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雨音が聞こえる。
しとしとと…静かながら、それでいて…耳につくその音…。 そして、その音と同じ位ささやかに聞こえてくる、寝息……。 部屋の奥の小さなベッドを見やり、ロージーはため息を付いた。
ムヒョが目を覚ますまで、あと一日……。
魔法律を執行し、ムヒョが眠りにつく三日間は、いつもとても長く感じられて…。 ともすれば襲う孤独感と静寂に、どうしても慣れる事が出来ない。 「…はあ…」 ロージーはまたため息を付いた。 読んでいたジャビンを脇に置き、ソファを立つと、ムヒョのベッドへ歩み寄る。 足の長い、小さなベッド…。 その横に膝をつけば、眠っているムヒョに丁度目線が合った。
寝てると…ホントにただの子供みたい…。
安らかなその寝顔に、クスリと小さく笑って…。 頭撫でたりしたら怒って目を覚ますかな、等と考える。
ムヒョ、子供扱いすると怒るから…起きるかも…。 でも、明日のお昼だし……。 そうだ、明日のお昼になれば、ムヒョは目を覚ますんだから…。
もうちょっとの我慢だ!と、そう思えば元気になるかと思いきや、逆に何だか切なくなってきた。 すやすやと眠り続けるだけのムヒョ。 待っている自分の気など、知りもしないで…。 ふと、そんなことを考えている自分に気づき、ロージーはフルフルと頭を振る。
ムヒョはお仕事して疲れてるんだから! 休ませてあげなきゃダメなんだ! ボクは何も出来ないから……せめて、疲れを癒す間…静かに寝かせてあげなきゃ…。
「あ…明日のご飯はムヒョの好きな物にするからね!今週号のジャビンも買ってあるよ。リコピンマンの大冒険、今週も面白いよ、それから…」
唇から勝手にこぼれ出す言葉。
「それから、新しいパジャマ買ったんだよ、お揃いの。明日の夜はそれ着ようね、ボクも着ないでるんだよ☆それと……あ、駅前の工事してたトコ、喫茶店がオープンしたよ!今度行ってみたいなぁ…それから…」
静かにしなきゃと思う気持ちとは裏腹に、言葉は後から後から出てきてしまって…。 ジワジワと、涙が浮かんでくる。 ゆらゆらと揺らめくムヒョの寝顔。 言葉に詰まりながら見つめている内、涙はボロリとこぼれ落ちた。
「…ムヒョォ…、静かすぎて……寂しいよ…っ」
ひくっとしゃくり上げて…ロージーはベッドの手すりに額を押し付ける。
「寝言でもいいから…何か、言ってよ、ムヒョ…」
ずっと…。 一人きりになったことがなかった。 子供の頃から、ずっと親元にいたのだ。
ムヒョの元へ来るまでは…ずっと…いつも誰かが一緒にいてくれた。
それを特別なことだと思ったことなどなくて…。 静けさが、こんなに心細さを感じさせる物だなんて、知らなかった。 退屈がどういうものかも…。 待つ身の辛さも…。 何も、知らなかった。 ムヒョが起きるまでの3日は、いつも、この世界でたった一人になってしまったような、そんな感覚に捉えられる。
もし、もしも……このまま、もう二度と…ムヒョが目を覚まさなかったら……。
そんな考えが胸を過ぎり、ぞっとして…。 ロージーはふるると頭を振った。 「…だ、だいじょ…ぶ、だもん…」 ぎゅっとベッドの手すりを握りしめる。 俯いたまま、グスグスと鼻を鳴らしていれば、ふいに僅かな身じろぎの音がして…。 ごつん、と頭を軽い衝撃が襲った。
「…え?」
見れば、すぐ横…。 ムヒョの腕が布団から出ている。
ね…寝返りを…うったの…かな…?
ドキドキと、騒ぐ胸。 起きたわけではない、それは分かっているけれど…。
「…あーあ、ほら、ムヒョってば…、風邪ひくよ…」
涙に濡れたままの顔を、それでも輝かせて…。 ロージーは嬉しそうに、ムヒョの腕を布団の中に入れてやった。 「ふふ♪子供体温だね、暖かいね、ムヒョ」 柔らかな手の感触と、その温もりに言ってみれば、ムヒョが顔を顰め、何かもごもごと口を動かす。 声にならぬ微かな呻き。 けれど、それは確かに『うるさい』と言ったようで…。 何やらエヘヘと笑いが漏れる。 寂しかった気分が、いっぺんに吹き飛んでしまったようだ。 クスクスと笑いながら、ゴシゴシと涙を拭く。 一度泣いたことで、妙にスッキリした気分にもなっている。
「…ムヒョ、明日はカレーにしようか、唐揚げも食べたい?」
ムヒョはお肉好きだもんね、と嬉しげに言って…。 ロージーは「ヨシやるぞ!」と気合いを入れると、ベッドを離れた。
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これ以降、寝てるムヒョに時折話しかけたりしてそうですねぇ。 魔法律執行後、3日間眠り続けるって、側にいる方は辛いだろうな〜とか思うのだった。 きっと最初はびっくりしたよねー、とか思うし。 『ボクがもっと強くなれば…役に立てれば…ムヒョはこんなに疲れないかもしれないのに…』とかって反省したりしてそう…。
てか、ムヒョで初めてのSSがいきなりイロモノは流石に気が引けるので、何か書きたいモノってナイかしら…と思ったらこんな話を思いついたのでした☆ うんうん、これのが最初のSSっぽいよねとか思ったり(笑) もう一個普通の話載っけたら、最初の最初に思いついたプランツドール話を載っけるつもりです☆ (…と書いて、何人の人が意味が分かるのだろうか……。。。あのね、ここオープンさせる前にブログでムヒョロジムヒョロジ騒いでいたのです。それでね、一番初めに思いついた話が…ってーか、何か書いていた話が、プランツドールというお話しの設定を使った、要はイロモノだとゆー事です〜。まあ、詳しくは、書いた時にでも…)
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nanase
2005/12/08(木)/10:54:28
No.1
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