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朝なのか、昼なのか、それともまた夜だったりするのか……。 時間感覚の薄いその部屋で、眠りから覚めると、すぐ側にムヒョがいた。 何だか嬉しそうに自分を見つめている青い瞳…。 それに眠る前のことを思い出して…ロージーはかああっと頬を染める。 「お、おはよう、ございます…」 段々と消え入りそうな声で言えば、ああと短く頷いて、ムヒョは額に軽くキスを落とした。 「め、珍しいね、今日は出かけないの?」 「ああ。今日は別に用もねェしな」 「そうなんだ…」 もじもじ。 もじもじ。 「どした?」 何故か落ち着かない様子でいるのを不思議に思って尋ねれば、 「えっ、あ、ううん…何でも…!」 ロージーは慌てたように首を振った。 「腹が減ったか?」 「ううん、そうじゃなくて…」 「じゃあ、何ダ?腹がイテェのか?」 「や…、腹は減りも痛くもなくてね…その……ほら、裸…だから……」 言いながら、かああっとどんどん赤く染まって行く頬。 既に三度。 既に三度も肌を重ねて、隅々までを晒しているというのに、それでもまだ、恥ずかしいらしい。 ロージーの言葉と態度に、ムヒョは一瞬だけきょとんとした顔になったが、スグにヒッヒと笑った。 それはそれは楽しそうな、愉しそうな笑顔。 「あ〜、確かに何も着けてねぇナ♪」 「ひゃぁあっ?!」 すいっと腰から脇腹を撫で上げられ、ロージーが大きく身を竦める。 高く上がった素っ頓狂とすら言える声…。 色気なんて欠片もないような声だというのに、何故かそれはムヒョをゾクリとさせて…。 このまま布団の中に潜って、心ゆくまで撫で回すってのも楽しそうだナ。 ちょっと真剣にそんなことを思う。 掌の下の温かで柔らかな感触。 いつまでも触っていたい気持ちにさせられる。 「む、ムヒョ…」 困ったような、少し焦っているような声と表情。 それにまた、ヒッヒと笑って…。 ま。人間は弱ェからナ…。 「…腹が減ったナ…メシにするか」 ムヒョはそう言うと、スルリとベッドから降りた。 「!」 裸のままスタスタと歩いて行く後ろ姿に、ロージーの方が慌ててしまう。 とは言っても、その後ろ姿はどう見てもただの子供…。 別に照れるようなものではナイのだが…。 「…うう…」 小さく呻いたロージーの横、クスリと小さな笑い声が聞こえ、同時に柔らかな明かりが灯った。 「おはようございます、ロージー様」 そして聞こえる白妙の声…。 一体いつからそこにいたのか…と、少しだけギクリとする。 「お、おはようございます、白妙さん」 「今朝は湯浴みになさいますか?お食事になさいますか?」 「あ…、ムヒョがお腹空いたって言ってたので、ボクもご飯にします」 「では、すぐにお着替えを」 すうっと遠のく白妙の気配。 改めて、自分が何も着ていないことに赤くなりながら…。 そういえばと、ふと思う。
朝食一緒に食べるのって初めてだ…。
ここへ来てからずっと、昼や夜はムヒョと一緒に食べている。 今日は朝も一緒なのだ。 「…ふふ♪」 「どうかされましたか?」 小さく笑ってしまうと、白妙が不思議そうに聞いてきた。 「ううん、ちょっとね…」
ちょっと、嬉しいなって…思っただけ。
御殿にいた頃は、いつも一人だった。 世話をしてくれる者は常に側にいたが、共に食事をしたりはしない。 同じ空間に、同じ立場でいてくれた人などいなかったのだ。
でも、ここではムヒョが一緒にいてくれる……。
そう思うと、何やらほんわり、胸の中が温かくなる気がする。 不思議だなと、ロージーは思った。 昨日までとは明らかに違う。 何かが変わったような気がするのだ。 自分とムヒョとの間で…何かが変わった。 ただ、それが何かは分からないけれど…。
「オイ、オメェ…何かしてェことはあるか?」
「…え?」 食事が終わる頃、唐突に駆けられたその言葉。 きょとんとしたロージーに、ムヒョはもう一度尋ねる。 「何かしてェと思うことはあるかって聞いてんだヨ」 「…したい…事…?」 明らかに戸惑っている事が分かる、頼りなげな声。 「だから…、たとえば…外に出たい、とか…ナ」 困惑しているロージーに、ムヒョはやや口ごもりながらそう言った。 それを口に出すのは、思う以上に勇気のいることだったようだ。
もし、ロージーが外に出ることに喜びを示したら…自分は冷静でいられるだろうか…?
『御殿を見に行きたい』と…、そんなことを言われたら…? 『帝の姿を見たい』と…。 『帝に会いたい』と……言われたら……。
言わなきゃ良かったと、後悔しながら返答を待っていれば…。 「ええと…?外…って……お庭?ここにお庭があるの?」 ロージーは、全く分からない様子で小首を傾げた。 は…と、小さく息が漏れる。 安堵したような、呆れたような…どちらとも付かぬ溜息。 「いや…、そりゃ、庭もあるけどナ…」
あ、あれ? ボク、何か変なこと言っちゃったのかな…?
ムヒョに苦笑され、ロージーはオロオロしてしまう。 どうやら、自分の答えは随分と的はずれだったようだ。 「後で庭に案内してやるか?」 「…ううん、いい…です…」 ムヒョの期待する答えって何だったんだろう?と何だかしょんぼりして、ロージーは首を振る。
御殿にいた頃…、ロージーは自分の部屋と、その前の庭だけが『世界』で…。
その庭にすら、ほとんど出たことはなかったのだ。 御簾を上げ、花を、草木を、雪を、月を…眺めるだけ…。 だから、外に出て何かをするなんて…思いも寄らなくて…。
ムヒョの言う『外』が、何処を指すのかが、よく分からない。
「…あ!もしかして、昨日みたいに空を飛ぶ、とか?」 外、外…と考え、そういえば!と浮かんだのは、夕べ、龍の姿になったムヒョが空の上から見せてくれた世界…。 そう、あれこそまさしく『外』であろうと…。 思いついたことが嬉しくて、ロージーは表情を明るくしてそう言った。 「…ん?ああ、それでもいいけどナ」 空か…と、ロージーの言葉を少し意外に思いながら、ムヒョは頷く。 成る程、なまじこの付近に連れ出すより、いいかもしれない。 池の側には詮索好きの鬼達が、ムヒョがロージーを伴って出てくるのを、今か今かと待ちかねているに違いないのだから…。 「空の上、そんな気に入ったのカ?」 笑いながら尋ねるムヒョに、今度の答えは当たりだったようだと思ったロージーは、ニコニコ笑って頷いた。 「うん♪だって、すごかったもん!」 「ふーん。じゃ、まあ…そうすっか♪」 「ホント?嬉しい!」 パンッと両手を叩いて喜ぶロージー。 空を飛べる事も嬉しい。 だが、ヒッヒ♪と笑ったムヒョが嬉しそうに見える事が、もっとずっと嬉しい、と……。 それをただ漠然と感じて…。 「なら、行くゾ」 差し伸べられた手をぎゅっと握り、ロージーは元気に「ウン!」と頷いた。
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さあ!ちょっとラブくなってきたでしょうか?!?! 龍神話は、龍神ムヒョがロージーに対してドキドキしたり、帝にヤキモチ灼いたりするのを書くのが楽しいのですが。 同じくらい、汚れなく育ったロージーを書くのが楽しかったりします♪ 狭い世界で、殆ど人とも接することなく、純粋培養で育ったロジ…! うーん、イメージにゾクゾクだ〜♪とか(笑)
さて、今日久々に1から読み返してみたのですが、こうしてのんびり少しずつ書いてるモノは、続けて読むとダメですねー。。。 矛盾でボロボロでありますよ…ふふふ……(爆) いや、ふふふじゃないよ…って感じもしますが…(爆死)
冬コミ、ムヒョは落選してるので、少しのんびりモードの昨今です。 (のんびりし過ぎて、マンガ読んだりゲームやったりしてるんだけど……。。。) また近い内に、これかプランツかの続きを更新したいと思ってますので、よろしければ読んでやって下さいませ★
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2006/11/12(日)/01:22:21
No.38
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