゃないよ?」 「あ?今更何だ?」 「だって……おかしいとか…思わない?今日は女の子のイベントなのに…」 「アホか。んなこと思ってたら、わざわざ取りに来たりしねェ」 ムヒョはハアと呆れたようにため息を付いた。 この時、だってだって〜と言い募るロージーには聞こえなかったが、マリルの耳には確かに『…来ねェと思ったら…』という小さなムヒョの呟きが聞こえて…。 そう言えば…と、マリルは思い出す。
ムヒョがバレンタインの日に姿を消すのは有名な話だった。
毎年山程の贈り物を貰うムヒョは、けれどこのイベントをとても面倒くさがっていて…。 だから、人気の出始めた初等部の後半くらいからずっと…とにかく直接受け取る事のない様にと、いつも何処かへ姿を消すらしいのだ。
それが、今年はちゃんと1日校内に(しかも、教室にいたらしい)というのは……。
「…ふ〜ん……」 「あ?何ダ?」 思い当たった事が可笑しくて、つい笑ってしまいながら見ていれば、青い瞳が探るように眇められる。 「別に。ただ、ボクの部屋でいちゃいちゃされて邪魔くさいなーって思ってはいるけどね」 「ああ、そりゃ悪かったナ」 マリルの言葉に、ムヒョはヒッヒと機嫌のいい笑みを見せた。 その手には、ロージーの渡した件の小箱。 「ロージー、続きは向こうダ。行くゾ」 「うん♪…じゃあ、行ってくるね、マリル」 引かれた手に素直に従い、ロージーはエヘヘと笑う。 それは幸せに輝いた最高の笑顔で…。 「ったく、ごちそーさん」 パタンと閉じたドアに向かい、マリルは小さく呟いた。
+ 続く +
+++++++++++++++++++++
ホントは昨日(2/14)仕上げてアプしたかったのですが、丁度日付が変わる頃にモバイルのバッテリーが切れたので諦めちゃいました;;; 続きは来週火曜以降になるかなと思いますが、よろしければまたお付き合い下さいませ☆ どーしてもいちゃいちゃ部分が書きたいってだけなんですがね。。。
つか、ロジと同室なんて、マリルはすんごく苦労してると思う(笑)
|
|
2008/02/15(金)/17:48:41
No.76
|
|
|