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鮮やかな錦の衣。 その着物に焚かれた香は、甘く柔らかく華やかで…。 フワリと広がったその香りに、ムヒョはふと目を細めた。
昨日、初めて会った時からずっと、動作の折々にロージーから香った匂いだ。
やっぱりなと、そう思えば一層、笑みが深くなる。 金糸、銀糸で鳥の模様が刺されたそれは大層見事で、恐らく、ロージーが帝の宮殿を出てきた時に身につけていたものだろう。 成る程、いかにもロージーに似合いそうだなんて思いながら、布団の上にそっとかけてみる。 ムヒョは都へ向かう途中でこれを見つけたのだ。 「…重くて脱いだのか?」 ヒッヒと笑えば、ううんと小さく身じろいで…。 ロージーはぼんやりと目を開けた。 「……むひょ…?」 「起こしたか?」 ムヒョの言葉に小さく首を振って、ロージーは身を起こした。 「ううん、そーいうわけじゃ……ムヒョは起きてたの?」 「まあな」 「あれ…?これ…ボクの…?」 布団の上、かけられた着物に気付き、パチパチと不思議そうに瞬きするロージー。 「ああ、そうだろうと思ってな。今日途中で拾って来た」 そう言えば、パアッと表情を明るくして…。 「わ〜、ありがとう〜!」 嬉しそうに目を細め、着物の表面をさらりと撫でた。 「これ、ズルズルしててさぁ、あっちこっちに引っかかるからイヤになって脱いじゃったんだよね」 草履も転んだ表紙に鼻緒が切れちゃって…と、説明するロージー。 「簪とかもあったんだけど…気付いたらみんななくなってて…」 そのいかにもな内容に、またヒッヒと笑みがこぼれる。
「帝のヤツが聞いたら泣くナ」
何の気はなしにそう言えば、ロージーは途端に目をまん丸にした。 「そっ、そうかな?まずいと思う?」 「ヤツからのプレゼントだろう?オメェの持ち物はみんな…」 「そ、そうだけどぉ…だってぇ…」 重かったし…動きづらかったしぃ…。 モゴモゴと困ったように言い訳をするロージー。 それがまた、何だかとても面白くない。 「ま、もう会うこともねーからな、関係ねーっちゃ、ねーけどナ」 肩を竦め、素っ気なくそう言ったムヒョの複雑な胸の内など、露ほども知らずに…。 ムヒョの言葉にロージーは何だかシュンとしてしまう。 「…そう…だよね…」
もう会う事なんて…ナイんだよね…。 二度と……。
脳裏に浮かぶ、帝の笑顔。 帝と一緒の時は、いつだって楽しかったなと…そう思えば、何だか胸がぎゅうっと苦しくなるような気がして…。 まだたった2日だというのに…急にとても懐かしくなってくる。
「考えるナ」
「え…っ?」 急に強い口調で言われ、ロージーはきょとんとしてムヒョを見た。 「思い出すナ」 ムヒョは再び強い調子でそう言う。 「え…っと、なんで……」 「懐かしむだけ無駄ダ」 睨むような深青の瞳…。 そこに映る戸惑い顔の自分を見つめていれば、それはずいっと近くなって…。 「ン?!ん…っ!」 唇が重ねられる。 起こしたばかりの半身は、またシーツの上へと沈められた。 「んん、ん…っ」 ジタジタと身を捩る程度の僅かながらの抵抗。 その拍子に広がる香り。 先程までいい匂いだと感じていたそれが、急に鼻につくような気がして…、ムヒョは顔を顰めた。 布団の上に広げてかけた着物に感じる忌々しさ。 それを剥がして床へと捨て去って…。 持ってきた自分を心底愚かだと思う。
こんなもの…捨て置けばよかったのに…。
だが、この紅い着物を空から見つけた時、あの時はとても心が躍ったのだ。 きっとロージーの物だと思い、持ち帰ったらどんなにか喜ぶだろうかと…。 そう思って…ムヒョはとても楽しい気持ちだった。 なのに…。 「む、ひょ…、ん、ン…、くるし…っ」 イライラしながら噛み付くようにキスを繰り返していれば、その合間に漏れる呻き。 真っ赤に染まった顔で、涙目のロージーが怯えたように自分を見上げている。 「…むひょ……?」 荒く熱い吐息…。 艶めかしく濡れた唇を、もう一度…今度は軽くそっと捕らえて…。 「………」 口を開き、何かを言いかけてやめ、ムヒョはロージーから離れた。 そして、そのままベッドを降りる。 「あ…、ムヒョ…?」 背後で微かな衣擦れの音。 かけられた声にも振り返らずに…。 ムヒョはそれきり部屋を出ていってしまった。 「……ムヒョ…どうして……?」 戸惑い顔のまま、ムヒョの出ていった扉を見つめて…。 ロージーもまたベッドから出る。 追いかけようかとも思うが、ムヒョが急に怒った理由が分からない以上、追いかけてどうするということもない。 不安に駆られ、どうしようと思いながら…俯いた視線の先に、先程落とされた紅い着物があった。 拾い上げれば、いつもの香りが広がって…胸がズキンと痛む。
『オイ、ロージー!新しい着物はどうだ?気に入ったか?』
自分よりも幼い帝は、いつもそんなことを言いながらロージーの部屋に駆け込んで来た。 いつも色々な物を届けさせ、また、持ってくる。 ロージーの部屋には、珍しい物や綺麗な物がいっぱいで…。 いつだって……。
「…雨降って…喜んでるかな……」
小さくそう呟き、ロージーは着物に顔を埋めた。 明るく笑う帝の顔を思い浮かべれば、何故か涙が溢れ出す。 自分で選んだことなのに。 まだたった2日だというのに。 これからずっと、ここにいなくてはならないのに……。
「……ケンジ……っ」
二人の時はそう呼べと、言われたその名を今呼んで…。 ロージーは堪らないものを感じ、声を上げて泣き出した。
+ 続く + 3を読む +
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前にちょろっと呟いてみた通り、帝はケンジ君にしてみることにしました☆ どうもあたしはロージー至上主義らしいですね(ムヒョファンなんですけど…) ロジは愛されっ子が良いのだ♪ (原作だとムヒョがみんなに愛されまくってる感じ?いや、ムヒョとロジ両方ともか) ちなみに、総受は読むけど書かないです。 あくまでエッチはムヒョさん相手で! エンチューとかヨイチが相手なら、意地悪でちゅーくらい書いちゃってもいいかとは思うが……どうだろうか。
えー。 ムヒョの気持ちが分からないロジが最後ケンジ呼んでたりしますが…。 果てさてこれからどうなるのか…なんて感じで。
よければまた、おつきあい下さいませ☆ (明日か明後日かで、プランツの続きをアプする予定ですが、そちらもよろしくです〜)
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2006/09/07(木)/15:15:30
No.30
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