+ スーさんのオトメ☆ +

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傾向; 典芬

1.




スウェーデン国にある、世界で唯一のオトメ養成学園ガルデローベ…。
その広大な敷地の最奥にある水晶宮は、扇のような形をした一風変わった建物で、学園に於ける様々な式典の会場となっている。

今日、その水晶宮では、一人の生徒が卒業を待たずしてマイスターオトメとなるべく、叙任式が執り行われていた。

生徒の名は、ティノ・ヴァイナマイネン…。
パール生の中で成績上位3名のみがなれる『トリアス』の一人で、そのマスターとなる人物は、ここスウェーデン国の王、ベールヴァルド…その人だった。
先代の王が亡くなり、ベールヴァルドが戴冠して既に3年…。
その間、大臣達のいかな進言をも断り続け、オトメとの契約をして来なかった彼だが、ここ最近の世界情勢の不安定さに、ついに決心を固めたのか…、
在学中の生徒に白羽の矢を立て、この度、契約を交わす運びとなったのである。

と、まあ…表向きはそんな話が通っているが…。

生徒達の間では、ベールヴァルドとティノは幼い日に約束を交わし、どちらもがそれを守って…ついにマスターとそのマイスターオトメとして結ばれる日が来たのだと……、
そんなロマンスめいた噂の方が信じられていた。

まあ、その噂の真偽はともかくとして。

水晶宮の入り口から奥へ、真っ直ぐに延びた赤い絨毯…。
今まさに、そこを一歩ずつ、ゆっくりと…。
ティノはベールヴァルドの待つ祭壇へ歩いているのだった。
手にした筺には指輪が一つ。
白銀の台座に収まる青い宝石は、ティノの左耳のピアスに嵌っているのと同じラズーライトだ。
スウェーデン王家に伝わるこの宝石が、これから二人の命を繋ぐ契約の石である。
壇上に上がったティノが、ベールヴァルドの前で跪けば、

「清恋の天藍石…マイスター、ティノ・ヴァイナマイネン」

ガルデローベの学園長バッシュが、厳かにティノの名を呼んだ。
『清恋の天藍石』というのが、この石の持つ名前である。
これから先、ティノはこの石の名をも継ぐ事になるのだ。

「汝は、この者、ベールヴァルド・オキセンスシェルナを主とし、その身を守り、命を共にし、オトメとして己の全てを捧げることを誓うか?」

視線を上げれば、じっと見つめるベールヴァルドの空色の瞳。
いつものように厳しく険しく見えるその瞳は、けれど、何処か少しだけ…いつもとは違うように見えて…。
緊張してるのかな、なんて思えば、こんな時だというのに少し面白いような気がする。
「はい」
ティノがシッカリと頷けば、バッシュもまた小さく頷いた。
「では、汝の授かりしその契約の石を、主へと捧げよ」
「はい」

僕…、ついにスーさんのオトメになるんだ……!

そんな感慨が、今更ながら胸に迫る。
ティノは震える手で慎重に、筺の中から指輪を取り出した。
ベールヴァルドの差し出した左手を取り、その中指にそろそろと指輪を通す。
『スーさんは絶対、僕が守ってみせますからね!』と、そんな気持ちを込めて小さく微笑めば、ベールヴァルドの表情が僅かに和らいだ気がした。

「フィン、おめの力…貸してくなんしょ」

「…ええ、勿論、喜んで…!」
本当ならば「イエス、マスター」と答えるべきだろう。
だが、ベールヴァルドはティノではなくフィンと…いつもの名で呼び掛けたから…。
ティノは頭を垂れ、指輪の石にキスを落とした。
キラリ、キラリと輝くそれぞれの石。
これで契約は成立だ。
わあっと巻き起こる歓声と拍手。

そう、これで、正式に…ティノはスウェーデン国王ベールヴァルド・オキセンスシェルナの
マイスターオトメとなった。


子供の頃の約束が、子供の頃からの夢が、ついに、本当に叶ったのだ。

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