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1☆ ロージーが昼食の買い物に出て1時間と少しが経過して…。 ムヒョがそろそろ空腹を覚え始めた頃であった。
「ねえねえ、ムヒョ〜〜ォッ!見て見て〜!」
ドタバタバターーン!と騒々しい音を立てながら、ロージーが事務所に駆け込んできたのは……。
「…遅ぇぞ。一体何処まで………」
読んでいたジャビンを脇に置き、そう口を尖らせたムヒョの前。 ずいっ☆と……突き出される、黒い何か。 「…んだ、こりゃ?」 焦点の合わない位置にあるソレをロージーの手から奪えば、何やらふにゃりと柔らかな手触りで…。 マジマジと見れば、どうやらネコのぬいぐるみらしい。 真っ黒な、ネコ。 だが、愛玩用に創られた物にしては、目つきが随分と凶悪だ。 「ね?ね?」 ハートマークをあちこちに飛ばしながら、ロージーが嬉しげに覗き込んでくる。
………何が、ね?だ…。
言いたい所を察しつつ、あまり察したくない気持ちにもなって…。 ムヒョが黙っていると、ロージーはウフウフご機嫌に笑いながら、そのぬいぐるみを撫でた。 「ムヒョにそっくりvって思ってさ♪思わず買っちゃった♪」 「…………」 「可愛いでしょ〜?エヘヘへへ♪」 「…………」 嬉しげな嬉しげなロージー。 ムヒョは無言でクロネコのぬいぐるみを見つめていたが、やがて…。 「あれ?ムヒョどうしたの?」
ポイ☆
おもむろにソレを背後へと放り投げた。 「ああああっ!何するのさぁ〜〜〜っ!」 ムヒョーー!と叫びバタバタとソレを取りに走るロージー。 「勝手にオレの名前を付けんナ!」 「もーっ!ムヒョってばヒドイよ!今日からウチの子なんだよ〜!」 拾い上げたぬいぐるみをぎゅううと抱き締め、ぷうと頬を膨らませて…。
……ぬいぐるみだろう…。 何だウチの子って…。
「ウルセェ。んなモンどーでもいいから早くメシにしろ!」 だが、そんなロージーに、ムヒョは呆れ顔でシッシと手を振った。 「んもう!わかりましたよーっだ!お部屋に行こうね、ムヒョ☆」 「だ・か・ら、オレの名前を付けんな!!!」 「えー、ダメ?ソックリなのにぃ…」 「ソックリじゃねぇ!」 クワッと目を歯を剥いて怒るムヒョ。 ロージーは腕の中のぬいぐるみをじいっと見つめる。 そして、
「じゃあ…、トオル…くん?」
何故かちょっぴり赤くなりつつ、怖ず怖ずと聞いてみたり。 「…………」 ムヒョは無言のまま、近くにあったジャビンを投げつけた。
+ + + + +
…まったく! 何が『トオル君』だ! オレの事はイキナリ『ムヒョ』だったクセに!
ションボリと項垂れつつ料理をしているロージーの背をチラチラと見ながら、ムヒョは何だかとても面白くなくて…。 ジャビンのページを乱暴に捲る。
大体、ネコのぬいぐるみなんかを人に似てるとか言いやがって…。 可愛いって何だ、可愛いって…。
自分が子供の姿であり、ロージーにとって『可愛い』と見えるのだろう事は、まあ分かる。 分かりたくはないが、仕方のない事として、一応捉える事が出来る。 だが…やはり、面白くはなくて………。 複雑な男心に、思わず溜息など漏らしたり。
そんな時………。
コンコンと叩かれる事務所のドア。 ロージーが返事をするよりも早く、それはガチャリと開けられ、 「いよ〜、お二人さん、元気か?」 ヨイチが入ってきた。 「ヨイチさん!」 ヨイチはズカズカと上がり込むと、半泣きのロージーに気付くや否や、 「お?どうした?ロージー、またムヒョに苛められてベソかいてんのか?」 女の子を相手にする要領ですいっと顎を掬い、顔を覗いて笑いかける。 「ヨイチさん…」 たちまち、ウルル〜と潤んでくるロージーの瞳。 そんじょそこらの女の子より、よっぽど乙女なロージーの涙に、ちょっぴりドッキリしてしまう。 だが、優しい言葉をかけようとすれば、グサグサと刺さる痛い程の視線に気付いて…。 「…ヨイチ、テメェ何しに来やがった」 「おおコワ!ちょ〜っと触っただけじゃん!」 はいはい、離れますよーと、身を引こうとしたヨイチの手を、けれど、ロージーがハシッと捕まえた。 「聞いて下さいよ〜、ヨイチさん!ムヒョが怒るんですよぉ!」 「へ?」 きょとんとするヨイチ。 ロージーはパッとその手を離し、バタバタバタと自室へ駆けてゆく。 そして、スグにまた戻ってくると、ヨイチに向かって先程のぬいぐるみを差し出した。 「コレ!」 「……え?」 肌触りの良さそうな、クタッとしたタイプのそのぬいぐるみ。 ヨイチはワケが分からず、そのぬいぐるみとロージーを交互に見つめて…。 「コレ、ムヒョに似てると思いません?」 続いた言葉に、目が点になる。
いや、まあ……確かに、似てるっちゃ…似てる…けど。
「ロージー!」 「ボクはソックリ!って思って、で、ムヒョって呼ぼうとしたら怒るんですよ〜」 「……………」 「あったりめーだ、このカス!」 「何で何で?こんなにソックリなのに!」 「ソックリじゃねぇ!」 「似ーてーる!」 「似・て・ね・え!」
「………………アホらし…」
事の成り行きを理解し、ヨイチは深々と溜息を付いた。 何というかまあ、自分は間の悪い時に来てしまったらしい。 夫婦ゲンカは犬も喰わないだっけ?と、そんな事を思いつつ。 「成る程、んじゃあさ☆」 ヨイチはムヒョと言い合っているロージーの手から、ぬいぐるみを取り上げた。 「?」 あれ?と振り返るロージーにニッコリ笑いかけるヨイチ。
「オレの名前にしねぇ?」
「え?」 「オレなら別にかまわねぇよ?ロージーちゃんに呼ばれるんならもー、いくらでもどうぞvってな♪」 ぬいぐるみに笑いかけ、ロージーを見てまた笑うヨイチ。 「え?え?ええと…?」 「ヨイチ、テメェ!」 状況の把握が出来ていない助手と、シッカリ出来ている執行人が、それぞれに違った温度の反応を返す。 それにニヤニヤと笑いながら。 「ボク、ヨイチでちゅよー、ロージーちゃん♪」 ヨイチはぬいぐるみを顔の前に持ち上げておどけてみせた。 「…ヨイチさん、ボクの事バカにしてるでしょ…」 「えー、してないよ、別に。いーじゃんねぇ、可愛くて…ロージーらしいっつーかさ。なあ?」 ムヒョってばケチだよな〜☆なんて言えば、ロージーは何やら複雑な顔で、ぬいぐるみとヨイチを見る。 「あれ?オレじゃダメ?」 わざと人懐っこい笑みを浮かべ、しゃあしゃあと聞くヨイチ。 ムヒョは黙ったまま様子を見守るつもりらしいが、その表情は決して穏やかなモノではない。 「……いえ、ダメってことは…。でも…」 「でも?」
「…ボクの中では、この子はもうムヒョなので…!」
言いながら、かあああっと顔を真っ赤に染めて…。 「だから…ムヒョの名前が…いいんだけど………」 それから、ロージーは訴えるようにムヒョを見つめた。
沈黙が落ちる。
「……チッ……仕方ねぇナ…」
ムヒョは顔を顰めたまま、モソモソとそう言う。 「いいの?!」 「今回は特別だからナ」 「やったーーvvvムヒョ、ありがとーー!大好きvvv」 「バ…ッ、オレはぬいぐるみじぇねぇゾ!」
いちゃいちゃいちゃいちゃ……。
そのまま二人の世界にどっぷりと突入してしまうムヒョとロージー。 邪魔者となってしまった来訪者が、溜息を付きながら退散したのは言うまでもない。
【 2 】 へ続く。 http://www.katakuri.sakura.ne.jp/~kasui/shu2_note/shu2_note/13_14_log.html
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まだ少しだけ続きます。 今日はここでタイムアップ☆ ←終業時間です(笑)
可愛いと言われて喜ぶのはオヤジ共だけですね。 特に小さな男の子は嫌がりますよね、可愛いって言われるの。 可愛いより格好いいと言われたいお年頃なムヒョたん。 ホントはロジより上と信じているナナセですが、マジ子供だったとしても、それはそれで結構イイんだけど……。
ああ、ホントにいくつなのか早く知りたいですねぇ。 いつか飛びっきりのエピソード付きで明かされる事を願いつつ。。。
あれ?何か話と全然関係ないコメントだ…、ま、いっか☆(爆)
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2006/01/26(木)/17:39:48
No.13
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