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2. 「ねえねえ♪見て見て♪ムヒョォオ〜〜♪♪」
語尾に大量の音符をくっつけて…。 ウキウキとロージーがムヒョを呼んだ。 どうせまた下らない事だろうと思いながらも、読んでいたジャビンから顔を上げれば、そこには例のぬいぐるみ…。 『ムヒョ』と名付けられたソレが、今日は何やら執行服らしきモノに身を包んでいる。 というより、間違いなく、執行服のつもりなのだろう。 「……………フウ」 「あーーーっ!何でそんな呆れたような溜息つくのさぁ〜っ!」 無言で溜息を付いたムヒョに憤慨するロージー。 「…呆れたようなじゃなく、本気で呆れてんだ。このカス!」 「えーっ、何で何で?ムヒョとお揃いにしたんだよ?!」 よく出来てると思うのにぃ!と唇を尖らせるロージーに、ムヒョは再び溜息を付いた。
「オメェな…その年で人形遊びもねぇだろが…」
言いながら、何だか頭が痛くなってくる。
一昨日はパジャマだったのだ。 昨日はシャツとズボンとサスペンダー。 そして今日は執行服であるマント…。 こうなると、明日辺りはきっと、靴だとか、魔法律書だとか…、そんな小物まで作ってしまう気なのだろう。
ムヒョ的にはその辺は別にどうでも良いのである。 本当は。 ロージーが器用なのも分かっているし、時々コッソリ(本人的にはコッソリのつもり)やっているスーパーハリボテテクにしても、仕事や日常の生活に支障をきたさないのであれば、それは本人の自由。 別段とやかく言う事ではないと、そう思っているのだ。 だが…。 どうも…このクロネコのぬいぐるみに関してだけは、面白くないモノを感じてしまって……。
ロージーが『ソックリ』だと言う度に。 ロージーが自分の名でソレを呼ぶ度に。
イライラが募る。 口を挟みたくなる。
「………出かけてくる」 ブウブウと文句を言っているロージーに突然そう呟いて、ムヒョはソファから降りた。 「え?お出かけ?なら、ボクも一緒に…」 「1人で出かける」 キッパリと言えば、見る間にシュンとするロージー。 「あ………うん…そっか…」 それに、胸が痛むのもまた腹立たしくて…。
クソ…何だってコイツなんだ……。
思わずそんなことを心の中で呟きながら。 「夕飯までには戻る」 「うん、行ってらっしゃい…、気をつけてね、ムヒョ…」 ションボリした声を背に執行服を纏うと、ムヒョはそのまま事務所を後にした。
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ムヒョが再び事務所に戻ったのは17時ちょっと前だった。 室内にロージーの姿はなくて…。 買い物だろう、と思いながらムヒョは執行服を脱ぎ、ソファに投げる。 と…。 向かいのソファに、あのぬいぐるみが座っていた。
「………………」
取り上げてみれば、フワリと柔らかに香る、ロージーの匂い。 何となく、温もりすら残っている気がする。
…むかつく…………。
胸に湧き起こる苛立ちに、ムヒョは顔を顰めた。 それが、ヤキモチ以外のナニモノでもない事は分かっている。 喋らない、動かない、表情だって変わらない、特に何かが憑いているなんてこともない、本当にただのぬいぐるみを相手に…。 別に、ロージーに何かをするワケでもない。 だが、ロージーが可愛がり、あれやこれやと手をかけている。 ソレがひたすら面白くない。 しかも、自分がぬいぐるみ相手にヤキモチ!と、そう思えば情けない気もして…。 そして、そう思うこともまた、苛立ちを増加させているのだ。
捨てたら泣くだろうか、とチラリと思い、苦笑する。
愚問だな…。 あの泣き虫が泣かねぇワケがねぇ。
「……ったく、ホントにメンド臭ぇ奴……」 呟き、フンと鼻を鳴らして…。 ムヒョはぬいぐるみを放り投げた。 ロージーと暮らし初めて早2年…何でもかんでもスグに泣くのにはもう慣れたが、それでもやはり、なるべくなら涙は見たくない。 故意に傷つけるなんて事は以ての外だ。
漂白でもしてシロネコにしちまうか…? ……いや、泣くナ…それも…。
「…ううむ…」 向かいのソファにクタリと倒れているぬいぐるみを見つめ、小さく呻れば、殆ど同時にドアが開いて、ロージーが戻ってきた。 「たっだいまー!あ!ムヒョ、帰ってたの?おかえり〜☆」 ロージーはムヒョに気付くと嬉しそうな顔でそう言う。 「ああ」 それに短く返事をし、ムヒョは近くにあったジャビンを開いた。 だが、目は誌面の上を彷徨うだけ。 チラリと視線を上げれば、 「あ、もう!執行服はちゃんとかけておかなきゃダメっていつも言ってるのに!」 部屋に入って来たロージーが、ソファに脱ぎ捨てられた執行服を見つけて唇を尖らせる。 「…ウルセェ」 「仕事の時、シワになってたら格好悪いでしょ〜!」 もー、ムヒョってば〜!と、買い物袋を床に置いたまま、イソイソと執行服を片づけるロージー。 「………」 その横顔を見上げて…。 ムヒョはニヤリと笑みを浮かべた。
「ロージー、腹が減った」
「え?ご飯…はまだこれからだよ?」 唐突にそう言ってやれば、ロージーは明らかに戸惑った顔をする。 それに内心ニヤリとしながら、表面では軽く眉根を寄せて…。 「何か寄こせ」 催促すれば、ロージーは戸惑いながらも頷いた。 「あ…うん、けど、ご飯前だからちょっとだけだよ?」 「分かってる」 「じゃあ、ちょっとだけ待ってね」 そう言ってバタバタと、買い物袋をキッチンへ運んで…。 脱いだ上着と共にぬいぐるみを部屋へと片づけて…。 エプロンをつけたロージーが室内を慌ただしく移動する。
「……ヒッヒ…♪」
その姿を目で追い、ムヒョは1人満足そうに笑った。
要は、あの瞳が他に向けられる事が気に入らないのだ。 ロージーが自分以外のものに関心を向けていることが。
ならば、余所に気を向けるヒマなど、与えてやらなければいい。
「…覚悟しろよ」 目一杯手をかけさせてやるからナ♪と、少々困ったことを嬉しげに思って…。 また、ヒッヒと笑えば、ロージーが不思議そうに振り返った。 「どうかした?」 ムヒョの考えなど知る由もなく…。 それはそれは、何も知らない平和なお顔。 クッキーの缶を開ける音が、少し間の抜けた感じに響く。 「何でもねぇ、早くしろ」 「そんなにお腹空いたの?珍しいね、ムヒョ」 お皿に盛られて出てくるクッキーをひとつ摘んで…。 「あんまり食べ過ぎないでね。今日はムヒョの好きなハンバーグだよ☆」 ひたすら呑気なロージーに、ムヒョはただニヤリと笑ってみせるのだった。
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ぬいぐるみムヒョ話の続き。 ロジが何かにハマったら、ムヒョさんはきっと面白くないんだろうなぁとか思って…。 つか、ムヒョはあんまりロジのする事に口を挟みませんよね。
もしかしたらもう一回くらい続くかも知れませんが…。 その際はまた読んでやって頂けると嬉しいです。 てか。 このSS、ホントは昨日アップしようと思っていたのですが、思う以上の忙しさでムリでした…。 (てゆか、ホントのホントは一昨日のつもりだったんだよ…) 昨日のブログを読んで覗きに来て下さった方がいたら、本当にスミマセンでした。。。(><)
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2006/02/02(木)/16:48:38
No.14
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