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何か…いい匂いが…する……?
魔具庫での騒動の後…。 事情聴取だ何だを終えて…ようやく一人になってから、ギンジはふとそれに気付いた。 微かな…、本当に微かなその香り。 イヤな臭いではない。 甘い…花のような…優しく柔らかい、いい匂いである。 何処から香るのか…。 何の香りなのか…。 皆目見当も付かないので、きょろきょろと辺りを見回し、くんくんと鼻を鳴らして…。
「…気のせいか?」
頭をひねりながら、ギンジはくるりと体の向きを変えた。 途端、また微かに…。 鼻腔を擽る柔らかな香り。 「あ…!」 アイツか!と、唐突に閃く。 脳裏に浮かんだのは、柔らかな金髪と、女の子のような顔立ちの少年だった。
そう…魔法律協会では知らぬ者などいない、天才執行人が選んだ、ド素人の助手…。
最年少で執行人という魔法律家の最高位へと登り詰めた、天才・六氷透…。 その天才が、合格者のいなかった面接試験の直後、二級書記官の助手を連れて事務所を開いたというのは、あまりにも有名な話で…。 妬みや嫉み、好奇心から、あれやこれやと噂されているのは、学生であるギンジだとて知っている。
勉強しに来たとか、言ってたな…。 つか、助手になったのって2年前じゃねーか? それでまだアレなのか?
ロージーの持っていた初心者用のテキストに、噂通りのダメ助手らしいとそれを察して…。 そして、それにしては、百厄輪を前にパニックを起こすこともなかったが…。 度胸だけは据わっているのか…なんて。 「いや、そうでもなかったような……」 涙をいっぱいに浮かべた瞳…。 情けない顔で自分を見上げていたロージーを思い出せば、何だかドキドキと鼓動が早くなった。 ついでにポッと、頬も熱くなる。 それを何故かと気付きもしないで…。 ギンジはぼんやりと、昼間会ったロージーの記憶を反芻していた。
あ…そっか…。 この匂いって…アイツのか…?
そう言えば、殴ったり押し倒したりした時、同じ匂いがしたような…と、香りの記憶が甦る。 あの身体からフワリと昇ったこの香り…。 それは洗剤なのか、石鹸なのか…。 何やら花の匂いでもあるようで……。 男のくせに!と思いつつも、何故かあの顔とこの匂いはとても合っている…と、そう思えば妙に納得してしまう。
そういや…、オレ…アイツに随分と手荒なことしちまった気が……。
「…って、べ、別に、アイツはヤローなんだし……手荒でも別に…っ!それに第一、あん時は…だって……」
ウルウルと涙を浮かべた茶色の瞳。 殴られ、赤く腫れた頬…。 掌の下でモガモガと動いた唇…。
ほっせェ身体だったよな……。 背は高いくせに…オレより弱っちい感じで…。 女みてーな顔で…何かナヨナヨして……。
ギンジはジッと手を見つめた。 掌に、感触が残っているような気がする。 感触と、匂いと、そして体温も…。 ドキドキが早くなる。 ぎゅうっと…胸に苦しさを覚え、ギンジは顔を顰めた。 「アイツ…」 この感覚は一体何なのか…。 この、甘いような、切ないような苦しさは……。 初めて覚えた胸の疼きに、僅かばかり戸惑いながら…。 「……魔具…磨きに……来ねーよなぁ…」 そう呟いて、溜め息が漏れた。
今度、頭に浮かんだのは黒髪の小さな執行人…。
濃紺の執行服を着ていながら、その姿は自分よりもずっと幼い子どもだった。 あの天才執行人は、ロージーを迎えに来たのだ。 この協会内の何処にいたのかは分からないが、それでもわざわざ…。 執行人が助手を迎えに来るなんて、一体どうなっているのか…普通ならあり得ないダロと思えば、何だか内心穏やかではなくて。
『ムヒョ!』
その姿を認めた時のロージーの表情は…。 その名を呼んだ時のロージーの声は…。
『その人』が特別であると、如実に語っていた…。
そして…『その人』もまた……。
「……チッ…」 どうにも面白くない。 あの二人の間にある空気を思い出せば、そこにはとても入り込めないと…そう感じさせるものがあって……。 それが何故だか、もの凄く面白くない。
…っつーか、もう会うこともねーんだろーけど…。
そう思えば、途端にズキリと胸が痛んで…。 何処かで会えないだろうか、等と思う。 同じ魔法律家であり、しかも相手はあの天才の助手だ。 探すのは簡単だろう…なんて。 「…探してどーすんだよ、オレ…」 自分の考えに自分でツッコミを入れ、苦笑する。 ここまで来れば、流石にギンジでも分かった。 自分は、あの助手に特別な感情を抱いているのだ、と…。
もう一回、会いたいとか……。 ホント…思うんだな…。
切ない思いに、ふうと溜息を付いて…、そういえばと思い出す。 ロージーの友人らしき少女は『通行証』がMLSにあると話していた。 だとしたら…もしかしたら、また探しに来るかもしれない。 ロージーが一人になることがあれば、声をかけられるかもしれない。 そうしたら………。
「…アホくさ……」
会えるかもとか、会えないとかで一喜一憂する自分に苦笑する。 僅かに数時間程…。 昼間、ほんの少し会っただけの人物なのに。 なのに今、こんなにも、自分の頭を占めている。
ガラじゃねぇよな……一目惚れとか…。
でも、もしかしたら会えるかもしれない。 そう思えば、どうしても嬉しくて…。 「…とりあえず、見回り行くかぁ…」 苦笑しながら呟いて、ギンジは部屋を出た。
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とゆことで。 これは昨年の1月にインテで無料配布したギンジ片思い的SSです。 ギンジが出てスグに、あのつり目・デコ&ロージーに対する暴挙の数々に非常に萌え萌えして書いたんではなかったかな…とか(うろ覚え)
ギンロジ萌えるvvvって、結構続き書く気があったんですが、ギンちゃんにはキュラキュラが現れたので、この後を書くことは結局ありませんでした。
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2008/03/29(土)/20:46:21
No.81
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