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10.
「やだやだ!ムヒョォ!しっかりして!!!死んじゃやだぁあっ!」
ドアの向こうから聞こえる盛大な泣き声に、ムヒョとエンチューは顔を見合わせた。 二人には危険な気配は何一つ感じられない。 だが、中にいるロージーは何やら切迫した状況であるらしくて…。 しかも、『ムヒョ』が死んでしまうような、大ピンチに陥っているようだった。
「………えーっと…どうする?」
躊躇いがちに聞くエンチューに肩を竦め、ムヒョはドアに手をかける。 「…開かねェナ……」 「霊錠解除で開くかな?」 ビクともしないドアに、練習用の書を開くエンチュー。
「いやだ!!!絶対、退くもんか!ムヒョは、ボクが守るんだから!」
中からまたロージーの声がした。 「ロージー君…何かと喋ってるみたいだね?」 「……幻覚だろうナ」 ムヒョとエンチューには相手の声は聞こえない。 ただ悲痛なロージーの声ばかりが聞こえて…。 その内容に、何やら胸が騒ぐ。
オレを守る…?ロージーが?
逆ダロ…なんて思えば、つい笑みが浮かんでしまいそうになる。 エンチューがそれに物言いたげな視線を向けたが、その瞬間、霊錠解除によって、カチャリとドアが開いた。 「!」 「わ…っ」 中に踏み込めば、一瞬の違和感…。 歪んだ景色に覚えた目眩のような感覚に、二人は目を閉じ、再び開ける。 音楽室であるはずのその部屋は、けれど室内は紫に染まり、グルグルとザワザワと蠢いていた。 「うわ〜…」 嫌そうに顔を顰めたエンチューが呆れた声を上げるが、ムヒョの目は室内の一点…ロージーの姿にだけ吸い寄せられて…。
ロージーは入り口に背を向け、両手を広げて立っていた。
その前には、おどろおどろしい姿をした何かが浮かんでいる。 ロージーの足下には倒れ伏しているムヒョらしき人物の姿。
成る程、アレからオレを守ってるってトコか…?
状況を見て取って、ムヒョの顔には何とも複雑な笑みが浮かんだ。
『おとなしくソイツを渡せば、お前は助けてやると言っているだろう』
おどろおどろしい何かがロージーに取引を持ちかける。 「やだ!絶対、絶対、渡さない!」 力一杯拒否するロージー。 先程から聞こえていたのは、このやり取りの声だったのだろう。 「…………」 ムヒョはぎゅうっと胸が苦しくなるのを感じた。
今、ロージーの叫ぶ声は涙に濡れ、震えて…。 広げた手も震えていて…。 それでも、懸命にムヒョを庇っている。
「…ねえ、これって、ボクお邪魔だよね?」
エンチューが苦笑して、そうコッソリと呟いた。 二人にはもう、これが何なのか分かってしまったから。 「…だな」 ムヒョはキッパリと頷く。 「はいはい、邪魔者は退散しておくよ」 エンチューは肩を竦めると、クルリと向きを変えて、目には見えぬ出口から室外へと出ていった。
さて、背後でそんな会話がされているのには全く気付かず、ロージーの方は必死で…。
「ボクだけ助かったって、そんなの意味なんかナイ!ムヒョが、ムヒョがいなきゃ、ダメなんだもん…っ!」
大きくしゃくり上げながら『何か』に向かって叫び続けている。 一生懸命で…偽りのない本心を晒して…。
「…ったく、アホだナ、オメェは…」
ムヒョはヒッヒと笑うと、ロージーを背後から抱き締めた。 ビクリと一瞬身を竦めたロージーが、振り返り、ムヒョを見て目を丸くする。 「え……?」 ポカンと開いた口。 ムヒョは可笑しいやら嬉しいやらで、またヒッヒと笑って…。 ロージーの身体をそっと離すと、ポンポンと軽くその肩を叩いた。 「な…なん…、なんで?だ…って…?むひょ…??」 え?え?と、目の前のムヒョと、足下に転がるムヒョを見比べるロージー。 ワケが分からず、瞬きを繰り返す。
「オイ、クソジジイ。テストは終了だろ?」
「え…?てすと?テストって…何?どーゆーこと?」 目を丸くするロージーを余所に、ムヒョはジッと虚空を見つめた。 途端、ブンッという鈍い音と共に、一瞬身体がブレたような感覚が襲って…。 次の瞬間には、そこは古びた音楽室に変わった。 「わっ、何…?何で?」 「ムヒョ、勝手に入って来ちゃダメじゃないか」 ピアノのイスに腰掛けたペイジが、パイプをくゆらせながら言う。 溜息と共に吐き出される白い煙。 「…オメーが勝手に連れ去ったりするからダローが…」 「だって抜き打ちテストだもん。教えたら意味ナイでしょ?」 「大体、何でロージーなんダ」 「だ〜って、ムヒョはムヒョだから分かるけど…ロージー君はまだまだよく分からないじゃない?」 「……何じゃそら…」 「んでも良かったねぇ、ムヒョ♪」 「何が良かったダ!」 ニコニコ笑顔の師匠に、仏頂面の弟子。 そんな師弟の会話を余所に…、 「え?ええと?あの、何で…?ここ…だって今…???」 ただ一人、状況の掴めていないロージーは、キョロキョロと不思議そうに周囲を見回していた。 「さっきまでのは幻覚ダ。ジジイに試されたんダ」 ムヒョの言葉にまん丸になる茶色の瞳。 「え…、幻覚?試された??ボクがペイジ先生に…?って…何で?」 「ごめんね、ロージー君。ちょっとキミの覚悟というか…気持ちをね…」 きょとんとしているロージーに、すまなそうな笑みを向けながら、ペイジは言う。 「覚悟???」 「で。合格だったんダロ?」 「ん〜、まあね…ってゆーか、キミが絶対離さないんでしょ?」 どうせ…なんて言うペイジに、ムヒョはヒッヒと笑った。
「心配しねーでも、ちゃんと執行人にゃなってやる。んで、コイツを助手にする。それで文句ねーんダロ?」
グイと再びロージーを抱き寄せれば、当の本人は更に混乱して目をぱちくりさせる。 「え?え?む、ムヒョ…?」 「オメェ、一生オレの側に居ロ」 「え…っ、い、いっしょう…って……」 言われた言葉の全てを、一瞬で理解することは出来なかったが、それでも『一生』という言葉は分かるから…。 かああっと赤く染まる頬。 「あの…、それって…そんな……いいの?ボクで…?」 もじもじと恥じらいながら、ロージーは尋ねた。 「オメェがいいから言ってんダロ?」 ムヒョはヒッヒと笑ってロージーの鼻先にちゅっと口付ける。 「…ムヒョ…」 じいいん、ウルウルと、感激しきりのロージー。 ぎゅううっとムヒョに抱きついて…。 「…やれやれ。仕方ない。ロージー君とのことは許可しよう。だけど、絶対執行人になって貰うからね?」 「フン、オレ様に二言はねェ」 期待して待ってロ、なんて不敵に笑って見せる弟子に、ペイジはまたヤレヤレと呟いて肩を竦めた。 だが、呆れたような仕草とは逆に、その顔に浮かぶのはどことなく嬉しそうな笑み。 「じゃあ、年寄りは退散するがね…。校内で不純な行為はしちゃダメだよ〜」 「!」 「ルセェ!とっとと帰りやがれ!」 じゃあね〜と杖を持った手を振って、ドアから出て行くペイジ。 「っとに、フザケたジジイめ…」 その背にブツクサと呟けば、腕の中のロージーがふいにフフと笑った。 「どうした?」 「……ん、いや…、ホントに驚いたなって……」 そう言って、ようやく安堵したのか…クスクスと笑い出すロージー。 その顔には、涙の跡が残って…。 何となく、先程広げていた手の震えていた指先を思い出す。 「………」 「…でも良かった、ムヒョが無事で…」 その言葉に…その気持ちに…その表情に…。 湧き起こる、堪らぬ程の愛おしさ。 「アホめ、オレがんな簡単にやられるワケねーダロ?」 柔らかく唇を重ねる。 「ん…ムヒョ…」 「ロージー…」 ちゅ、ちゅ…と、重なるたび深くなる口付けに、身体の中は熱く熱くなって……。 高まる想いと欲望に、頭の芯が痺れてくる。
…が。
「…ンん、ちょ…っ、ムヒョ、だめだよぉ!」
ドサッと押し倒されてハッとし、ロージーは慌てて制止の声を上げた。 「あ?」 「先生が言ったでしょ!校内で不純な行為はダメって…!」 「んなの気にすんナ」 「気にするってばぁ!あっ、ああん、だめだめったらぁ〜!」 ダメダメなんて言いながら、シッカリムヒョにしがみつき、満更でもなさそうな様子のロージー。 ムヒョはニヤリと笑って唇を落とす。
下校時刻など、とっくの昔に過ぎ去っているのだ。
外はもう宵闇に包まれ、星も瞬いているであろうこんな時間に。 こんな使われなくなって久しい旧校舎の奥の音楽室なんぞを、わざわざ覗いてみようと思うような物好きはいないだろう。
問題は……メシか…?
寮に戻るにしても、このままここで一夜を明かすにしても…夕食の確保はなかなか難しそうだ、なんて。 空腹を訴えている腹に少しだけ顔を顰めるムヒョ。 だが、それよりもっと、目の前のロージーに欲望を掻き立てられるから………。 「むひょ…」 ねだるように名を呼ぶ唇に、もう一度キスをして…。
そして、濃密な熱の中へ……。
かくして。 二人の交際は認められ、ついでにプロポーズまでしてしまったムヒョなのであった。。。
二人のいちゃラブな学園生活は続く☆
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とゆことで。 10回も続いた恋は嵐。ですが、今回でラストであります。 まあ、この話が終わっても、学園物はまだ続くのですが…。 ここまでお付き合い下さいました方には本当に感謝感激であります!(><)
ところで、先程リヴリーを散歩させていたら、ある島のプロフに、 『 男には一物はあっても二言はない 』 と書かれていて、何だかハッとさせられてしまいました(笑) 何て素敵な!!!!(そうか?!?!)
まーでも、ムヒョなら小憎らしいほどの悪役笑顔で、 「前言撤回ダ」とか、言ってくれても素敵vvvvとか思いますがvv
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2007/10/20(土)/21:29:35
No.70
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