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6☆
翌日も。 ロージーはプランツ屋を訪ねた。
「あれ?今日はどうした?」
奥から出てきたヨイチを見つめ、その明るく気さくな態度に惑わされぬように…。 ロージーはキッと薄青の瞳を睨んだ。 「えっと…、ロージーちゃん?何で睨むのかなぁ?」 「真面目に答えて下さい」 「ほい?」 やや面食らったような顔。 見開かれた瞳には、怖い顔をした自分が映っている。
「ムヒョは…。ムヒョには…ボクの前に違う持ち主がいたんじゃないですか?」
ロージーはゆっくりとした口調でそう尋ねた。 声に混じる僅かな震え。 ヨイチの表情の動きの何一つ、見逃すまいと見つめて…。 「……ロージー、お前…何…」 何言ってるんだよ、と。 笑いかけるのに首を振る。 「正直に言って下さい、ヨイチさん。お願いですから…」 そう言って、きゅっと唇を噛み締める。 次に聞こえる筈の、肯定の言葉を待ちながら。 泣いてしまわぬように…。
「……何で…そう思うんだ?」
けれど、ヨイチの口から出たのは肯定でも否定でもなかった。 「…ずるいです…ヨイチさん」 ロージーは咎めるように、顔を顰めた。 「分かるんです。ムヒョの中に…誰かいるのが…。ボクじゃない人が。ムヒョはその人とボクを……比べてるってわけじゃないんですけど…とにかく……分かるんです」
ムヒョが自分を気遣う度に、何かが見える気がしていた。
ハッキリとしない何か。 見たくはない、気付きたくはないもの。 けれど、いつもムヒョの中にあるもの。
プランツ・ドールは、生きているとはいっても、やはり人ではない。 愛されるだけの人形。 でも、生きているから…。 愛されなければ枯れてしまうから、生きる為に自ら持ち主を選ぶ。 だが、愛される為の努力をしたりはしない。
そう…しないはずなのだ。
なのに、ムヒョはロージーを気遣う。 自分で出来ることは自分でして、ロージーに手間をかけさせぬように…。 そして、ロージーは気付いていた。 愛される事が当たり前である筈なのに、ムヒョは愛を示されると、僅かに驚きを表す。 それはいつも一瞬のこと。 注意して見ていなければ見逃してしまうほど一瞬の…。 それがどういう意味なのか…そこまでは分からなかったが……。
「そっか……」 やがて、長い溜め息を吐いて…ヨイチは諦めたように頷いた。 「覚えてるはず…ナイんだけどな…」 参ったなと呟き、ガシガシと頭を掻く。
「ロージーの言う通りだ。ムヒョには…前にも持ち主がいた」
ハッキリと告げられたその言葉は、覚悟していたものだったのに、ロージーの胸を深く突き刺して…。 「そう…ですか…」 「平気か?ちゃんと説明するから…かけた方がいいぞ」 「はい…」 昨日と同じ香りが漂う店内を、ヨイチの後についてノロノロと歩く。 カーテンで仕切られたいくつもの小部屋の中には、持ち主との出会いを待つプランツ達が眠っているのだ。
ここで…ムヒョは誰かを…待ってたのかな…。
ボクじゃない誰かを、と…思えばズキリと痛みを覚えて…。 「平気か?」 また気遣わしげにヨイチが尋ねる。 勧められたお茶の芳しい香り。 「…それで…、どんな人だったんですか?」 小さな茶碗の中、ゆらりと揺れる薄琥珀色のお茶を見つめながら。
「……名前はエンチューっていうんだ。年はオレと同じで…男だけど、やたら綺麗なヤツだった」
プランツも顔負けの美人だぜ!と言われ、ロージーは曖昧に笑う。 「性格は…優しくて柔らかい感じで…そうだな、ロージーに少し雰囲気似てたかな…」 似てると言う言葉にギクリと身が竦んで…。 ロージーは思わず腰を浮かした。 「似てるから…ボクを選んだんでしょうか…?」 テーブルの上に身を乗り出し、尋ねれば、ヨイチが慌てたように手を振る。 「え…っと、いや…少しだって!似てた、かな〜?位だから…!」 「……でも…」 「それに、さ……最後は…変わっちまったし…」 「え?」 「母親が死んで……ちょっとな…」 ヨイチは曖昧にそう言って、視線を遠くした。
+ 続く + 5を読む +
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今週中にと思ってたのに、アプするの忘れてました…(爆)
えー、とりあえず、エッチ系に流さずに元々決めてた通りの話へ持ってきました。 プランツムヒョさんは元々エンチューさんのものだったのです。 まあ、そんな感じで、次へ続くのであります。
でも、多分先に更新するのは神様にお願い☆の続きかな。。。
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2006/09/10(日)/23:33:59
No.31
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