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1☆
「あれ?こんな店…あったっけ?」
その日、ロージーがその店の前を通ったのは、本当に偶然だった。 ロージー等と言うと、外人のようだが、本名は『草野次郎』…。 歴とした日本人である。 そして『その店』のあるこの地もまた、歴とした日本国内…なのだが……。 一見して何処と分からぬ程に、和風、中華風、西洋風が混ざり合い、何やら不思議の国の匂いを漂わせていた。 入口脇にある大きなショーウィンドウの中には、綺麗な眠り目の人形が飾られている。
「へー、綺麗だなぁ…」
ガラスにぺたりと手をつけて…ロージーはその人形を眺めた。
こーゆーのって…アンティークドールとかゆーんだっけ…? よく分からないけど…すごく綺麗……。 まるで…生きてるみたいだ…。
豪奢な金髪を持つその人形は、小学校の子供くらいの大きさで…青いバラ模様のドレスを着せられ、ゆったりとソファに腰掛けている。 「ふわ〜〜……へえ〜……」 あまりの美しさに、溜め息しか出ない。 だが、惚けたように見つめ続けていると、ふいにグイと手を引かれた。 「え?」 何かと見れば、いつの間にかすぐ横に子供が一人立っている。 その子が、服の袖を引っ張ったようだ。 まだ10やそこらの男の子…。 まるで人形のような仰々しい服装。 艶やかな黒髪は何だか不思議な形になっていて…。 少々きつめな印象の大きな瞳が、ジイイッとロージーを見つめている。
「えーと…どうしたの?ボク?」
ロージーは身を屈め、ニコニコと人懐こい笑みを浮かべて少年に話しかけた。 途端、少年の眉が顰められる。 なかなか端整な顔立ちをしているだけに、眉一つでも動かせば、その表情は随分と変化したように見えて…。 怒っているのか、あるいは困っているのか…。 「………」 「あ、もしかして迷子になっちゃったのかな?お父さんかお母さんを探してるの?」 への字に結ばれたままの唇が何も語らないので、ロージーは優しくそう訊ねてみた。
すると、
「来い」
突然、ただそう一言…。 「え?」 少年は告げると、そのまま店へと入っていってしまった。 「あの…?」 訳の分からぬロージーが呆然とその背を見送っていれば、少年は一度入った店の入り口から頭だけを出して…。 「早くしろ」 短く呼ぶ。 「え、えっと…ボクのこと…だよね?」 混乱して訊ねるが、少年はそれに答えることなく店に入っていってしまった。 「あ、ま、待ってよ!」 ロージーが慌てて後を追い、店のドアを開けると…その途端…。
「う、わ…ぁ…!」
その何とも不思議な空間に、圧倒されてしまって…。 薄暗く、また薄明るい店内は、何処の国の物とも言えぬ内装がされ、その至る所に布で仕切られた小さな部屋のような物がある。 大きな香炉から漂う薄紫の煙は、甘い花のような香り。 「あ、あの〜?お邪魔、しまぁす…」 ロージーは店の奥へそう声をかけると、そろそろと中へ入って…。
何だろ…ここ……。 お人形屋さん…なのかな……?
興味を引かれ、恐る恐るながらも手近な部屋を覗いてみた。 「え?わ…!」 そこには、ショーウィンドウの中にいたような、立派なドレスに身を包んだ人形が一体、大きな籐椅子に腰掛けている。
…ここのお人形さんって…何か…不思議だな……。 すごい綺麗だけど……何でみんな寝てる顔なのかな?
「目を開けたら…きっともっと綺麗なのに……」
ほう、と息を付いて…ソロリと伸ばした手で人形に触れてみた。 すると…。 バチンと☆ 閉じていた人形の瞳が開き、それはぱちくりと二、三回瞬きをして……それから、ロージーを見つめ、ニコッと微笑んだ。 「え?え…?え?ええええええ?!?!?!」 な、な、な?!と、驚きのあまり腰を抜かしてその場にへたり込むと、人形は椅子から立ち上がり、ニコニコと笑いながらロージーに近寄ってくる。 「に、にん、にんぎょ…がぁあ……っ?!」 「…アロロ…」 アワアワとしているロージーの背後から聞こえる、何やら不思議な声…。 次の瞬間、人形は動きを止めると、カクンとその場に崩れ落ちた。 「え?え?今の…あれ?き、気のせい…とか?」
そうだよね? 人形が動くなんて、そんなのありえないもんね…??
ドキドキする胸を押さえながらそう思っていれば、 「…へえ、驚いた…君は波長が合う人なんだねぇ…」 「アホめ」 背後…というより頭上から、二人の人間の声が降ってくる。 ハッとして振り返れば、先ほどの少年とその傍らにもう一人…背の高い黒髪の青年が立っていて…。 「むやみに少女達に触らないでね、一度目を醒ますとメンテナンスが必要になるんだから…ま、今回はムヒョのお陰でセーフだったけどさ☆」 彼は肩を竦めてそう言ってから、ウィンクをしてみせた。 こちらは先程の少年とは違い、なかなか愛想が良いようだ。 「ムヒョ…?」 「あれ?何だ、ムヒョってば自己紹介もしてないのかよ?」 人名なのか、或いは何かの単語なのか…。 突然出てきたその言葉を判断しかねてロージーがきょとんとしていると、青年は呆れたように少年を見やる。 「面倒だ。お前が紹介しろ」 「全く〜!それで選んだなんてよく言えるよな〜!」 「ウルセェ。おい、奥へ行くぞ」 ムヒョと呼ばれた少年は偉そうにそう言うと、さっさと歩いてカーテンの向こうへと行ってしまった。 「全く〜…!」 その背を見送り、青年はやれやれと溜息を付いて…。 それからロージーに向き直ると、爽やかな笑みを浮かべて手を差し出す。 「君、名前は?オレはヨイチ。一応、この店のオーナーだ」 「あ、ええと、ボクは草野次郎…です。ロージーって呼んで下さい」 自分とそれほど変わりはないように見えるのに、こんな店のオーナーなんぞをやっているとは一体どんな人なのだろうか…。 ヨイチの手を借りて立ち上がりながら、ついついそんな事を考えてしまって…、何故かポロリとニックネームまで教えてしまうロージー。 「オーケー、ロージー。じゃ、奥でおもてなしする前に率直に聞くな」 ヨイチはそんなロージーにクスリと笑い、それからやや真面目な顔になってそう切り出した。
「アイツ…ムヒョをどう思う?」
「え?」 「ほら、ぱっと思ったこと答えりゃいーんだよ!」 「え、えーっと……か、変わった子?」 ロージーはこの突然の質問に戸惑いながら、とりあえず言われた通りに思ったことを答えた。
「…ま、そりゃ普通そー思うわなぁ」
ハハッと、ヨイチは乾いた笑みをこぼす。 「だ、ダメですか?ボクの答え…」 オロオロして聞けば、うんにゃと短く答えて…。 「じゃ、好きか嫌いかは?第一印象で」 改めて、そう訊ねる。 「え…っと、好き…だと思う、けど…?」
だって、いきなり嫌いって…ソレ、もの凄く酷くない?
「ふーん、よし。まーいいことにすっか…悪人にゃ見えねーしな」 「え?」 全くもってワケの分からないこのやり取り…。 戸惑うばかりのロージーに、けれどヨイチはニカッと笑って…。 「来いよ、ロージー☆絶品なお茶をごちそうするぜ♪」 そう言って、カーテンの向こうへと出て行った。
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とゆことで、魔法律で活動始める前、最初の最初に思いついてしまったムヒョロジのプランツドール物であります。
何か、3巻でヨイチがロジに言う、ムヒョに選ばれた云々から連想した模様…。 てか、ムヒョ似合うなぁプランツって…とか思って書いてみたものの、翌朝記憶がなくて驚いたというヤツでしたな…(苦笑) プランツ物は遊戯王でかなり書いたため、私の中で世界が確定してるっぽいです。 何かスラスラと出てくるのだった。
えー。 この話、少し続くかと思われます。 どうぞ気長にお付き合いいただけると嬉しいです〜☆
てか、ヴァンパイア物でも出てきたムヒョを子供扱いするロジ。 ホント好きなんだねぇ、あたしってば(爆)
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2006/06/02(金)/00:27:51
No.20
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