|
30 (Mon) Jan 2006 [no.139] |
|
|
穴だらけのヘヴン☆8 |
|
「聖堂騎士団員ククール」
極力冷たく聞こえるようにそう呼べば、ククールは一瞬ビクリと身を竦めて…。 それから怖ず怖ずとマルチェロを見つめた。 整った顔には大きな絆創膏が1つ。 他にもあちこちに小さな傷が付いている。
「何で呼ばれたのか、分かるかね?」
「……ケンカを…」 口の中を切っているのか、モゴモゴと言いかけ、顔を顰めるククール。 それに眉を顰めて…。 「今月に入って三度目だそうだな」 マルチェロはそう言いながら、室内にいた他の団員達に目で退室を促した。 団員達がぞろぞろと部屋を出て行く。 全員が退室し、ドアが閉まるのを見送ってから…マルチェロは席を立った。 ククールが神妙な顔つきで見上げているのに溜息をついて…。 「全く…」 「ごめんなさい…」 顔を顰めてみせれば怖ず怖ずと謝罪を口にする。 まるっきり子供の顔になっているのが可笑しくて堪らないのだが、ここで笑ってしまうわけにはいかない。 マルチェロはなるべく難しい顔になるよう気をつけながら、ククールをジッと見つめた。 「何のつもりかね?ケンカ騒ぎなど…」 「…だって…」 「だってではない」 「………」 ピシャリと言われ、唇を尖らせるククール。 だって、兄貴、アイツが悪いんだよ、と…そう言う声が聞こえそうな顔だった。
全く、困った奴だな…。
マルチェロは内心苦笑しながら、弟に手を伸ばした。 ぶたれるとでも思ったのか、ククールが一瞬身構えるが、その手は大きな絆創膏の上を触れるか触れないか程度に撫でただけ…。 「こんなに傷を付けて…」 咎めるように言いながら、素早く視線を走らせ、怪我の様子を確かめる。
顎の右側に擦り傷。 唇も切った後があり、左頬には小さな切り傷が3つと擦り傷が少々。 ほお骨の少し上に小さなアザが1つ。 絆創膏の貼られた右頬はやや腫れている。 手にもいくつかの傷。 恐らく、服の下にはもっと多くの打撲傷があるのだろう。
いずれも大したことはないと判断ながら、それでも、今までこんなに傷の付いたククールを見た事はなかったので…、マルチェロは落ち着かない気持ちになって顔を顰めた。 「大きなケガをしたらどうするつもりなんだ?」 「……ごめんなさい…」 団長としてではないその言葉に、ククールは素直に謝る。 それに少し表情を和らげて…。 「回復呪文もまだ覚えていないのだろう?」 「うん、あとちょっと…なんだけど……」 「全く…」 正直に頷く弟に、マルチェロは短い回復呪文を2回程唱えてやった。 柔らかで温かな癒しの光が、目映く室内を照らし、スウウと白く残光を残しながら消えると、もうククールの顔はいつもの通り。 傷1つない、綺麗で滑らかな肌に戻っていた。 「あ…」 驚いたように目を見開き、自分の身体を見回してから…。 「兄貴、これ…ホイミなんて……?」 ククールは信じられないと言った面持ちでマルチェロを見上げた。 「本当なら癒してやるべきではないのだろうがな…」 甘いなと、自分自身に溜息が漏れる。
団長として、本来ならば厳しく接しなくてはならないのだろう。
怪我の痛みもまた反省に繋がるはずなのだから。 ククールとケンカをした相手とて、怪我をしているはずなのだから。 本来ならば、放っておかねばならないのだ。
だが………。
やはり、兄としては…放っておく事など出来なくて……。
「兄貴…あの、ありがと……」 「ククール」 モジモジと礼を言う弟をジイッと見つめて、マルチェロは静かに名を呼んだ。 「はい…」 「ククール、ケンカをするなとはいわん」 「へ?」 「だが、怪我はするな」 「…………」 大真面目な兄の顔を、弟は少し間の抜けた顔で見つめる。
「……ソレ…、団長命令…ですか?」
「団長命令なら、騒ぎを起こすな!だろう」 「…じゃあ……兄貴として?」 「そうなるな」 フウと溜息を付きながら頷いた兄に、ククールはぱああっと顔を輝かせた。 「兄貴ってば、兄貴ってば、オレが怪我したらやなの?」 ウッソー、オレすんごい嬉しい!と飛び跳ねんばかりの勢いでそう聞いて、そのままぎゅうとしがみついてくる。 「こら、ククール…」 離しなさいと頭を押すが、ククールは逆にギュウギュウと腕の力を強めて…。 嬉しそうに幸せそうに笑いながら、 「オレ、怪我しないようにすんね!」 なんて…。 「そんな安請け合いをしていいのか?」 これには、思わず苦笑いを浮かべてしまうマルチェロ。 だが、 「うん、オレ頑張るよ☆」 ニコニコニコニコと満面の笑顔でそう言うククールは、可愛い以外のナニモノでもないから…。 ゴロゴロと懐いている弟に腕を回し、そっと抱き締めた。
−−−−−−−−−−−−−−−−
そのままちゅーして喰っちゃえ!とか、思わず拳を握りしめてみたりしつつ。。。 お兄様の理性が保つか保たないかは、次回であります。 チャイム鳴っちゃったしね…帰らないとね…(爆)
|
|
|
|
|