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7☆
ムヒョは『保護』されたのだそうだ。
母を亡くしたエンチューは心を病んだのだという。 ロージーはその詳しい内容を聞きはしなかったが…、曖昧に言葉を濁したヨイチの様子から、かなり酷い状況だったことが伺えて……。
ムヒョがどんな思いをして…どんな気持ちから自分のことを自分でするようになったのか…。 いつも持ち主を気に掛け、愛情を向けてくれるに至った状況はどんなであったか…。 考えれば考えただけ、胸が重く苦しい。 そして、そう思いながら、それよりももっと…。
ムヒョはどんな顔で笑って、どんな声で『好きだ』と言ったのだろうと…。
それが、気になってしまって…。
エンチューという人は、どんな風にムヒョを愛したのだろうか…。
好きだと言ったの? 言ってくれた? 笑いかけてくれた? ムヒョは笑いかけたの? お風呂には一緒に入った? 一緒に寝たことある? 手をつないだ? キスをした?
考えたくないそんなことを、どうしても考えてしまう。 一つ一つ、知らない誰かの影がちらついて…。 イヤだと思うのに。 やめようと思うのに。
どうしても…。
「ムヒョ…!」 帰宅してすぐ、ロージーは出迎えたムヒョに抱きついた。 小さな身体に縋り付くようにぎゅうっとぎゅうっと抱きしめて…。 「どうした?ロージー?」 腕の中から尋ねる声に泣きそうになる。 「ムヒョ、好きだよ…大好き……」 「…オレもロージーが好きだゾ」 少しだけ不思議そうな顔をして、ムヒョは言った。 「どうしたんだ?昨日も今日も…」 「ううん、どうもしないよ、ムヒョ…」 首を振って言いながら、どうしてもこみ上げてくる涙…。 胸が痛い。 痛くて、痛くて…見えない何処かがケガでもしているのじゃないかと思うほど…。
「どうもしないけど……ただ、ムヒョのこと、世界で一番好きなのはボクだからね。絶対絶対…!」
誰よりも、ボクが一番キミを愛してる。 絶対。 絶対、エンチューなんて人よりずっと!
小さな身体をきつく抱きしめ、その温かさに、また堪らなくなる。 「ロージー、泣くナ…」 ぽんぽんと、背中を叩いてくれる小さな手。 顔を見れば、青い瞳は真剣に、心配そうに自分を見つめていた。 「むひょぉ…好き…。キミが…すごく好きなんだ…」 「ああ、分かってる。オレもロージーが好きだ、すごく…」 ちゅっ、ちゅっと…優しく宥めるようにキスが繰り返される。 昨日の事があるからだろう、ムヒョはロージーの気が済むまで、キスを繰り返してくれるつもりらしかった。 額に、頬に、鼻先に、唇に…。 軽い触れるだけのキス…。 優しいその口付けに、心の中が温かくなってくる。 不安に曇り、重くて苦しかった気持ちが徐々に消えて、甘く溶けて行くようで…。 なのに、何故かまた涙が滲んでしまった。 「…ムヒョ…」
こーゆーの、エンチューって人にもしたのかな…? そんなのヤダ……ヤダよぉ…ムヒョ……。
「ボクだけ、好きってゆって…」 ヒクと、震える喉。 何を言っているんだろうと思いながら、それでも言葉は口を出てしまう。 「ロージーだけだ。当然だろう?」 「ホントに?」 「ああ、オレが好きなのはロージーだけダ」 「………」 望み通りのムヒョの答えを聞きながら、それでも心は晴れない。
ヨイチさんは…ムヒョはエンチューの記憶を消されてるんだって言ってた…。 メンテナンスをしたから、覚えてるはずナイんだって…。 だから……ボクだけが好きって…言うのは当たり前なんだ…。
「泣くナ、ロージー…」 小さな舌先が、浮かんだ涙を拭うように目元を舐めた。 熱い感触…。 「…ぁ…っ」 ビクリと、震えてしまった身体。 その瞬間、ゾクリと…何かが目を覚ます。 二度、三度…。 肌を撫でるように舐められ、その度、ゾクゾクと背を走る何かの感覚…。 「む、むひょ……?」 「どうした?」 きょとんとした顔のムヒョを見つめて…。
イケナイ、と思う。
今、頭の中に閃いてしまったコト…。 今、身体が気付いてしまったコト…。
「…ボク……」
キミが欲しい……。
ドクドクと煩いほどに鼓動が鳴る。 「……あ、あの、ごめんねっ!」 ロージーは慌ててムヒョから離れた。 ゴシゴシと目元を拭い、立ち上がる。 「ロージー?平気か?」 「うん、もう平気!だから、あの…み、ミルクの準備!してくるねっ!」 我ながら不自然だとは思うが、それでもムヒョの顔を見ることが出来ず、クルリと背を向けて…。 「……ああ…?」 訝しげな答えを背中で聞きながら、ロージーはバタバタと部屋を出た。
何考えてるんだろう…、ボク…!
階段を駆け下りながら、かああっと顔が熱くなる。 今、頭を過ぎった思いが…身体が望んでしまった衝動が、信じられなかった。
前の持ち主のことが気になってたのに…何で…? それに、ムヒョはまだ子供なのに! ってゆーか、ムヒョもボクも男の子で……って、いや、そうじゃなくて、ムヒョはそもそもプランツだし!
混乱にぐちゃぐちゃな思考。 だが、もし…。 もしも、ロージーが『こうして欲しい』と望みを口にしたならば、ムヒョはきっとそれに答えてくれるだろう。 それが分かるからこそ、思いは一層複雑で…。
イケナイと思うのだ。
すぐ目の前に、越えてはならない一線がある。
「…やだ、も……変だよ、ボク…」
ドキドキと早い鼓動。 目覚めてしまった熱。 ハアッと熱い吐息を落として…。 ロージーは思いを振り払うように、頭を振った。
+ 続く + 6を読む +
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エンチューさんへの嫉妬から一転して、欲望の目覚めてしまったロジたんです。 次回から15禁程度でエッチぃのが2回くらい続くんじゃないかと思いますが…。。。 どうだろう…挫折しなければ………かな…(爆) ←プランツでエロはどうにも罪悪感が… 可愛くイチャイチャでもいいのですが……何か書きたい気分のようですな。 (でも、だからって今同時進行させてる4本全部でそんなシーンやらんでも……なぁ、あたしよ…(爆))
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2006/09/20(水)/10:30:39
No.33
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