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1.
古びた神社の裏…。 広がる森の奥の奥…。 大きな池が一つある。
昼は深い緑を、夜は暗い闇を映すその池には、昔から都を守る龍神が住まうのだと伝えられていた。
普段、人の近づくことのないその池の畔…。 けれど、その日は一人…ここを訪れる者があって…。 もう一時あまりもずっと…。 落ち着き無く周囲の様子を伺っては、池の中を覗き込んだり、畔を歩いたりしている。
「……オメェ…何だってこんな所にいるんだ?」
それを同じ時間だけ眺めていたムヒョが、流石に痺れを切らしてそう声をかければ、相手はビクリと身を竦ませた。 そして、それから恐る恐るといった感じで顔を上げ、木の上にいるムヒョを見つける。 「…え…?」 怯えから驚きに、驚きから戸惑いへと変わる表情。
「ええと……?あの、キミが…龍神様……なんて事は…ナイよね…?」
アハハ☆と、掠れた誤魔化し笑い。 ムヒョはフンと鼻を鳴らすと、その少年の前へと飛び降りた。 「フン…?迷い込んだってワケじゃねえようだナ…。龍神に願い事か?」 龍神の住処であるこの池は、本来立ち入り禁止の区域である。 だが極々稀に、何かに思い詰めた輩が、龍神に願いを叶えて貰おうとやって来る事はあったから…。 そんな理由かと訊ねれば、少年はコクコクと頷いた。
「あ、うん…あのね、ボク……龍神様に、その…生け贄に捧げられる事になっちゃって…」
言いながら、段々と小さくなって行く声。 それでも、ムヒョの姿が子供だからだろう、安心したような顔で…。 明らかにこの国の者ではない、白い肌と金の髪…。 瞳は明るい茶色の、この変わった容姿を持つ少年をムヒョは知っていた。 そう、もうずっと前から………。 この少年がまだ5つにもならぬ頃に…海を渡って都へ連れて来られた、その時からずっと………。
「お前…確か…ロージー…つったか?」
そう言えば、金髪の少年は大きく目を見開いた。 「あれ?ボクの事知ってるの?」 「まあな…。で、何で生け贄にされた?」 訊ねながら、ムヒョがその場に座ると、ロージーもまた隣に腰を下ろす。 赤い紐で飾られた裸足の足。 ロージーは白く短い着物を着せられただけの姿で…。 普通、生け贄は綺麗に着飾らせられるものだが、上着や他の飾りはどうしたのか…と、ムヒョは少しだけ気になった。 「…んっとねぇ、雨が降らないから」 「ああ、そういやここんトコ暫く降ってねぇな」 「うん、それでね、それは龍神様が怒ってるからだって、陰陽師の人が言ったんだって」 「あ?それで…何でオメェが生け贄にされんだ?」
オメェは帝のお気に入りだろうが…。
ロージーはその外見の美しさから、帝への献上品として連れてこられたのである。 だから、ムヒョが見た時はいつも、ロージーは綺麗な着物を着せられて、それはまるで人形のように…。 広い部屋の中で綺麗な物、可愛い物に囲まれ、ちょこんと一人で座っていた。 帝は愛らしいロージーをとても気に入っており、大切にしていたはずである。 それなのに…と訊ねれば、ロージーは少しだけ悲しそうに顔を顰めた。 「あのね…、何か…ボクが悪いんだって」 「あ?」 「龍神様がお怒りになったのは、ボクが居るせいだって。ボクがみんなと違うから…ボクが災いを呼ぶんだって…」 「それで、オメェを生け贄に捧げりゃ雨が降るってのか?」 ムヒョが唖然として見つめる中、ロージーはその大きな瞳にいっぱいの涙を溜めて、ウンと頷く。 「そう言ってた…。ボクが悪いから、ボクがいなければ…って…」 ボロボロとこぼれ落ちる涙。 だが、ロージーは直ぐにゴシゴシと顔を拭うと、次の瞬間にはムヒョに向かってニッコリと笑って…。
「だからね、ボク、ここに来たんだ」
何故か爽やかにそう言った。 「…何?」 「だって、ボクが龍神様のトコにくれば、雨が降ってみんなが助かるんだもん!」 「オメェ…自分からここへ来たってのか?」 「うん、そうだよ」 信じがたい思いで尋ねれば、それにあっさりと頷かれ、ムヒョは唖然としてしまう。 「…龍神が怖くねェのか?龍だぞ?オメェなんか喰われちまうかもしれねェんだぞ?」 「そりゃあ怖いよ…、すごく…怖いけど…」 でも…と。 言葉を濁し、ロージーはチラリと森の向こうを見やった。 森の木々が遮るその向こうには、ロージーが今まで暮らしてきた宮殿がある。 見えないそれに少しの間切なげな視線を向けて…。 それから、ムヒョに視線を戻すと、ニコッと明るく笑った。
「ボク、今までずっと帝に親切にしてもらったからさ、その御恩を返さなきゃ☆」
花でも舞いそうなその笑顔に、一瞬、ドキリと胸が高鳴る。 だが、それと同時にズキリと、鋭い痛みもまた走って…。 ムヒョはむむうと顔を顰めた。 「…そりゃ…帝のためか…?」 「うーん、そうだね。みんなのためって言うより…帝のためかな…」 「恩返しに…死んでもいいってのか?」 「…何かね、今まで何も出来る事なんてなかったから、何か出来るなら嬉しいなって…」 健気なセリフ。 儚い笑顔。 そこに込められた穏やかな愛情を感じ、ムヒョの中にムカムカムカと面白くない思いが募ってゆく。 「…………アホめ!」 思わずそう呟けば、 「ええっ!酷い!何でアホなのさぁ!」 ロージーは傷ついたような声を上げた。
ずっと…閉じこめられてただけじゃねぇか…。 綺麗に飾られても…外に出ることも出来ずに…。 ただ…与えられた部屋の中で…飼われてただけじゃねぇか。
それを…親切にして貰った、だ?
御恩を返す? 何か出来るなら嬉しい?
面白くない。 何だかとっても面白くない。 ロージーの顔を見つめ、腹立ちにムウッと顔を顰めながら…、 「来い」 短く言って、ムヒョは立ち上がった。 きょとんとするロージー。
「オレに喰われてもいいんだロ?」
言えば、大きな瞳をさらに大きく見開いて…。 「オレに…喰われてもって……キミ…?」 まさか…と呟く。
「ああ、オメェらの言う『リュウジンサマ』だ」
それにニヤリと笑ってみせ、ムヒョはロージーに手を差し出した。
・ 続く ・
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とゆことで。 ジャンプ感想の方でイキナリエロを書いた生け贄話でございます。 (トークのタイトルは『ロジたんのあんよ』でした(爆)) えー、この先はアレに繋がってるよーな感じなので、エロです〜。 苦手な方は読まないよう、このタイトルは避けて下さいませね☆
続きは修羅場明けかなぁ…と思いつつ…。 よろしければ、また読んでやって下さいませ★
ところで、帝はそんな出すつもりがナイので誰とは決めてなかったのですが、 今ふと、ケンジだったら面白いかも〜!とか思ったので、 ケンジになるかも知れません(笑) 出すとハッキリ決めたらケンジにしよう。。。 (書きたいのはムヒョロジイチャイチャなので、後は別にどうでもいいのだった…(爆))
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2006/06/17(土)/02:53:36
No.24
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