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13☆
きっと、もっとちゃんと考えなければいけなかった。
ムヒョが「危ない」と言った、その事を…。 そう…ムヒョは、危ないからボクに一緒に行くのはダメだと言ったのに…。 危ないと聞いたその時に、ムヒョを止めていれば良かったんだ…。
「ペイジさん?!」
ヨイチの車でエンチューの家へと赴けば、その玄関の前…ペイジが一人佇んでいた。 ムヒョの姿はない。 その事に、イヤな胸騒ぎを覚えながら…。 ロージーは助手席を降りると、ペイジの元へと駆け寄った。 「ロージー君?!何故ここに…」 「ペイジさん、ムヒョは?一緒じゃないんですか?」 「……ムヒョは、中だ…」 必死な様子のロージーに、やや困ったような顔で…ペイジはぽつりと言う。 視線の先には大きな屋敷。 古めかしい洋館…とまでは行かないが、何年も人の入っていないようなその家は、いかにも幽霊なんかが好みそうな雰囲気を持っていて…。 「…中…」 閉ざされた大きな玄関を見つめ、ロージーはゴクリと喉を鳴らした。 「え?何で一緒じゃないんだ?」 その横からきょとんとして問うヨイチ。 「私は追い出されてしまってね…。あの子は…ムヒョを待っていたんだな……」 「あの子……?」 ムヒョを待っていた、という言葉に胸騒ぎが酷くなる。
「この家に、昔住んでいた子どもだ…」
ペイジの言葉はやけにハッキリと、大きく響いた気がした。
「んな、バカな…っ!エンチューは死んでねぇぞ?!」
ヨイチの声も酷く大きく聞こえた。 ロージーだけがただ一人…声を出すことも出来ずに…。 玄関の扉を凝視する。
この家に…昔住んでいた、子ども…。 その子はムヒョを待ってた…。 ムヒョを待ってて……今、ムヒョを……。
轟々と、風の音が聞こえる。 目眩がして気持ちが悪い。 息が苦しい。
「おい!ロージー!」 ヨロリとよろめいたロージーを、ヨイチが慌てて抱き留めた。 「大丈夫か?」 「…え…して……」 グイと腕が押しやられる。 「ロージー?」 「ムヒョは…、ボクのだもん…」 覗き込んだ顔は、涙を懸命に堪えていた。 「返して…貰わなきゃ…!」 ヒクと喉を震わせ、ヨイチの手を振り解いて…ロージーはヨロヨロと玄関へ向かう。 「ロージー君、危険だ!」 立ちふさがるペイジを見上げ、涙はついに溢れ出して…。 ボロボロとこぼれ落ちてしまった。 「退いて下さい!ムヒョはボクのなんだ!ムヒョは、ボクの…っ!なのにっ」 ムヒョ、ムヒョと心の中で何度も名を叫ぶ。 「ロージー君、落ち着いて、ムヒョはきっと大丈夫だ」 「ロージー、オマエが行って入れるわけないだろ?な?頭冷やせって…」 「だ…って…っ、だって…ムヒョ…っ」 宥める二人に頭を振り、ロージーは泣きじゃくることしかで出来ないで…。
今すぐムヒョの姿が見たかった。 抱きしめて欲しかった。 自分だけが好きだと、自分以外の者など要らないと、そう言って欲しかった。
エンチューはムヒョを待っていたという…。
この家で、ずっと…。 ならば、この家に戻って…ムヒョは…どうするだろう? 待っていたエンチューを見て、ムヒョはどう思うのだろう?
「やだ…、いやだよぉ……」
嗚咽を漏らしながら、ロージーは玄関に向かってそう呟いた。 不安で怖くて堪らなかった。 家に戻ればいつも「おかえり」と「遅かったナ」と、自分を迎えてくれたムヒョ…。 だが、この中でエンチューに「おかえり」と言われ、ムヒョは「ただいま」と答えているのだろうか…。 「そんなの…いやだぁ……、ムヒョォ…!」 ひっくとしゃくり上げ、ロージーがムヒョを呼んだその時…。 バンと大きな音が屋敷の中から聞こえてきた。 玄関のドアに、何かがぶつかったらしい。 そして、
『ムヒョじゃない…』
聞こえてきたのは、そんな声だった。 高くて澄んだ子どもの声…。
『違うね…、ムヒョじゃない…』
それは、声として耳に聞こえているのか…。 それとも、念のように頭に響いているのか…。 建物の中からだというのに、やけにハッキリと聞こえて…。
『ムヒョじゃないね…?』
「…ワケ、分かんねェゾ…、オメェ…」
続いて聞こえたムヒョの声は、それとは対照的に小さく微かであった。 「ムヒョ!」 ペイジとヨイチの注意が逸れた隙に、ロージーはその手を振り解くと玄関へ駆け寄る。 「ムヒョ!ムヒョ、そこにいるの?」 「…ロージー?何で…っ」 縋り付くように張り付いたドアの向こう…。 自分に向けられた、不思議そうなムヒョの声を聞いて…ロージーの頬を新たな涙が伝った。 「ムヒョ、ここ開けて…?ねえ、帰ろう、ムヒョ…。お願い…」 今すぐに、ここから離れたかった。 恐らく、今ムヒョの目の前にいるのだろうエンチュー。 ムヒョはどうやら、エンチューを前の持ち主だと分かってはいないらしいから。 今なら…と。 今ならまだ間に合うのでは、と…ロージーは必死で…。
『ボクのムヒョは何処?』
またエンチューの声がする。 近く、遠く。 子どもの声と分かるのに、その声にはあどけなさなどかけらもない。 不安を掻き立てるその声が、その声の主が、ロージーはただただ怖くて…。 怖くて堪らない。 「だから…、ワケ分かんねェっつってんだろーが…!」 不機嫌に答えるムヒョの声。
『…キミはそんなに似てるのに…違うの?ううん、そんなことないよね?』
頭に響くエンチューの声。 ロージーは祈るように目を閉じた。
お願い…お願い…。 その声を聞かないで。 その声に答えないで。 その子を見ないで。 何も思い出さないで。
「ムヒョ…、お願い……」
その子を思い出さないで…! ボクだけのムヒョでいて…!
ロージーの懸命な思いは、ムヒョに届いたかどうかは分からない。 だが、確実に…エンチューには届いたらしい。
『……誰?キミ…』
すぐ近くで、そう声がした。 「っ?!」 玄関のドアから現れる白い子どもの影…。 大きな瞳がじっとロージーを見つめて…。
『…キミが…ボクのムヒョを隠しちゃったの?』
面白くなさそうにそう言った。
+ 続く + 12を読む +
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とゆことで。 いよいよ子どもエンチューが出てきました。 どうも私はエンチューさん出すの好きらしく。。。 しかも、どうやってロジを苛めてもらおうかな〜と、それを考えるのが楽しくて堪らないようです(笑) (憂鬱な夜の殺し方も、1を書いてる途中で、エンチューがロジを訪ねてくるところが浮かんじゃって、まだ1が出来てないのに2のあの場面だけを先に書いちゃったりしたのでした。4もね、そんな感じのトコがあるのですが…ちょっと全部書き直しっぽいです;;;)
しかし…ペイジさんとヨイチ…活躍しないですねぇ……;;;; この二人も好きなのになぁ…(汗)
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2007/01/26(金)/15:24:41
No.44
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