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涙を止める魔法律でもありゃ、簡単なんだがナ……。
ソファの隣でグスグスと泣いているロージーをジャビンの陰から眺め、ムヒョはこっそりと溜息を付いた。
ロージーの泣き虫は、よーく分かっている。
悲しくても、辛くても、嬉しくても、不安でも、安心しても……。 何でもかんでも、どんな時でも。 いつか目が溶けて流れるのではないかと思う程、しょっちゅう泣いているのだから……。
もう2年以上の時を一緒に暮らし、ロージーが些細なことでも泣くのには大分慣れたムヒョではあるが、それでもやはりいい気はしないし、普通に人として気にならないわけがない。 ましてや、ムヒョはロージーが好きなのだ。 それがどんなに下らない理由の涙であっても「ああ、また泣いてんナ、いいや放っとけ☆」なんて…、絶対に思えない。 だが、だからと言って、そんな時に何と声をかければいいのかなんて事は、そもそもが口下手のムヒョに分かるはずもなく…。 どうしていいのか分からないのに、気になってしょうがないから、困るのだ。
今日の涙の理由は、近所のネコが事故で死んだという、実に分かりやすいものだった。
「珊瑚ちゃん…よく撫でさせてくれたよね、おとなしくて可愛くて……おばあちゃんがすっごく可愛がってたのに……っ」
買い物から泣きながら戻って…それからもう10分以上も。 死んだネコと飼い主の為に、涙に暮れているロージー。 泣いている理由が明確なだけに、かけてやればいい言葉も、それなりに見当が付く。 だが、それはどうにも……柄じゃないというか……。 頭では分かっている言葉が、どうしても自分の物として口から出て来ないから…。
ああ、っとにメンドくせぇ!!!!
シクシクとグスグスと泣いているロージーと、どうしたものか…なんて思っている自分に痺れを切らし、ムヒョはパタンとジャビンを閉じた。 床に落とせばバサリと音がして…、ロージーが何事かと顔を上げる。 その隙を逃さずに…。
「もう泣くナ」
ムヒョはロージーとの距離を一気に詰めると、その頬に口付けた。 涙に濡れた柔らかな頬。 濡れた唇に感じる塩辛さ。 「え……?」 パッチリと驚きに見開かれた瞳が、ムヒョを見る。 涙を湛えた紅茶色の瞳。 ゆらゆらと揺れているそれが、また一つポロリと零れて…。 それをちゅっと唇で掬い、更に目元の涙を舐め取ってやれば、ロージーはボボボッと火でも出そうな勢いで顔を真っ赤に染めた。 「ふわわ…っ?!?!む、ムヒョ…??今、舐め…っ…、え…えっと…???」 「泣くナ」 至近距離からジッと見つめ、もう一度言う。 まだ潤んでいる瞳の中…映っているのは自分の顔だけ…。 「………う…、…うん…」 ロージーは暫くの間、ポカンとムヒョを見つめていたが、それから怖ず怖ずと頷いた。 ムヒョはニヤリと笑うと、赤くなった鼻の頭に軽いキスをする。
見つけた、と思った。 ロージーの涙を止める方法を…。
慰めの優しい言葉をかける…なんてのはどうにも苦手だが、これは実にシンプルながら効き目もあって…何より自分的に無理がない。
こりゃいい手だナ、なんて。 ヒッヒと笑ってしまいたくなるのを堪え、代わりにもう一度、今度は唇にキスをする。 「んん…っ、ムヒョ……?」 様子を伺うように見つめる紅茶色の瞳。
「……後で、花でも持ってってやれ」
そう言えば、それでようやく真意を察したのだろう。 「うん!」 ロージーはパッと顔を輝かせ、嬉しそうに頷いた。
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説明にも書いてますが、これは某交流板用に書いたSSです。 お題が変わったので、こっちにも貼ろうかな。。。とか。 ちなみに、この時のお題は『ムヒョからのちゅう』で、それ用に描いた絵に後から付けた話だったりします☆
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2008/04/03(木)/16:06:24
No.85
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