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『オイ、オメェ…何かしてェことはあるか?』
そう聞かれた。
『何か…欲しい物があれば言え。何でもいいゾ』
そう言われた。
何がしたいとか、何が欲しいとか、今までそんな事聞かれたことがなかった。
何もかも、ただ与えられるだけだった。
だからちょっと戸惑ったけど…。 でも、聞かれると何だか嬉しい気がする。
それが何でかは…分からないけれど……。
「オメェ、何が好きなんだ?」 空から戻って、のんびりと午後を過ごして…。 ふいに、ムヒョはそう尋ねた。 「え…?」 きょとんとするロージー。 「食い物でも、物でも…何でもいい。何か教えロ」 じいっと見つめてそう言うが、ロージーは困ったように顔を俯かせて…。 「ええと…、ボクは…何でも…」 「それじゃ答えになってねェだろ」 「う、うん、でも…」 普通、困るような質問ではない。
ムヒョは、ロージーのことを知りたいのだ。
好きな物、嫌いな物。 何を見てどう思うのか。 何をしてどう感じるのか。
何でも知りたい。
だが、ロージーの場合、当の本人が『自分』を全然分かっていないようなので…。 「フゥン…。なら…」 ムヒョはそう言うと少しだけ視線を彷徨わせ…、それからニヤリと笑みを浮かべた。 恐らく…。 ロージーは自分の好みなんて物を考えたことがないのだろう。
ならば、今から知ればいい。 そう、一つずつ、一緒に……。
そして、ぱちんと指を鳴らせば、ぼぼんっと現れる山のような果物…。 一体何種類あるのか…。 季節すら無視して現れた果物類に、ロージーは驚いて目をぱちくりさせた。 「選べ」 「え?」 「これがウマイって思うモンがあるだろ?こっちよりこっちのがいいってのが…」 「あ…ウン!」 ムヒョの言いたいことが分かり、ロージーはパアッと顔を輝かせる。 そして、 「えーっとねぇ、あっ!これ!」 真っ先に手に取ったのは、真っ赤なリンゴだった。 「他には?」 「うんと……あ、これも美味しかったな…後はね…」 そうして、一つ一つ…。 選び出されて行く、好物。 10個ほども選び出されると、それを満足げに眺め、 「覚えておけ。ソレがオメェの好きなモンだ」 ムヒョはそう言った。 「…うん!」 「まずは果物ナ。一つずつ、分かってきゃいいダロ」 オメェの好きなモンをよ、と。 自分がそれに関わることがまた嬉しい。 ヒッヒと笑いながら言えば…。 「ん…どうした?」 じいいっと、ロージーが自分を見つめているのに気付き、ムヒョは尋ねた。 「あのね、ボク、もう一つ分かったよ!」 ロージーはそう言ってフフフと嬉しそうに笑う。 「あ?」
「ボクねぇ、ムヒョが好きだと思う!」
「………」 思いもかけぬ言葉に、ムヒョはポカンとしてしまう。 だが、ロージーは相変わらずニコニコと笑みを浮かべたままで…。 「ボクはあんまり人を知らないけど、だけど、ムヒョの事はすごく好きだって気がするよ」 なんて…嬉しそうに楽しそうに…。 「………」 「って、ムヒョは人じゃないんだよね。でも、龍神様がムヒョで良かったな♪」 「………」 「あれ?ムヒョ?どうしたの?」
果物と同じ…果物と同じ…果物と同じダ…! 落ち着け…オレ…!
ドッドッドッド…と、早鐘のように鳴る鼓動。 赤らんでしまう顔を、思わず背けて…。 「ああ…じゃ、まあ…それも覚えとけ」 なんて…、ムヒョは何だか間抜けな返答をしてしまう。 だが、ロージーはそれを可笑しいとも変だとも思わなかったようだ。 「うん♪」 ただただ素直に返事をされ、それには苦笑するしかなくて…。
ま、一歩くらいは進歩したってトコか…?
ムヒョだって、自分の『好き』とロージーの『好き』は違うと分かる。 今は果物なんかと同じ程。 だがそれでも、単なる『新しい主人』よりは上がったとそう思うから…。 まあ、いいか…なんて思っていれば、 「ねえねえ、ムヒョは?」 ニコニコと顔を覗き込まれた。 「あ?」 「ムヒョは何が好きなの?ボク、知りたいな」 「あー…オレが好きなのは…ま、オメェと大体一緒だナ」 「ホント?」 「ああ」 「そうなんだ〜♪へ〜、何か嬉しいな♪」 フフ♪と幸せそうに笑うロージーに、胸がドキリとする。 別に、適当に合わせたわけではない。 ロージーが選んだ物に、あまり奇抜な物がなかっただけのことだ。
「……オメェもな」
胸を満たした甘く温かい物に後押しされるまま、ぽつりとそう呟いて…。 ムヒョはスッと立ち上がった。 「え?」 ロージーの不思議そうな声を背中で聞きながら、そのままスタスタと歩き出す。 「ムヒョ?何処行くの?」 「少し出かける」 「え??ムヒョ?」 ムヒョォ…と。 呼ばれる名が、何だか少し寂しそうな響きに聞こえるのは…期待なのだろうか。 それとも、少しくらいはそう思ってくれたりするだろうか…。 そんなことを考える自分に、呆れた笑みを浮かべながら、ムヒョは部屋を後にした。
「…今日は用事ナイって…言ったのに……」 ムヒョの姿が消えた扉に向かい、溜息混じりに呟く。 「急に用事思い出したのかなぁ…」 あーあ、なんて…。 何だかとてもガッカリしている自分。
待つことは馴れているし、一人でいることも馴れている…はずだ。
ずっと一人だったのだから。 一人でいることは当たり前で…。 寂しいなんて思ったことはなくて…。 むしろ、気が楽なはずで…。
「………あれ…?」
何かを、ふと思い出した気がした。 何か、同じような事を思ったことがある…そんな気がする。
「…何だろう…何か……思い出しそうだけど…??」
それはきっと…遠い記憶。 思えば、ロージーには幼い頃の記憶が殆どと言っていい程ない。 記憶を探ろうとすれば、何やら胸が痛む気がして…。 ロージーはフルフルと頭を振った。 きっと、それは忘れてしまっていい記憶なのだ。 多分。 忘れた方がいいから忘れた、そんな記憶だと…何故だかハッキリそう思う。 イメージの断片からそう判断し、ロージーはそれ以上考えないことにした。 モヤモヤは残っても、きっとこれ以上、心が痛くなったり苦しくなったりしないから…。
「……ボクの好きな物、か…」
先程選んだリンゴやミカンをズラリと並べ、ロージーはポツリと呟いた。
これがボクの好きな物…。 ムヒョが教えてくれた……って、ボクのことなのにね…。
『一つずつ、分かってきゃいいダロ』
そう言ってくれたことが、とても嬉しかった。
「…あ、そうそう!あと、ムヒョも♪」 フフフと笑みが漏れる。 好きな物を前にした時や、思い浮かべた時の、この何とも言えぬ感じは何なのだろう。 心が温かくなるような、何だかワクワクするような…。 それは、モヤモヤを打ち消して余りある。 「そういえば…」
『オメェもな』って…。 そう言ったよね。 出かけるってゆー前…、あんまりよく聞こえなかったけど、確かそう言った…。
「あれって……もしかして、ボクのことも好きって事かな…?」
そう思えば、何だか急にドキドキして…。 かああっと火照った頬を押さえ、ロージーはざわめく胸に戸惑いを覚えるのだった。
+ 続く + 8を読む +
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本当は昨日更新予定だったんですが…。。。
JUS届いてからDSに釘付けで、SSも原稿もスッカリ頭から飛んでました☆(死)
だってだって、ムヒョが魔元帥呼んじゃったり、幽李は真の姿バージョンで出たり、ロジが守ったり、ムヒョが攻撃喰らって吹っ飛んだり(爆)、負けて「チッ」とか言っちゃったりするんだもーーーーんvvvv そら、やっちゃいますって! 寝不足になっちゃいますって!(子供か…)
とまー、その語りはSNSの日記かブログにでも書こうと思いますが。
えー。 ブログの方にちらっと書きましたが、龍神、プランツの両SSとも、もうじき終わる予定です。 っても、年内に終わることはないだろうと思いますが…。 てか、12月の更新状況どうなるか…って感じですね。。。(^-^;) あまり、間を空けずに更新していきたいと思ってますので、よければまた読んでやって下さいませ☆
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2006/11/24(金)/15:39:09
No.40
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