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11☆
「ねえ、ムヒョ?聞いてもいい?」 プランツ屋からの帰り道…。 てくてくと二人並んで歩きながら、ロージーは自分より背の高くなったムヒョを見上げてそう言った。 「何ダ?」 「ムヒョ、お仕事っていつ行くの?また、ボクが居ない時?」 「……知ってたのか?」 青い瞳が少し瞠られる。 「うん。いつか…言ってくれるかなって待ってたんだけど…」 咎めるように言ってみれば、ムヒョが少し困った顔になったのが分かった。 「ロージー…、怒ってるのか?」 その問いに、少し胸が痛む。 「…怒ってたら、どうするの?」 ロージーは立ち止まると、ジイッとムヒョを見つめた。 本当は怒って等いない。 ただ、心配して…不安だっただけだ。 ムヒョもまた足を止め、ロージーを見つめて…。 「悪かった…」 素直に謝る。 「ウソだよ」 クスッと笑って言えば、ムヒョはきょとんとした顔になって首を傾げた。 「ウソ?」 プランツはウソなんて付かない。 だから、ウソというもの自体知らないし、分からないのだ。 「怒ってないってこと」 プランツらしい反応を見せたムヒョに、ロージーは何だか複雑な気持ちになって言う。
ムヒョ、プランツは隠し事もしないんだよ…?
働いたりなんて、勿論するわけもないし…。 持ち主以外の人間は認識しないから、知り合いなんていない…。
ムヒョは特別だとヨイチは言うが…それにしたって…と思う。
『安心しロ。オレが責任取ってやる』 『オメェは何も心配しなくていいゾ』
すごく嬉しかったし、格好良かったし、幸せだけど…。 だけど…何か、ちょっとだけ怖い……。
ムヒョはあまりにも人間に近すぎる気がして…。
「ねえ、ムヒョ?」 再び歩き出しながら、声をかける。 「何だ?」 後ろから追いかけてくるムヒョ。
「エンチューさん…って、どんな人?」
振り返らないまま尋ねれば、 「あ?誰ダそりゃ…?」 直ぐさま逆にそう聞かれた。 また足を止めれば、追いついたムヒョが顔を覗き込んでくる。 「ロージー?」 戸惑いの表情。 ムヒョが困ってるのが分かるが、それでも止まらなくて…。 「知らない?」 「ああ」 「覚えてないの?全然?」 「会ったことあるのか?」 「うん…あるよ…」 きゅうっと寄せられている眉根。 もうやめなきゃと思うのに、どうしても、言葉が出てしまう。 「ねえ、じゃあ…ムヒョが知っている人って…ボクとパパとママと、ヨイチさんとペイジさん…それだけ?」 「ああ、そうダ」 キッパリと頷いて、真っ直ぐに見つめる青い瞳。
綺麗な綺麗なこの瞳に映るボクは、何て醜いんだろう……。
そう思えば悲しくて堪らなくなった。 今朝はあんなに幸せで、世界中がキラキラして見えるくらいだったのに…と、そんな気分で…。 ムヒョの瞳を見つめているのがいたたまれなくなって、ロージーはふいと視線を逸らす。 「ロージー?」 心配そうなムヒョの声。
「……ごめんね…」
小さな声で呟けば、ムヒョはますます心配になったのか、そっと抱きしめてくれた。 「何で謝るんだ?」 優しく尋ねられ、泣きそうになりながら…。 「…ううん、何でもない…」 ロージーはそう言って目を閉じる。 「……ムヒョ、あったかいね…何だか、子供の時より温かい気がする」 普通逆だよね、なんて。 「あ?オメェもあったけぇゾ?」 フフと笑えば、ムヒョは少しホッとしたようにヒッヒと笑った。
ムヒョは本当に覚えてないのかな……。 前の持ち主のこと……。
どうしてもどうしても気になってしまうその事を、懸命に頭から追いやる。 ムヒョは覚えてない、知らないと言ったのだから。 プランツはウソなど付かないのだから。
だから、きっと本当に覚えていないのだ…。 だから、きっと自分も忘れてしまっていいのだ…。
ムヒョに自分以外の持ち主が居たなんて事は……。
「…ねえ、ムヒョ?お仕事って…一緒に行っちゃダメ?」 「危ないからダメだ」 唐突に話題を元に戻せば、ムヒョは困ったように顔を顰めた。 予想通りの答えに、それでもちょっとガッカリする。 「そう…。じゃあ…いつ行くのか位教えて?」 それくらいはいいでしょう?と…。 「……わかっタ。決まったら教えル」 「絶対だよ?」 見上げて言えばクスリと笑って…ムヒョはまた軽い口付けをくれた。 「ああ、ちゃんと言う」 「うん♪」 プランツの言葉は真実だから。 それは約束と同じだから。 朝と同じに、安心と幸福が胸に広がるのを感じる。
きっと平気、全部平気。
何故かそんな風に思える。 やがて、そっと離れる身体…。 陽の落ちた街、冷たい風が温もりを奪うのを止めるように、手を繋いで…。 空を仰げば一番星。 「もうすっかり暗くなっちゃったね」 「ああ、早く帰るゾ」 冷えるといけないからナ、と呟きながら、手を引いて歩き出すムヒョ。 相変わらず自分を心配してくれるムヒョに、ロージーは何だかフフと笑ってしまう。
こうして、ただ幸せで、嬉しくて、甘いものだけを、感じていられたらいいのに…。 どうして、いつもその裏に不安と心配があるのか…。
そんなことを思う自分に、こっそりと溜息を付いて…。 「帰ったら、温かいミルクを飲もうね」 ロージーは努めて明るい声で、ムヒョにそう言った。
+ 続く + 10を読む +
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ここはどんだけ人通りの少ない道なのでしょうか…(笑) 天下の往来でギュウギュウちゅっちゅしてるのは一体どうなのか…と思いつつ(笑) だってムヒョがそうしたいってゆーんだもん〜☆
まあ、でも、ほら! 原作でも魔法律協会の街中でプロポーズしてましたからねっ! 気にしない方向で☆(え) (ロジの「ついていくもん…」はJUSのコマにも使われてて、しかもその説明がホントにラブコメでどうしようかと思う程なんですが…(笑)見る度、この説明文書いた人大好きだと思うよ、ホントに)
さて。12月に入ったので、ちょっと更新停滞するかもしれません〜。 でも、たまに覗いてやって頂けると嬉しいです(爆)
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2006/12/02(土)/02:05:58
No.41
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