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何が起こったというのか…。 何でこんな事になったのか…。
さっきまではあんなに幸せで、穏やかだったのに…。
自分は縛られ、ムヒョは妙な光に包まれ、身動きのとれぬ状態で池の中に沈められてしまって…。
「そんな…!やだ…、やだよ、ムヒョ…、むひょぉ…」
池の畔に膝をつき、ロージーは懸命に深緑の水面を見つめた。 「おい、んな近付くと危ねぇぞ」 グイと、縛られた腕を恵比須に掴まれ引き上げられる。 涙で滲む視界に、けれど、映る二人は笑みすら浮かべて…。 「何でこんな事するんですか?」 「おやおや、どうしたんだねぃ、坊や?悪い龍神様はあたしが片づけて上げたんだから、泣かなくていいんだよ、ねぃ?恵比須の?」 「へぇ、若!」 クックと笑う五嶺の言葉に、ロージーはブンブンと頭を振った。 「わ、悪くないです!ムヒョは全然悪くなんて…っ!」 ボロボロと零れ、周囲に散る涙。 苦しくて、悲しくて、怖くて堪らなかった。 池の中に沈められてしまったムヒョを思えば、どうなったのか…考えるのも怖くて……。 「悪くない?だけどねぃ、帝はそうは思ってないようだよ?」 パチンと扇を鳴らし、五嶺が言う。 「…帝…?」 それは、あまりにも久しぶりに聞いた単語…。 ロージーの脳裏に、まだ年若い帝の顔が浮かんで…。
ケンジが…? ケンジが…ムヒョを悪い龍神だって…言ったの? ボクを連れ戻すように…この人に頼んだ…? …そーゆーこと…なの…? 何で…?
愕然として自分を見つめてるロージーに笑みを深め、五嶺は閉じた扇で軽く首を叩いた。
「さぁて…、お前さんを一番高く買い取ってくれるのは何処だろうねぃ…?」
「え…?」 「右大臣も左大臣も、お前さんが生きてるって分かって大騒ぎさ。あたしに殺せって言ってたけどねぃ…殺しちまったらそこで終わりだろう?生かしときゃもっと金になる…」 「…どういう…こと…ですか…?」 「どういうことですか?やっぱコイツ、全然自分の立場が分かってなかったんだな…気の毒なこった」 バカにしたように笑う恵比須。 ロージーはすっかり混乱して、目の前の二人を交互に見る。
「お前は邪魔だったんだよ。右大臣家にとっても、左大臣家にとっても。帝はお前に首っ丈だったからな」
「……帝が…ボクに…?ボクが…邪魔だった…?」 ほとんど面識のなかった右大臣と左大臣。 いつだって優しかった帝。 かつて自分の暮らした御殿の風景が、頭の中一気に蘇った。 何もかも分からなくなりそうな程混乱しながら、それでも、思考は徐々に色々なことをハッキリとさせて…。
ケンジはボクが好きだったの? だから、ボクは右大臣と左大臣にとって邪魔で…。 それで…ボクは…追い出されたの…?
そうだ…龍神様はムヒョだった…。
そうだよ…。 ムヒョはボクのこと怒ってなんかなかった…。 ボクがみんなと違うから怒ってるなんて…。 ボクがいるせいで雨が降らなかったなんて…、そんなの…全部ウソだったんだ……。
「……酷い…」 涙が溢れ出す。 龍神の生け贄になろうと決意をして御殿を飛び出し、一人で暗い森の中を歩いたあの日…。 怖くて、不安で堪らなかった、あの時の気持ちを思い出して…。 「ふぅん、やっぱり…帝に恩を作るってのが、いっとう魅力的かねぃ…?」 「そうですねぇ、若。龍神を退治し、帝の意中の君を連れ戻したとあらば、若のお名前は一層上がるというもの♪右大臣家も左大臣家も、文句など言えぬでしょう」 「やはり、そうかねぃ♪」 悲しみに打ちひしがれているロージーを余所に、誰に渡すかを話し合う五嶺と恵比須。 そんな3人の耳に、パシャン…と、水音が跳ねた。
「オメェら…ソイツにごちゃごちゃ下らねェ雑音聞かせてんじゃねぇゾ…」
一斉に注目の集まる中、池の中央にムヒョの姿があった。 半身を水中に沈め、未だ光に包まれたまま…それでも、顔からは光が消えている。 「ムヒョッ!」 「ちっ、しぶといねぃ…!」 「でも、まだ術は解けてませんぜ、若!今の内に!」 「ふん、長居は無用ってこったねぃ!」 グイと、恵比須がロージーの腕を引いた。 「やっ、やだぁっ!ボクは何処にも行かないっ!ここにいるんだ!ムヒョの側に…っ」 「あっ、コイツ!立て!」 その場にしゃがみ込んで抵抗するロージー。 「ソイツを放せ」 未だ術に捕らわれたまま、それでも何処か余裕の表情でムヒョは五嶺へそう言った。 「やなこったね」 「ふぅん?どうしても連れてくってーんなら、オレを殺した方がいいんじゃねェのか?」 面白くなさそうに問えば、五嶺はまた扇をパチンと鳴らして笑った。 「それもイヤだねぃ。神殺しで祟られるなんざ、あたしはまっぴらご免さ」 「成る程」 「じゃあ、行くよ。ほら、言うことをお聞き」 背の高い五嶺がロージーを引き上げるようにして連行する。 「やだっ、やめて下さい!いやだ…、ムヒョ!むひょぉっ!」 泣き叫ぶロージーの声に、けれど、ムヒョの口からはヒッヒと小さな笑い声が漏れた。
「…ナら、仕方ねぇナ…」
「うわああああっ?!?!」 続いて響いたのは恵比須の悲鳴。 「恵比須っ?!」 何事かと振り返る五嶺の視線の先で、恵比須はズルズルと見る間に池に向かって引きずられて行った。 「な…っ?!」 バシャァン☆ 高らかに響いた水音。 池に落ちた恵比須は必死に藻掻く。 一体何事なのかが理解できず、パニックすら起こしかけて…。 「っぷ、ぉ…ぷ…っ」 暫し唖然と溺れている恵比須を見つめ、五嶺はそれからキッとムヒョを睨んだ。 「ま、まさか…お前っ!」 「ヒッヒ♪どうしてもロージーを連れていくというなら…、オレは代わりにコイツを頂こうと思ってナ♪」 恵比須の身体には、いつの間にやらムヒョの尻尾が巻き付いている。 「何を…っ!」 「代価としては相当ダロ?」 「ふっ、何であたしが…部下の一人ぐらい…。別に…」 「…ふぅん?ただの部下か?」 「………っ」 笑みを含んだムヒョの声に、五嶺が言葉を失くす。 見つめ合う両者を、ロージーは不安そうな面持ちで見比べることしか出来ないで…。 「ご、りょ…さまっ、オレ…なん、か…っ、かまわずっ!」 バシャバシャと跳ねる水音の合間、苦しげながらもそう言う恵比須。 「オレなんかに構わず、か…。ヒッヒ、健気なこった…」 五嶺は忌々しげに唇を噛み締めた。 「く…っ」 「なぁ、人間ってのはどれくらいで溺れ死ぬんだったっけナ?」 何処か楽しげな顔で。 からかうような声で。 ムヒョは言いながら、恵比須の身体を時折深く水中へと引き込む。 「…が、ぶっ、ぅ…ばっ、んぶ…っ」 苦しげな喘ぎ。 宙を掴もうと藻掻く腕。 水面へ上がる顔は段々とその色を悪くして…。 「む、ムヒョ…ぉ…」 ムヒョは、まさか恵比須を殺してしまうのだろうか?と…。 ロージーは不安に騒ぐ胸をぎゅっと押さえた。 自分の為にやっているのだと…それは分かる。 ムヒョは悪戯に他者の命を奪うようなことはしない。 だから、本当に殺してしまったりはしないはず…と、そうは思う。 思うが、それでも目の前で人が溺れている様を見るのは怖くて…。 ガクガクとロージーの足が震え出し、それがまた五嶺の焦りを煽る。
「……く、やめろ!恵比須を放せ!」
「ヒッヒ♪オメェこそ、ロージーを放すんだナ♪早くしねェと、本当にコイツ死ぬゾ?」 五嶺は言われた通りにロージーの戒めを解くと、どんと背中を押した。 「…とっとと行け」 「え…、ぁ…ムヒョ…っ!」 ムヒョは捕らえていた恵比須を五嶺に向かって放り投げ、駆け寄ってきたロージーの身体にスルリと尻尾を巻き付けると、そのまま水面を滑らせるようにして池の中央へと引き寄せる。 「恵比須!」 「金輪際、ロージーのことは忘れるんだナ。そうすりゃ今日のことは見逃してやる」 「……諦めないと言ったら…?」
「そん時ゃ都を破壊する。帝も大臣共も皆殺しダナ」
龍神様の怒りに触れりゃ、そんくれぇ当然ダロ?と不適に笑って…。 キッパリハッキリ少しの淀みもなく、ムヒョはそう言い放った。 ハーッとため息を付く五嶺。 「ああ、まったく……馬鹿馬鹿しいねぃ…。とんだ骨折り損だよ…」 悔し紛れか、本当に馬鹿馬鹿しくなったのか…。 「…若…申し訳、ございません…」 五嶺の漏らした呟きに、未だ苦しげに息を付きながら、恵比須が謝る。 そんな恵比須を、五嶺は少しの間見つめて…。 「……この阿呆めぃ…」 それから、そっと苦笑混じりに呟いた。
「ムヒョ、大丈夫?」 五嶺と恵比須の姿が見えなくなるまで、森の奥へと視線を向けていたロージーが、おもむろにムヒョを見つめてそう尋ねた。 「あ?オレは平気に決まってんダロ?」 「良かったぁ…!ボク、ムヒョが死んじゃうんじゃないかって…すごく、すっごく怖かったんだよ…!」 ぎゅううっとムヒョにしがみつき、そう言って泣くロージー。 ようやく安心したのだろう。 良かったと何度も呟きながら、濡れた頬をすり寄せて…。 「…オレは龍神様だゾ?んな簡単に死ぬかよ」 ヒッヒと苦笑しながら、ムヒョはそんなロージーに口付けた。
『ここにいる』と…。
自分の側にいると…。 泣きながら叫んだロージーに、愛おしさが止まらない。
都に連れ帰られるのを嫌がって泣いたロージー…。 帝の元に戻ることを選ばなかったロージー。
もう、本当に自分のものなのだ、と…そう思えば、震えそうな程の幸福が胸を満たして…。
「もう、誰にも手出しはさせねぇ…だから、安心して側にいろ」 そう言えば、ロージーは嬉しそうに笑って頷いた。 「うん、ムヒョ…ホントに無事で良かった…」 「オメェこそナ…。さ、もう中に入んゾ」 すっかりびしょ濡れダと、顔を顰めて笑い、ムヒョはロージーを抱えると池の中へと入っていった。
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ウチはムヒョロジでゴリョエビなのです。 エビたんエビたん騒いでたのはトーマス戦の時だけだったので、もう知らない方の方が多そうですが…(笑) ちなみに、この部分を考えたのはその頃だったのですね。 なので、そうだ!ゴリョさんとエビたんを出そう♪とかウキウキ思ってたのですが。 もはや何時の話だ…ってくらい時間経ってますねぇ。。。フ…。。。
てか!最後の部分でムヒョがロージーを抱えてとか書いてますが。 この話のムヒョは大人バージョンではなく通常バージョンです。 でも、ほら、今池の中にいたし。 ムヒョは龍神なので! 何でもオケなのよ〜!と(笑)
しかし、元々池の中に棲んでるんだから、心配しなくても死なないよ…とか…、ロジは思わなかったんだろうか(苦笑)
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2007/02/08(木)/14:19:35
No.46
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