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「ねえ、ムヒョムヒョ♪」 その日、小高い丘の上で、二人並んで満月を眺めていると、ふいにロージーがはしゃいだ声を上げた。 「どうした?」 「ムヒョってお月様まで行ける?」 「あ?ああ、何回か行ったことあるゾ」 随分前の話だがナと言えば、ロージーはキラキラと瞳を輝かせる。 「すごーい!ホントに行けちゃうんだ?!ねえねえ、お月様にはウサギがいるって本当?お餅ついてた?」 「あ?ウサギ?ウサギなんざいなかったゾ?何でウサギなんだ?」 「えっ、いないの?」 きょとんとして言えば、途端にトーンダウンする声。 明らかにガッカリしたロージーに、ムヒョは何だか慌ててしまって……。 「い、いや…、オレは、見かけなかったゾ?だが、月も広いからナ!だから、オレが見なかった他の場所にはいたかもしれんゾ」 アワアワと取り繕うように…。 「あ、そっかぁ☆そうだね、この世界だってとっても広かったものね」 苦しいムヒョの言葉に、ロージーはそれでもあっさりと納得した。 しょんぼりガッカリと沈んだ顔を、すぐにまたキラキラわくわくと明るくさせて、月を仰ぐ。 「お月様…ここで見てるとそんなに大きくないけど…ホントはとっても大きいんだね」 「……月にウサギがいるって…、誰かに聞いたのか?」 「うん♪前にね、偉いお坊様がそう教えてくれたんだよ♪」 お餅を付くウサギさんなんて、可愛いよね♪と…。 無邪気な様子でニコニコ笑われ、ムヒョはそれに見とれてしまう。
オメェのがよっぽどダロ…。
「あ、ボク!ウサギ好きだよ♪白くて紅い目で耳が長くて…可愛いよね♪」 「そうだな」 ロージーの好きな物探しは、こんな風に会話の合間合間、気付いた時に続いていた。 「お月様も好きだし、夜も好き♪」 「朝も昼も好きなんだろ?」 そう言って少し呆れたように笑うムヒョに、ロージーはフフと少し意味ありげな笑みを浮かべる。 それを、何ダ?と聞く前に…。
「あのねぇ、朝も昼も夜も…ムヒョが一緒に居てくれる時が好きなんだよ」
ロージーは打ち明け話をするようにそう言った。 「………いつも…一緒じゃねェか…」 嬉しいながらも照れくさい。 コイツ、ここで喰ってやろうか…なんて思いつつ、何だかぼそぼそと言えば、 「だって、ムヒョ…たまにお出かけするから…」 ロージーは少し寂しそうな様子を見せて言う。 「…まあ、でも…だからこそ…一緒に居てくれる時が好きなんだって分かるんだけど…」
その言葉に…。 その視線に…。 その笑顔に…ドキドキする…。
明るい月明かりを浴びて、キラキラと輝いているロージー。 柔らかで優しい光が、何て似合っているのだろうと思いながら…。 「…オメェ……」 「ん?」
オレのこと、好きか?と…。
そう聞こうとして、ムヒョは言葉を飲み込んだ。 今、言うべき言葉はそれではない。 だって、ロージーの答えは分かっている。 ムヒョが「好きか?」と尋ねたら、ロージーは「好きだよ」と嬉しそうに答えるに決まっているのだから…。 「ヒッヒ…」 ムヒョは小さく笑みを漏らした。 確実に近くなっていると感じるロージーとの心の距離…。 だが、このままではこれ以上は何も変わらないのだ。
「…オレは…オメェが好きダ…」
そう、自分がまず正直に伝えなければ…。 「ムヒョ…」 月明かりを受け、いつもよりも明るく見える茶色の瞳。 それはムヒョの言葉に少し大きく瞠られて…。 驚いたように、嬉しそうに。 そして、僅かばかり目線を伏せ、顔を赤らめる。 「ボクも…キミが好きだよ……って、あのね、何か…不思議なんだけど……」 「何だ?」 「ムヒョのこと、好きっていうのは……何か、他のと違ってて……よく分からないんだけど…」 モジモジと言われたそのセリフに、ゾクリと背筋を走ったのは何の震えか…。 ムヒョは立ち上がると、やや低くなったロージーの顔を覗き込むようにして口付けた。 「んん…、ムヒョ…?」 「オレも、同じダ」 嬉しくて、何度も顔に唇を落としながら…。 言えば、本当?と、ロージーは嬉しそうに笑った。 「じゃあ、ドキドキする?」 「ああ」 「じゃあ、ボクがムヒョのこと考えると嬉しいみたいに、ムヒョもボクのこと考えると嬉しい?」 「ああ」 「じゃあ…、ずっと…、ボクをキミの側に置いてくれる?」 「最初からそのつもりダ」 「そうなの?良かった…♪」 ぎゅうっと抱き締められ、ムヒョもまた抱き締め返す。 「オメェはオレのモノだっつったロ?」 「うん♪」
愛する者に愛される喜びを噛み締めて……。
月明かりの中、二人だけ……。
「ムヒョ、何だか良くない風が吹いてるよ」
ロージーが寝てしまった後…。 ムヒョが一人で池の外に出てみれば、そこには先客が居て…。 未だ清かな月光の中、風に吹かれて佇むエンチューが、ぽつりとそう告げた。 「あ?」 顔を上げれば、その視線を遮るようにもう一人…ヨイチが姿を見せる。 「ああ、気を付けた方がいいぜ?帝がロージーを探してるって噂だ」 「探してるのは帝だけじゃないって方が問題だけどね」 「フゥン…?」
帝がロージーを探している? 探しているのは帝だけじゃない?
じいっと…探るようなムヒョの視線に、鬼の子二人は何を思うのか…何も思ってはいないのか…涼しい顔を向けている。 「今更だナ」 ヒッヒと笑って、ムヒョは肩を竦めた。 「へえ、余裕だね?」 「このオレが人間のすることなんぞいちいち気にするわけねぇダロ」 「ほー?こないだと随分違うじゃん」
ロージーは自分を愛している。
今のムヒョにはその確信がある。 だから、帝の存在など、今更きになどかける必要はない。 その余裕がありありと見えるムヒョに、エンチューとヨイチも大体の事情を察して…。 「ふーん、でも、用心に越したことはないと思うよ?」 「そうそう、早いトコ、ベッドに戻った方がいいぜ?」 今頃、目を覚まして泣いてるかも知れない、なんて。 「ウルセェ」 からかわれてムッとしつつも、ムヒョは戻ることにした。 ロージーの側に、と思えばどうしても顔が緩んでしまう。
柔らかな布団にくるまって眠るロージーの隣は、さぞ温かいだろう。
ムヒョの顔に浮かんだ何とも幸せな笑み。 そして、それをまた見逃してはくれない二人の鬼達。 「わ〜、オーラが幸せピンク色だよ〜♪ムヒョってば♪」 「おーおー、羨ましいことで♪あんまロージーちゃんに無茶させんなよ?」 やいやいと囃し立てる声に、今度は余裕の笑みだけ返して…。 ムヒョは池の中の御殿へと戻っていった。
+ 続く + 9を読む +
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わー、すっごいおサボリしてましたね。 久しぶり過ぎて、何だか話や雰囲気がいまいちピンと来てない私ですが…;;; 大丈夫かなとか思いつつ、更新してしまいます(いいのか)
相思相愛の意思確認が取れたらしいムヒョとロジ。 このまま一気に終わらせちゃうか、ちょっと間にラブラブしたモノを書くか、とか迷いつつ。。。
また、ぼちぼちとSS更新再開していこうと思いますので、よろしければお付き合いいただけると嬉しいです〜☆ 本年も、よろしくお願いいたします(^v^) ←明けて20日近くなるのに……;;;「今更だナ、ヒッヒ」だよ!
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2007/01/19(金)/16:39:15
No.43
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