薔薇色★学園天国 ボクをデートに連れてって その2
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2.
「あれ?どーした、草野?」
部屋に駆け戻る途中、廊下でマリルに呼び止められて…。 ロージーは俯いたまま足を止めた。 「デートは?」 「……デートなんて…約束してないって…」 「は?何だよそれ?」 じわじわじわ〜と、熱いモノがこみ上げてくる。 「ボクが、勝手に浮かれてただけなの!ムヒョ…はっ、先輩は、ぜんぜ…っ、そん…なのっ」 泣いてしまうのを我慢しようとすればする程、喉は詰まって…。 思うようにしゃべれない悔しさと、それより何よりの悲しさに、ロージーは唇を噛み締めた。 だが、
「オイ!ロージー!」
後を追うことを決めたらしいムヒョが部屋から出てくると、またダッと走り出し、そのまま自室へと駆け込んで…鍵を掛けてしまう。 「オイ!開けろ!話を聞けって、ロージー!」 追いすがり、強くドアを叩くムヒョ。 「話なんかっ、いつだって聞いてくれてないんでしょっ!だったら、ボクも、ムヒョの話なんて聞かないもんっ!」 「そりゃたまにだっつったロ!昨日は疲れてたんダヨ!」 「疲れてるならそう言ってくれればいーじゃない!」
言ったら、オメェは遠慮して帰っちまうダローが!
本来ならここで一番言うべき言葉を、けれどムヒョは言えずに…。 ウッと言葉に詰まり、唇を噛み締めた。
そう、ムヒョはロージーと一緒にいたかったのだ。 疲れていても、一緒にいたかった。 声を聞いていたかった。
本当はそれを正直に伝えればいいのである。 だが、そんなことを臆面もなく言うなんてことは、そもそもが口下手なムヒョにはどだい無理な話で…。
「もう、いいからほっといて!」
拗ねたように言われ、その言葉にカチンと来て…。
「開けロ。開けねェと……ドア、壊すゾ」
思わず出たのは脅しの言葉…。
何だ何だと集まってきていた寮生達の間に、ざわめきが走った。 「なっ、こ、壊したりしたら、ボク、窓から飛び降りるからねっ!」 売り言葉に買い言葉。 ドアの向こうから、ロージーも穏便ではないことを叫んで…。 「ばっ、草野!落ち着け!」 ここは3階だぞ!と、マリルが横から声を張り上げる。 それを見とがめて…。 「…オイ、オメェは確か同室だったナ?」 部屋の中のロージーに聞こえぬよう、ムヒョは声を落として言った。 「は…、そうです…けど…?」 「鍵よこせ」 ズイッと突きつけられる掌。 睨み付けるような、鋭い深青の瞳。 マリルはゴクリと唾を飲み込んだ。 「…わ…渡したら…、草野と…デートに行ってやってくれますか?」 負けじと見返し、言ってみれば…、 「あ?」 思いも掛けず条件を出され、ムヒョが一瞬面食らう。 「海でも山でもいいですから。連れてってやって下さい」 「…何でオメェにンな事言われなきゃなんねーんだ?」 「迷惑料です。アイツ一晩中浮かれて煩くて、ホントいい迷惑だったんですよ?アンタとデート行くって…歌うし、笑うし、同じ話30回も聞かされるし……なのに、行けないで今度は泣き通しだったら堪りませんよ」 本当に迷惑だと言うように顔を顰めながら…。 最後に肩を竦めたマリルを、ムヒョはジッと見つめた。 ドアの向こうからは微かな嗚咽が聞こえてくる。
確かに、今回の件で悪いのは自分なのだ。
ロージーが自分とのデートを楽しみにして、浮かれていたと聞けば、胸が痛むし、反省もする。 適当に相槌を打った事を後悔もしている。 きちんとデートの約束を交わしていたら、自分だってきっと嬉しかっただろうし、楽しみにしていただろうと…そうも思う。 だから、 「……分かった」 フウと溜め息を一つつき、ムヒョは頷いた。 「ドアを開けロ。アイツを連れていく」 「それなら…」 マリルはポケットから部屋の鍵を取り出すと、ドアを開けた。
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ザザン、ザザン…と、潮騒が遠く近く響いている。 寄せては返す波を見つめながら…二人はずっと、どちらも無言で…。 並んで座ってはいるものの、二人の間には微妙な距離があり、間に満ちる重い空気によって、身動きすらままならぬような状態で…。
「オイ…、何か…食うか?」
そう言えば、起きてから何も腹に入れていないと気付き、ムヒョはぶっきらぼうにそう尋ねた。 「いらないもん」 抱えた膝に顎を乗せ、ポソリと呟くロージー。 明らかに怒ってますと語っているその様子に、ムヒョは内心溜め息を付く。 シミジミ、参ったナと思う。 思えば、付き合い始めてからこの3ヶ月、ケンカなどしたことがなかったのだ。 ロージーはいつもニコニコと幸せそうで…、こんな風に不機嫌だったことなど、一度もなかったから…。 どうしていいのか分からないのだ。 分からないからイライラするのだが、それでもまだ、自分が悪いと思っているから、かろうじて「いい加減にしろ!」と怒鳴ることだけはしていない。 ムヒョはムウッと顔を顰めると、ロージーに向き直った。
「…何がしたいか言え。デートしたかったんダロ?」
思い切って、そう聞いてみる。 とにかく、進展がないまま座っているだけという状況は何とかしたい。 だが、 「デートって、もっと嬉しくて楽しいものだと思うんですけど!」 ぷうっと頬を膨らませながら、ロージーは不満そうに呟いた。 「あ?そりゃあ、オメェが仏頂面してんのが悪ぃんダロ?」 「それは…だって、ムヒョが悪いのに怒ってるんだもん!」 「別に怒ってねェよ」 「怒ってるじゃない!ずっと不機嫌そうでさ……」 グスッと鼻を鳴らすロージー。 またジワジワと涙の滲んできた瞳に、ムヒョは顔を顰めた。 「…ああ、待て。泣くナ。違ぇよ、怒ってんじゃねェ…」 「じゃあ、何なの?」 グスグスと鼻を鳴らしながら聞かれ、ムヒョはハーッと溜め息を付く。
「……悪かったって…謝りたかっただけダ。タイミングが分からねぇンダヨ」
顔を顰め、困ったように怒っているように…そして、何ともばつが悪そうに…。 最後の方は珍しくも歯切れ悪く言ったムヒョに、ロージーは目を丸くした。
悪かったって……謝りたかった……? タイミングって…、謝るタイミングが分からなかったの? ムヒョったら………。
「…ムヒョでも…分からない事なんてあるんだ?」 「あ?んなもん、あるに決まってんダローが…」 アホかと、ムヒョは唇を尖らせる。 それにウフフと笑って…。 「何だ、そっか…怒ってるんじゃなかったんだ?なーんだ、良かった〜♪」 つい今し方までの不機嫌な顔は何処へやら…。 ロージーはにじにじとムヒョの隣へ寄ると、ピタリと寄り添った。 そして、幸せそうに嬉しそうに笑う。 「…何ダ、オメェも怒ってたんじゃねェのかよ?」 「え〜、怒ってないよぉ。ボクは悲しかっただけだもん」 責めるつもりではないのだろうその言葉に、けれどムヒョの心はちくりと痛んで…。 「…悪かった」 素直に謝る。 「うん、もういいよ♪結局、デートに来れたし♪」 「んなに…デートしたかったのか?」 「だって、したことないんだよ?ボク達、いっつも学校とか寮の中だけで…」 「………」 思い返せば、確かにこの3ヶ月、二人でどこかに出かけた…なんてことはない。 それでも、いつだって…時間の許す限り二人一緒に居たと…そう思うのだが…。 「それだけじゃダメなのか?」 「ん〜、ダメじゃないけど…だって、約束して二人だけで出かけるとかって…すごく特別な感じがしない?」 特別って嬉しいよね♪と、エヘヘなんて…。 ロージーははにかんだように笑う。
オメェは最初からオレの特別ダ…。
またもや、言えばいいのに言えない言葉を胸で呟いたムヒョ。 複雑な顔でジッと見つめれば、ロージーが首を傾げて聞いてきた。 「……ボクの言ってること、変かな…」 「いや、そんなことねェ」 「ホント?良かった♪」 ニコニコと微笑みながら…それでも目元には涙の跡が残っている。 ムヒョはそっと唇を寄せた。 目元に1回、頬に1回、そして唇に……。 柔らかく捉え、数度重ねて離れて、ペロリと舐める。 「…ん…、ムヒョ…っ」 誰かに見られたら…と思えば、そのキスはいつもよりもずっとドキドキして…。 けれど、
「………腹減っタ…」
キスに続いて聞こえて来たのは、そんな言葉だった。 「え?」 瞳を開ければ、渋面のムヒョ。 「…あ☆あ、そっか、何も食べてナイんだもんね!」 そう言えばさっき、そんなことを言っていたような…と思い出して、ロージーは何だか慌ててしまう。 「何か食いに行くゾ」 ほれ、と…。 先に立ち上がったムヒョから、無造作に差し出される手…。 「うん♪」 その手をぎゅっと掴み、ロージーは嬉しくて何だかニコニコして…。
…手は…繋いでてもいいよね…?
立ち上がっても離さずに…エヘヘと笑ってムヒョを見上げる。 「ね、アイスとか半分こしたりしようね♪」 「あ?」 何じゃそりゃと顔を顰めるのすら、呆れているよりも照れているように見えて嬉しい。 「…行くゾ」 フフ〜♪と笑うロージーの顔をチラリと見やって…ムヒョは繋いだままの手を軽く引いた。
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二人のデートは続く〜。 きっと、ムヒョはロジに振り回されてアイス食べたり、観覧車乗ったりするのでしょうナ。 んで、帰るときには「今度はお弁当持って行こうね♪」とかロジが言って、「もう約束忘れないでねvv」って指切りげんまんさせられるのですよ(悦)
先日始めたこの話。 初々しいムヒョさんが楽しくて仕方ないので、結構間をおかずにまた書きそうです。 次は出会いか初エッチか♪(同人的お約束系で) よろしければ、またおつきあい下さいませ☆
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2007/05/06(日)/20:10:56
No.51
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