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「…ムヒョ、寝ちゃった?」
暗闇の中、怖ず怖ずとかけられた声…。 ムヒョが黙っていれば、スグ側でモソモソと起き上がる気配がする。
ここは今井の家の二階にある部屋…。
本来は居間であるこの部屋は、ロージーがこちらへ来てから約10日あまりに渡って、使わせて貰っていた部屋だ。 今日の午後、ビコのオフィスで再会した後で、二人は今井の家へと赴いた。 本当は礼を言いに来ただけのつもりだったのである。 未婚の女性の家に、年下とはいえ異性が二人も転がり込むなんてのは、あまり感心されたことでは無いから、流石に少し遠慮もあって…。 けれど、ムヒョとロージーの『事情』を知っている今井からすれば、どちらも人畜無害、全くの安全牌とゆーことになるからだろうか…。 ムヒョを連れて戻ったロージーに『良かったな』とそれだけ言って、彼女は快く二人を迎え入れてくれたのだ。
そして、既に夜もかなり更けた今………。
電気を消して、静かに横になって…30分も経つか経たないかという位の今になって、ロージーが声をかけてきたのである。 ロージーの身体からすれば、いささか小さいソファ。 その上に身を起こし、ロージーは反応を待っているのか、それとも何かを考えているのか…ともかく、ムヒョを見ているようだ。 「……ムヒョ…」 小さな声が再び呼びかける。 「…………」 ムヒョは寝ていなかった。
寝れるはずがなかった。
10日ぶりに会った恋人と同じ部屋にいて…。 何事もないように眠るなど、出来るはずがない。
「…何だ…眠れねェのか?」
ソロソロと伸ばされた手に気付き、ムヒョは尋ねた。 ビクリと、ロージーが身を竦めるのが気配で伝わる。 「あ、ごめん…!起こしちゃった?」 「いや…」 二人の眠るソファは壁に沿って直角に置かれている。 その距離は直ぐ近く、と言っていい位で…ムヒョが寝たまま少し首を傾ければ、十分にロージーの位置を確認することが出来た。 ロージーは窓を背にしている為、表情までは分からないものの、その輪郭はハッキリと見えて…。 身を起こし、こちらを見ているその様子に何やら落ち着かない物を感じる。 「どうした?」 聞けば、ロージーは少し迷ったように口ごもって…。 それから、何やらもじもじした様子で切り出した。
「ムヒョ、あのぉ…側に行ってもいい?」
「…十分近ェだろ」 「……もっと近くに…行きたいんだけど…」 「そりゃ、別に構わねェけどな…。オメェ…覚悟は出来てるんだろうな?」 ヒッヒと笑われ、ロージーは慌てたように手と首をブンブンと振る。 「だ、ダメだよ!それは!ここ、今井さんちの居間なんだよ?!覚悟とかそーゆーんじゃ…」 「なら、そこでおとなしくしてるんだナ」
何せ、10日も離れていたのだ。 そんなことは、この2年の間一度としてなかったことだったから…。 思っていた以上に、何か…乾きのようなものを感じている。 触れたいと思っているのは自分の方こそだと思い、ムヒョは苦笑した。
やっぱ、宿にすりゃ良かったナ…。
そうすりゃ今頃…と思いかけ、ムヒョは慌てて浮かびかけたイメージを頭から追い出す。
余計な考えは自分の首を絞めるだけだ。 「…………」 ロージーは諦めたように、またモソモソとソファに横たわった。 そして、 「…ムヒョ、あのね…」 毛布を顎まで引き上げて潜りながら、また話しかけてくる。 「何だ」 「あのね……ごめんね…」 目を瞑ったままで聞いていれば、唐突に謝られて…。 「何が」 チラリと視線を投げる。 こちらを向いているらしいロージーの顔。 部屋が明るければ、互いに相手をその瞳に映しているだろう。 だが、暗闇なので…。 「いろいろ」 「……いろいろって何だ」 ムヒョは読めない表情を探ろうと、声に耳を澄ました。 「いろいろ…いっぱい。今までのこととか…」 謝罪の言葉に続いているはずの言葉は…けれど、何故か嬉しそうな声で聞こえる。 ムヒョの脳裏に、ロージーの少しはにかんだような笑顔が浮かんだ。 「何のことだか分からねェ」 顔を顰めてブスリと言ってみれば、ロージーはそれにフフッと笑って…。 「ウン、もうホントにいろいろねぇ、ごめんなさいで、ありがとうなんだよ」 「あ?ワケが分かんねェよ」 「分かんなくてもいいんだ」 説明したらきっと、ムヒョはそんな事ねぇとか言って怒るし、等と言われ、思わず返答に困る。
一体、コイツは何をイキナリ言い出してんだ…? 何がごめんなさいで、何がありがとうなんだか……。
「あ、も一個あった!」 ムヒョが黙ったままで天井を見上げていれば、ロージーがパンと手を叩いた。 「…何が」 「言わなきゃってこと」 嬉しげに楽しげにそう言われ、ワケが分からないながらも、何を言うのかと気になってしまう。 「今度は何だ」 聞いてやれば、ロージーはまたモソモソと身を起こした。 そして、テーブルを避けてムヒョの寝ているソファの脇へとやってくる。 「あのねぇ、ムヒョ…」 「………」 何だか勿体ぶった言い方をされ、ムヒョもまた半身を起こした。 近い距離。 窓から入るほのかな明かりに、ロージーの表情が薄ぼんやりながら見える。 「ボクはまだ…キミのこと誰よりも分かってるとか、全然言えないけど…」 真っ直ぐな瞳には、今は笑みの欠片も浮かんではいない。 真面目に、真面目に。 ロージーはムヒョを見つめて…。
「でも…誰よりも一番、ボクがムヒョを好きだよ」
そうハッキリと言った。 「………」 あまりにも唐突なその言葉。 呼吸すら忘れる一瞬。 ムヒョはロージーを、ロージーはムヒョを瞬きもせず見つめる。 空白のようなその沈黙を、先に破ったのはロージーだった。 「ご、ごめんね、ビックリした?でも…一回くらい、ちゃんと言っておきたいなって思って…」 恥ずかしそうにエヘヘと笑いながら…。 きっと…その顔は今、耳まで真っ赤に染まっていることだろう。 そして、恐らく自分も……。 「………アホめ」 「あっ!ヒドイ!」 真面目に言ったのにぃ〜と言うロージーのパジャマを掴み、ムヒョはグイと引き寄せた。 近い近い顔。 暗闇の中、微かな明かりに瞳が光る。 『ムヒョ?』と、自分を呼ぶように動いた唇から、その声を奪うように口付けて…。
「んなこたぁ、言われなくても分かってる」
フンと、尊大な態度で言えば、落ちる一瞬の間…。 そして次の瞬間、ロージーはクスッと笑った。 「そっか…」 クスクスと楽しそうに。 また『そっかぁ』と呟いて、嬉しそうに…。 暗くても、その表情は手に取るように分かる。 もう一度、キスしたものか…やめた方がいいか…と迷い、ムヒョはやめておくことにしてパッと手を離した。 「…いいから、もう寝ろ!ホントに襲うゾ」 言いながら、ゴロリと横になれば、ロージーはアハハと笑って…。 「おやすみなさい、ムヒョ」 「!」 ムヒョの額にチュッと軽いキスをしてから、自分の使っているソファに戻った。 モソモソと、毛布に潜り込む音がする。
「早く…事務所取り戻そうね♪ムヒョ♪」
「オメェに言われなくともそのつもりだ」 最初からナ、と。 それは言わずに。 こんなコトを何日も続けられたら、こっちの身が持たんと少し情けない気持ちで思い、ムヒョは深い溜息をついた。 眠気など、少しも感じない。 鼓動はドキドキと騒いだまま。
『でも…誰よりも一番、ボクがムヒョを好きだよ』
耳にはロージーの声が、言葉が、いつまでも残って…。 全く…人の気も知らねぇで…と、思いながら。 それでも、離れていたこの10日の間に、ロージーは何か二人の関係上に大切なものを得て、いろいろと思う所があったようだと…それを知って…。 潜った毛布の中、ムヒョは満足そうな笑みを浮かべるのだった。
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……あれ。。。? おかしいな。 ロジの心情メインで書きたいことがあったから書き始めた話だったのに…いつの間にやらムヒョさんメイン…(汗) あれ?あれれ?? ううむ…。 まあ、ロジサイド未消化なので、そっちも書こうと思いますが。 (ロジの得たものについて考えたかったんだよ…)
今井さんちの居間(…だったよね?←今更…)に寝泊まりしていたロジたん。 実はそのこと自体が意外で…私的には魔法律学院の一室とかに滞在してたのかと思ってたんですが……あれ?違うのかな? どうなのかな…何か改めて考えると分からなくなってくる…(爆) 目の前だもんねぇ…通ってただけかな? え…、えー、今井さんちに泊まった説で書いちゃったので、まあ、もう、それで……はい、お願いします(爆)
あああ、何かイロイロ語りたいのにタイムアップ(終業時間)だ!!!(爆) とゆことで、それはまたの機会に!(え?)
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2006/03/03(金)/17:29:26
No.18
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