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3☆
艶やかな漆黒の黒髪。 賢そうな深青の瞳。 柔らかそうな小さな身体。 ぷくぷくほっぺはほんのりピンク。
これがボクのプランツ・ドール。
ボクを選んでくれた、プランツ・ドールのムヒョ…♪
「ムヒョ〜♪ミルク温まったよ〜♪」
そう声をかければ、絨毯の上に座って本を読んでいたムヒョが顔を上げて…その大きな瞳がロージーを見る。 猫のようにややつり上がった、アーモンド型の瞳。 読んでいた本を傍らに置き、トコトコとこちらにやってくる小さな姿。 何処からどう見ても普通の子供にしか見えないこのムヒョは、実はプランツ・ドールという不思議なお人形で…、ロージーを持ち主に選び、この家にやってきた。
そう、それはほんの昨日のこと…。
ムヒョがロージーの家に来て、まだたった1日しか経ってないのだ。 「美味しい?」 ゴクゴクと、温めたミルクを飲んでいるムヒョにそう尋ねる。 「ああ。美味い」 「そう、良かった♪」 ニコニコと笑うロージーに、ムヒョはあまり変わらぬ表情で頷き、またカップに口を付けた。 ムヒョはほとんど表情を変えない。 プランツ屋でヨイチに対しては割と話していたように思えたのに、ロージーの家に来てからは実に静かで……。 心を溶かす程と言われている、プランツ・ドールの極上の微笑みとやらも、まだ見せたことがなかった。
笑ったらきっと可愛いと思うんだけどな…。 もっと馴れたら笑ってくれるのかな…。
じいいっと見つめていれば、ムヒョはカップから顔を上げ、不思議そうな視線を向ける。 「どうした?」 「ううん、あのね、そのぅ…、プランツ・ドールって持ち主に選んだ人にはすごく懐くって読んだから…」 昨日、ムヒョが家に来てから、ロージーはプランツ・ドールについてアレコレと調べたのだ。 だから、プランツ・ドールにもいろいろなタイプがあることも分かっている。 もしかしたら、ムヒョは『気難し屋』と呼ばれるタイプなのかもしれないと、そんな風にも思いながら…。
気難し屋タイプは目覚めてもなかなか懐かないってゆーし…。 そうなのかも…。
「キミが懐いてくれたら嬉しいなって…ちょっと思って…」 ジイッと自分を見つめているムヒョの視線に、何だかモジモジしてしまうロージー。 「……懐かれると嬉しいのか…?」 「そりゃあ…!あ、でも…ほら!ムヒョはまだウチに来たばっかりなんだし、仕方ないよねっ!イキナリそんな…ねえ?!」 ごめんごめんと誤魔化し笑いを浮かべれば、ムヒョは僅かに俯いて…。 それから、ニヤリと笑った。
え…? わ、笑った?!?!
初めて見たムヒョの笑顔に、ロージーが驚いていると、 「そうか…、なら、遠慮はやめだ!」 ムヒョはあっさりとそう言って、ストンと椅子を降りた。 「え?ムヒョ?」 そして、戸惑うロージーの膝の上に登ると、そこに身を落ち着かせる。 「え、え?あの…ムヒョ?」 「どうした?懐いて欲しかったんじゃねぇのか?」 「だ、だって…そんな急に…!ってゆーか、じゃあ、今まで…まさか我慢してたの??」 「オレは理性的だからナ」 ケロリと言ったムヒョの言葉に、唖然とするロージー。
いや…、理性的なプランツ・ドールって一体…。
だが、小さな身体の温かさを感じている内、段々と実感がわいてきて…。 「…ま、いっか☆嬉しいし♪♪こんな風に触らせてくれたりしないのかと思ってたよ〜♪」 えへへ♪と笑って、ロージーは膝の上にいるムヒョをぎゅうっと抱きしめた。 人形であるはずのプランツ・ドール。 けれど、触れてみれば柔らかく、確かな温もりもあって…何だか、さっきまでよりももっとずっと愛しい気がしてくる。 「えへへへへ♪ムヒョ〜〜vvv可愛い♪大好きだよ〜♪」 そんなことを思いつくままに言ってみれば、ムヒョは抱きしめられたまま、僅かに振り返った。 「…可愛い?」 「うんv可愛いよvv」 満面の笑顔で頷くロージー。 その笑顔をジイッと見つめて…。
「…オレにしてみりゃ、オメェのがよっぽどそうだと思うけどナ」
ムヒョはヒッヒと笑った。 そして、膝の上で向きを変える。 「え?ボク?」 「ああ、可愛いはオメェだろ」 間近で自分を映すコバルトの瞳。 それが近づいて近づいて…あれ?と思う内に…。 唇にちゅっと、柔らかく温かな感触が当たった。 焦点の合わない視線の先、にゅうっとまた、ムヒョの顔が映る。 「む……、ムヒョ…?あの…今……☆」 かああっと赤くなってしまう頬。 考えると混乱してしまうので、ひとまず考えないでおこう、と思いながら…。 「今の…って、その、一体…何処で覚えたの?」 ロージーはやっとの事でそう尋ねた。
「あ?好きならこうしろってヨイチがよく言っていたゾ」
違うのか?と不思議そうに見上げるムヒョに、ロージーの顔はますます赤くなるばかり。 「う、ううん、違うっていうか…それもまあアリなんだけど…、でもその、ちょっと驚いただけ…」 「何故驚くんだ?ヨイチにこうされた奴は喜んでたゾ?」
あ、あの人……っ! 子供の前で何してんのさ〜〜〜っ!!!
怪訝な顔をするムヒョに、ひきつりつつも笑顔を向けながら、ロージーは心の中でそう叫んだ。 だが、そんな経緯はどうであれ、ムヒョの行動は純粋にロージーへの愛情表現である。 その気持ちは嬉しいし、大切にしなくてはと思うから…。
「いやあの、う…、嬉しいよ!ムヒョ!うん、すごく嬉しい!ボクもキミが大好きだもん!」
ロージーはムヒョをぎゅうっと抱きしめ、その額にキスを返した。 途端、大きく見開かれるコバルトの瞳。 それはまるで、ロージーにキスをされたことが意外だったかのような…そんな感じで…。 少し、あれれ?と思う。 けれど、そんな驚きの表情は一瞬だけで、 「…そうか。ヒッヒ♪」 次にムヒョの顔に浮かんだのは、嬉しそうな…くすぐったそうな、そんな笑顔だった。
+ 4に続く + 2を読む +
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プランツが選んだ人間にお迎えされるってのは、その時点で両想い成立であり、 (気難し屋タイプは目覚めてもなかなか懐かなかったりするらしいけど…) 更に、やっぱりドールさんなので、普段よりもストレートにムヒョからロジへの愛情表現が出る予定のこの話。 ムヒョさんにフツーに「好きだ」とか言わせようとすると、違和感バリバリで手が動かなくなります(爆)が、次はラブラブしてる筈…。 この話、もう暫く(…まだまだ、か?)続きます。 よろしければまた読んでやって下さいませ☆
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2006/06/14(水)/15:52:48
No.23
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